第25話 劉備はどのようにして軍資金を手に入れたのか?

 劉備と簡雍がそのような話をしている時、劉備の家の前が急に騒がしくなった。無数の馬の蹄の音といななきが響いたのである。

 庭先で稽古をしていた関羽と張飛が真っ先に門のところに駆けつけ、劉備と簡雍も後から続いた。

 商人らしい二人の男が劉備の家の東南の垣根から張り出している桑の木を見上げていた。

 何十頭もの馬を数珠つなぎに連れており、彼らの売り物だと分かる。

「張世平、この桑の木がそうじゃないか? 」

「うん。確かに皇帝陛下が乗る車の蓋のような形をしているな。するとこの家がそうかもしれん。訊ねてみよう」

「おや……、門のところに出ていらっしゃる」

 商人らしい二人の男は、馬を下りると、門に出ていた劉備の下に駆けつけた。

「お訊ねしますが、こちらの家は、劉玄徳殿のお宅でしょうか? 」

 商人が拱手して訊ねたので、劉備も拱手を返して答える。

「はい。私が、劉備と申します」

「おおっ! すると、あなた様が、義を重んじて財を軽んじる義人の劉玄徳殿ですか! 」

「確かに、そのような虚名を博しておりますが……」

「私は、馬の商いをしております、張世平と申します」

「同じく蘇双と申します」

「我らは、劉玄徳殿の御高名をかねがねお聞きしておりまして、劉玄徳殿のために、何か役に立ちたいと思っておりました。本日、お目にかかることができて、大変光栄に存じます」

「それはそれは、恐縮です。あばら家で大したおもてなしはできませんが、まず、お上がりください」

 劉備は、政庁だった部屋に、張世平と蘇双を案内すると、早速、用向きを訊ねた。

 張世平が答える。

「腕に覚えがあれば、劉玄徳殿の下にはせ参じるのですが、我らには、そのような腕前はありません。そこで、我らは、本日引き連れて来ましたわずかばかりの馬と資金を提供したいと存じます」

 張世平の言葉に合わせて、蘇双が背中に背負った重そうな布袋を下ろした。開けてみれば、なんと、銭の山である。

 劉備は驚いて言う。

「それはありがたい話ですが。どうして、私にそのような援助をしてくださるのですか? 」

「実は、我ら、江湖のとある剣客の方に、命を救われましてな。その剣客の方にお礼をしようとしたところ、お礼をするなら、劉玄徳殿にせよと言うのです。俺が生きていて、我らの命を救うことができたのは、劉玄徳殿が俺の命を救ってくれたからだと。だから、劉玄徳殿にお礼をするのも同じだと」

「ははあ……。その剣客と言うのは、もしや……」

 劉備は、傍らに立つ関羽を見やる。

「徐庶殿のことでしょうな」

 と関羽が耳打ちする。

「それに、かねてより、劉玄徳殿のうわさは、我らも耳にしておりましてな。この機会に、お訊ねして、知遇を得たいと思いました。どうぞ、馬と資金をお納めください」

 張世平と蘇双がそろって、拱手すると、簡雍がニヤリとして、劉備に耳打ちする。

「どうだい。果報は寝て待てって言ったとおりになっただろ」

 劉備はうなずくと、

「お二人の御厚意、ありがたくお受けします」

 こうして、劉備は兵士を養い、訓練するための資金を得た。

 関羽の下にいた山賊仲間を正式に劉備の義勇軍に編入して、軍事訓練を始めた。さらに、簡雍が近隣の村々に宣伝して回ったために、腕に覚えのある若者たちが続々と集まり、その数は、五百人ほどまでに膨れ上がった。

 劉備が義勇軍を率いて、どのような活躍をするのかは次回のお楽しみとしましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る