第33話 劉備、平原県の行政長官に任命される

 公孫瓚の下で、新たな人材と軍勢を手に入れた劉備は、早速、南下して、青州刺史の田楷の下へ駆けつけた。

 田楷は、正史には名が登場するだけで、どのような人物かははっきりしない。しかし、公孫瓚に信頼された人物であるから、それなりの人物であったのだろう。

 劉備軍は、田楷の軍と合流すると、冀州の牧を称する袁紹の軍勢を圧迫した。正史三国志によると、劉備はたびたび戦功を立てたという。

 その結果、劉備は、公孫瓚から平原県という都市の仮の令、さらに戦功をあげたことにより、相という職を与えられた。相というのは、その領地の宰相と言う意味で、要するに平原県の行政長官に任命されたと解してよい。

 行政府の長官の椅子に座り、劉備は、

「とうとう、俺も、県を支配する立場になったか」

 と感慨に更けた。

 賊軍、袁紹軍との戦いに明け暮れた果てに、ようやく手にした地位である。

「小劉。そんな顔してどうした? まさか、その小さな椅子で満足しちゃったわけじゃないよな? 」

 政庁に長椅子を持ち込んで、だらしなく寝そべりながら、簡雍が劉備の顔を見やった。

「この椅子は俺に似合わないか? 」

 と劉備が訊ねる。

「まるで似合ってないな、小劉。そんな椅子が似合うのは、そこらの平凡な文官だ。小劉に似合う椅子は、一つしかねえだろ」

「ならば、この椅子にも、長くは落ち着けないということか」

「そうさ。ほんのひと時、小休止するためだけの椅子だな」

「まあ、そんなところか。だが、俺は、休んでいる暇はない。これからは、仁政を行って、名をあげる必要がある。戦だけの劉備ではないことを世間に知らしめなければならない」

「そのとおり。加油(頑張れ) 」

「早速、役割分担だ。まず、小簡。お前は……」

「俺は、寝そべり族だから、役所の仕事とかお断りだわ――」

 簡雍はそういうと、いびきをかいて、本当に寝てしまったようである。

 劉備は、その様に苦笑しながら、仕事のできる文官を呼びつけた。文官から仕事の進み具合について報告を受け、新たな命令を伝える。次から次へとくる文官は、そのたびに、劉備の横でだらしなく寝そべる簡雍を何者だろうか怪訝そうに見やったが、簡雍は一向に気にする様子はなかった。

 さらに、劉備は、関羽と張飛を呼び、別部司馬に任じて、それぞれ部隊を率いさせることにした。

 劉備軍の実質的な指揮官である関羽に対しては、言うことはなかったが、新たに指揮官に任じられたに等しい張飛に対しては、劉備は良く言い聞かせた。

「いいか。張弟よ。君は、部下や兵士を、むやみに鞭でたたいたり、斬ったり、刑罰が厳しすぎるところがあるが、そのようなやり方では、いずれ恨みを買って禍を招くぞ。部下や兵士を労わることも考えよ」

「劉兄。そうは言っても、俺たちの部下や兵士は、もともとは、ごろつきどもなんだ。厳しすぎるくらいがちょうどいいんだぜ」

「もともとは善良な民だ。世が荒廃して、やむを得ずに賊に身を落としていただけなのだぞ。とにかく、部下や兵士を労われ」

「ああ、劉兄。分かりました」

 劉兄は甘いんだよな。とブツブツつぶやきながら、張飛は承服する。

 その後も、張飛は、部下や兵士に対して、刑罰や暴力によって、苛烈に接した。今風に言えば、パワハラ上司と言ったところだろうか。それがために、劉備の言う通り、後に禍を招くことになるのである。

 いずれにしても、以前にもまして、大所帯となった劉備軍を直接指揮する役は、関羽と張飛に任せ、劉備の護衛官は、趙雲が担うことになった。

 あるとき、劉備は趙雲に訊ねた。

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