第41話 少年軍師田豫、曹操の真の狙いを見抜く

「出征するのは久しぶりだ。近頃、押されてばかりだったから、暴れてやろうぜ」

 劉備が遠征軍を編成すると、張飛が意気軒昂としてそう言う。

 劉備はそんな張飛をたしなめた。

「いいか。今度の敵は、あの手ごわい曹操だぞ。大軍をもって、徐州に押し寄せているそうだ。我らの救援が間に合うかどうか、我らの少ない軍勢だけで太刀打ちできるのか、というところだ」

「だったら、なおさら、急いで駆けつけようぜ。向こうに着いたら、敵がいなくなっていたというではつまらん」

「こういう時こそ、どういう情勢になっているのか、冷静に見極めなければならないのだ。どういう方法が、陶州牧殿を救うのに最善なのか。関弟よ。どう思うか? 」

 関羽は答える。

「曹操は、父の仇討と称して、軍を起こしたと聞きます。都市を攻略するや、老若男女問わず、襲撃して、皆殺しにしているとのこと。徐州の民にとっては、大変な厄災となっているようです」

「なんと! 父が殺されたことの怒りを何の罪もない民に向けているというのか! 」

 劉備が目を吊り上げる。

 関羽も、全くひどい話ですと頷く。すると、少年軍師田豫が言う。

「徐州は豊かな土地で、食料も豊富と聞きます。当然、都市には豊富に兵糧が蓄えられており、民も豊富な食料を有しているでしょう。曹操は、民からそれらの物資を略奪するのが狙いなのではないでしょうか」

「うむ? すると、曹操は、父の仇討ちと称しつつ、本当の狙いは、兵糧を奪うことにあるということか? 」

「曹操の弱点はそこです。おそらく、曹操は、大軍を抱え、兵糧に困っています。なので、私たちは、曹操の兵站を突くべきです。兵糧がなくなれば、自ずと、曹操は兵を引かざるを得なくなるでしょう」

「なるほどな……。田豫、やはり、君は賢い。君の一言がなければ、私は道を間違えるところだった」

 劉備がそう褒めると、少年軍師田豫は、うれしそうにうなずいた。

「我が軍は、これより、曹操の兵站を狙って攻撃をかける。さらに補給線を絶って、曹操の軍を飢えさせるぞ」

 劉備の号令の下、劉備軍は、曹操軍の後方に回って、兵站を断つ作戦に出た。

 その途上、劉備は、多くの難民と出会った。いずれも、曹操軍に蹂躙されて、逃げ出してきた者たちである。

 劉備は彼らを保護すると共に、戦える者は、自軍に吸収した。

「曹操から兵糧を取り返そうではないか! 志を同じくする者は、私と共に行こう! 」

 劉備の言葉に呼応して、劉備軍に加わった者は、数千人に及んだ。これほどの軍勢を一気に配下に加えたのは、初めてのことである。

 一気に大所帯となった劉備は、曹操の兵站を突き、兵糧はもちろん、新たに配下に入った兵士たちのための武器や防具も奪って回った。曹操軍の輸送兵と見れば片っ端から襲撃したのである。

 そのころ、曹操は、陶謙の領内の城を十数城も攻め落として、陶謙が籠る居城に迫っていた。

 陶謙が降伏せず、城門を閉ざして固く守っているために、曹操は、これを突き破ることができずにいた。

 そんな折に、後方から兵糧が届かなくなり、兵が飢え始めているとの報告が入る。

「どういうことだ! 城を落とすたびに、兵糧を奪って、十分な量を確保したはずではないか! 」

「それが、何者かによって奪い取られているのです」

「陶謙の手勢は、すべてあの城に押し込めたはずだ! 一体何者だ! 」

「陶謙は、田楷に援軍を求めたと聞きます。その別動隊ではないでしょうか? 」

「むっ! 俺の狙いを見抜いたやつがいるのか! 」

 曹操が唸ると

「兵糧がなくては、戦い続けることは難しいですな」

 と曹仁も言う。

 曹仁は、字を子孝といい、名前のとおり、曹操と同じ一族で従弟に当たる。曹操は陶謙討伐に当たり、最も信頼できる夏侯惇を本拠地の留守に残しており、代わりに、曹仁に別動隊を率いさせていた。

 曹仁は特に騎兵部隊の指揮能力が優れており、この討伐でも、大いに功績を挙げて、曹操の本隊と合流したのである。

「俺が兵站を担当していれば、そんなへまはやらかさんのだが! まったく! あともう少しで、陶謙の首を取れるというのに! 」

 と夏侯淵も憤る。

「やむを得ぬ! ここは一旦、退却し、雪辱を果たそう」

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