第30話 劉備、公孫瓚と再会してその勢力下に入る

「あるさ。公孫兄さ」

 そのころ、公孫瓚は、華北において、群雄として頭角を現していた。

 華北では、張純という中山太守などを歴任した、いわば、朝廷の高官が、北方の異民族である烏丸族の丘力居らを引き込んで、反乱を起こすという事件が起きていた。これも黄巾の乱に触発された反乱の一種といってよい。

 公孫瓚は、この反乱を鎮圧する任務を遂行する中で、張純の拠点を奪還し、その兵力を組み込みつつ、勢力を築いていた。

 ただ、張純の乱は長引き、公孫瓚だけでは手に負えない事態となっていたため、朝廷は、漢王室につながる人物で、幽州方面で人望のある劉虞を幽州牧に任命し、その懐柔に当たらせることになった。

 劉虞は、忠実にその任務を遂行し、北方異民族らを懐柔して、張純の首を差し出させようとする。

 一方、公孫瓚は、北方異民族との戦いにより、彼らの性格を知り尽くしていたため、懐柔策など役立たないとして、劉虞のやり方に反発する。劉虞が北方異民族と連絡を取ろうとするのを妨害するという事態にいたり、両者は政策による違いから対立するようになる。

 さらに、そのころ、袁紹も群雄として頭角を現し、華北において勢力を固める過程で、公孫瓚と対立していた。

「すると、公孫兄は、北方異民族と戦いながら、劉虞、袁紹と対立している状況にあるということか? 」

 劉備の問いに簡雍は頷く。

「そうさ。自分に味方する勢力を一人でも多く欲しているだろうな」

「そこで、我らの放浪軍は、公孫兄を助けに行けと」

「そのとおり。窮地にある群雄を救う方が、名をあげられるだろ」

「そうだな……。いや、そうでなくとも、公孫兄が窮地にあるなら、救いにいかなければならない。これは打算じゃなく、義理の問題だ」

 そう言うわけで、劉備率いる放浪軍の行き先は、すぐに決まった。

 公孫瓚が拠点を置いていた薊の城にたどり着くと、劉備は早速、公孫瓚に面会を求めた。

 公孫瓚は、劉備が来たと聞くや、館の門の外まで駆け出てきた。

「おおっ。劉弟ではないか! 久しぶりだな! 」

「公孫兄。お久しぶりです。一別以来、お変わりはありせんか? 」

「私の方は何とかやっている。それより劉弟。君の活躍ぶりは、私の耳にも入っているぞ。あちこちで、賊軍と戦って、戦果を挙げているそうじゃないか」

「いやいや、あちこちに転戦するばかりで、未だに喪家之狗ですよ。既に地盤を固められた公孫兄がうらやましい」

「確かに、地盤はあるが、周囲は敵だらけ。楽なものではない。それより、中に入って休んでくれ」

 それから、劉備は、公孫瓚の館に滞在し、それぞれの近況を語り合った。

 劉備のこれまでの武勇伝を聞いた公孫瓚は、感心して言う。

「たった五百人の義勇軍から身を起こして、世間に名を知られるようになるとは大したものだ。劉弟。君の武勇を私のために貸してもらえないだろうか? 」

「もちろんです。今の私があるのは、公孫兄に盧子幹老師の学舎を紹介していただいたからです。公孫兄のためならば、何なりと力になりましょう」

「既に話したとおり、私は今、北方は、烏丸族などの異民族、内は劉虞と対立し、華北においては、袁紹に圧迫されている状況にある」

「四面楚歌と言うところじゃないですか」

「まあ、そういう状況だな。今のところ、均衡を保っているが、この中で最大の問題は、袁紹だ。袁紹の勢力を何とかして弱めたい。そのためには、袁紹の背後に、袁紹と対立する勢力ができれば、この勢力と同盟を結んで、袁紹に当たれるのだが……。と考えている」

「なるほど、遠交近攻。袁紹を挟み撃ちにするわけですな」

「その勢力を劉弟に築いてもらいたいと考えているのだが、どうだろう」

 公孫瓚の問いかけに劉備は即答した。

「やりましょう。私もちょうど、身を落ち着ける場所を探していたところです」

「劉弟なら、引き受けてくれると思ったぞ」

 公孫瓚は、早速、劉備に、別部司馬と言う役職を与えた。さらに、劉備が率いていた私兵千人余りとは別に、烏丸族の騎兵の集団を兵士として与えている。

「劉弟。君には、この軍勢をひきいて、青州刺史の田楷という者の救援に駆けつけてもらいたい。田楷と話し合ってうまくやってほしい」

「わかりました。田楷殿と共に袁紹に敵対する勢力を築けということですな」

「そうだ。それから、一人、武将を紹介する。ぜひ、君の配下に加えてやってほしい」

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