第31話 いよいよ三国志一のイケメン武将趙雲が劉備の配下になる

 公孫瓚は、そういうと、近習のものに「趙雲を呼べ」と命じた。

 やってきたのは、身の丈八尺ばかりの大層な美男子である。容姿が良いだけでなく、規律正しく、根っからの職業軍人と言う感じだった。

 男は、サッと公孫瓚の前にひざまずき、拱手した。

「主公。お呼びでしょうか? 」

「趙雲。そなたの新しい主人を紹介しよう。こちらは、劉備。字は玄徳と言うお方で私の弟分だ。劉弟、この者は、趙雲。字は子龍という」

 趙雲は、眉を一瞬曇らせたものの、すぐに、劉備に向き直ると、

「趙雲と申します。以後、よろしくお願いいたします」

 と拱手した。

 このような規律正しい人間は、今の劉備軍にはいない。

 劉備も慌てて、趙雲に拱手を返した。

「劉弟、趙雲は大変有能な武将だ。君のところの関雲長殿や張翼徳殿にも引けを取らないだろう。重用してやってくれ」

「一人でも多く、有能な部下を欲していたところです。ありがたく迎えさせていただきます」

 劉備が、公孫瓚の前を退出すると、早速、趙雲は、きびきびとした動作で、劉備の後に従った。影のようについて離れず、かといって、主人に干渉しすぎない。ベテランの近衛兵そのものである。

「趙子龍殿」

「はっ。趙雲とお呼びください」

「では、趙雲。生まれはどこかな? 」

「自分の生まれは冀州常山郡真定県であります」

「ほう……。冀州常山か……」

 会話は続かなかった。

 劉備が、宿舎に戻ると、関羽と張飛が迎え出た。

 関羽が言う。

「劉兄。公孫殿から、新たな軍勢を頂いたそうですな。烏丸族の騎兵の集団、よい戦力になりそうですぞ」

「うむ。新たな任務も承った。我らの軍は、青州刺史の田楷殿の救援に向かうことになる。出立に向けて準備を始めてくれ」

「わかりました。しかし、北へ南へと休む暇もありませんな」

「今度の戦で手柄を立てれば、しばらくは、身を落ち着けられるはずだ。皆にそう伝えてくれ」

 張飛は、劉備の後ろに近衛兵のごとく従う趙雲をじろじろと見やる。

「誰だい。この色男は? 」

「張弟よ。失礼なことを言うでない。この方は、趙雲。字は子龍という。我が軍の新たな一員となる」

 劉備は、関羽、張飛と趙雲を引き合わせた。だが、張飛は、胡散臭そうに趙雲を見ている。

「俺たちは、戦場を駆け回る軍隊なんだぞ。こんな顔がいいだけの色男なんて必要ないわ」

「これ! 張弟! 失礼なことを言うでない! 」

 張飛の挑発に、趙雲は平然として答えた。

「自分は、矛、剣、弓、馬術のいずれも、多少の心得はありますが――」

「そうかい。なら、ちょっと試してやるわ」

 張飛がゲラゲラと笑いながら、訓練用の棒を趙雲に放り投げた。張飛も棒を掴むといきなり、趙雲に打ち掛かる。

 張飛としては、不意を突いて叩きのめしてやろうと思ったのだろう。

 しかし、趙雲は、棒をつかみ取るや瞬時に戦闘態勢に入り、張飛の一撃を軽くかわした。

「ほう! 思ったより動けるじゃねえか! 」

 張飛が棒で突き、払い、打ちかかるが、趙雲はすべての攻め手を難なく払いのけた。

「おらおら! 守ってばかりいないで、ちょっとは仕掛けてこいや! 」

「では、遠慮なく。こちらから……」

 趙雲は瞬時に攻め手に転じて、鋭い突き、払い、打ちを繰り出す。張飛もその攻撃を危なげなく払いのける。

「おお! やるな! 面白い! こっちも本気でやるぞ! 」

 張飛と趙雲の攻防は、はてなく続き、どちらも隙を見せなければ、疲れる様子もない。まさに好敵手同士である。

 その様に、劉備は感心し、関羽を見やった。

「関弟よ。趙雲の腕前をどう見る」

 関羽も髭をしごきながら感心した様子である。

「やりますな。張弟と互角、いや、それ以上かもしれせんな。彼は、我らの軍の有力な戦力になりますぞ」

「うむ……。これほどの勇将を公孫兄は、何ゆえ、私につけてくれたのだろう……? 」

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