第35話 少年軍師田豫、早速、劉備のために献策する
劉備は、その後も平原県を拠点に、田楷の軍と共に、袁紹と対峙していた。
ところが、初平三年(一九二年)に、袁紹と公孫瓚の最大の激戦となった界橋の戦いが起き、公孫瓚が破れて、北方へ後退してしまう。
劉備や田楷としては、公孫瓚との連携が絶たれて、孤立した状態となってしまった。そこへ袁紹が一気に攻勢に出てきたので、劉備や田楷は東の斉へと後退を余儀なくされてしまう。
劉備もせっかく、腰を落ち着けた平原県から、追い立てられるように退去する。
袁紹配下の軍による追撃は、厳しかったが、関羽、張飛、趙雲が良く軍を指揮したために、辛うじて軍を後退させることができた。
夜間になったために、森の中に屯営をこしらえたが、追手の軍勢が、すぐそばまで来ており、厳戒態勢を解くことができない。
「このまま、追い立てられ続けては、兵を消耗してしまう。なんとか、追手を足止めできないだろうか」
劉備がそう言って頭を抱えた時、少年軍師田豫が、何かひらめいたように手をポンと叩いた。
「劉玄徳様、いい考えがあります。こうしてはどうでしょう」
田豫が劉備の耳元で計略をささやくと、劉備は、カラカラと笑った。
「田豫。君は賢いな。やってみる価値がある。早速、取り掛かろう」
劉備は、早速命令を出した。
「馬の糞を集めろ」
というものだった。
劉備軍は、騎馬部隊も多く抱えているため、馬の糞はいくらでもある。そこら中に落ちている馬の糞を兵士たちに命じて集めさせ、山積みにする。
「さあ、これで、敵軍を足止めできるぞ」
劉備と田豫が顔を見合わせてニヤリとする。
関羽や趙雲は無言。張飛は、思わず突っ込みを入れる。
「劉兄。確かに、くせぇけどよ。くせえからと言って、敵が逃げるとは思えんけどな」
「くさいか。枯葉で覆えば、少しは臭くなくなるかな。ついでに、枯葉と枯枝も集めてくれ」
森の中だったために、枯葉と枯枝も大量に落ちている。それらもかき集めると、馬糞の山を覆った。
そして、翌日の早朝、劉備は、出立する際に兵士たちに物音を立てることを厳重に禁じ、ひそかにその場を離れるように命じる。そうしておき、馬糞の山に田豫が火をかけた。
一旦火が付いた馬糞の山は、長く燃え続け、煙がモクモクと上がった。その煙を袁紹配下の追撃軍も目にし、
「あのあたりに、劉備軍が陣を構えて待ち構えているに違いない。警戒しながら、包囲せよ」
と命令が下される。
煙を目印に、追撃軍が、じりじりと包囲網を狭めていく。
「おかしいな。静かすぎる。兵の姿も見えぬようだが……」
斥候が放たれ、煙の原因が、例の馬糞の山であることに袁紹軍が気付いた時には、劉備の軍勢は、数十里も先へと逃亡した後であった。そのために、劉備は、兵の損害を最小限に抑えて、新たな拠点となった斉方面の城に入ることができたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます