第22話 【正史的解釈】関羽は、なぜ、劉備の仲間に加わったのか?

「今の時代、官位などに何の価値がありましょう。劉玄徳殿は、江湖の人間でもないのに身の危険を顧みず、ある剣術家をお助けになったとか。江湖では、その噂が持ちっきりで、腕に覚えのある者は、誰もかも、劉玄徳殿のために、役立ちたいと願っていますぞ」

「ああ。単福のことか。関雲長殿は、単福にお会いになったのですか? 」

「単福……? いや、その名は、偽名でしょう。あの者の本当の名は、徐庶。字は元直といい、峨眉派と呼ばれる流派の第一人者です。剣術の腕にかけては、江湖で第一ともうわさされ、江湖に身を置いたことがある者なら、徐庶の動向は誰しも耳にするものです」

「――徐庶――。単福の本当の名か」

「それがし、徐庶の命を救った劉玄徳殿にお仕えしたいと願っておりました」

「しかし、いきなり、仕えたいと言われても、私は、自分一人で食うのが精一杯、人を雇う余裕などありません」

「それがし、劉玄徳殿に給料を要求するなどと言う野暮なことは致しません。ただ、お側においていただければ、十分です。あの者たちも――。おい、お前たち出て来い! 」

 関羽が山に向かって叫ぶと、草むらの間から、武装した人間がぞろぞろと出てきた。数十人はいるだろうか。いずれも山賊だと一目でわかる。

「皆の者、こちらにおわすお方が、義人劉玄徳殿だ。挨拶しろ! 」

「おお! 劉玄徳殿でしたか! お会いできてうれしい限りです! 」

 山賊たちが一斉に劉備に頭を下げた。

「この者たちは、今はやむを得ず、山賊に身を落としていますが、もともとは善良な者たちです。劉玄徳殿の下、いずれ、世のため、人のために役立ちたいと願っている者たちです。ぜひとも配下に加えていただきたい」

 さすがに劉備も戸惑わざるを得ない。

「関雲長殿。これだけの人手を集めて、一体、私に何をせよと言うのです」

「義勇軍を結成するのです。まもなく、世は乱れ、戦乱の世となります。その時、劉玄徳殿が我らを率いて、世に躍り出てくだされ」

 戦乱の世となるという、関羽の見通しは、正しかった。程なくして黄巾の乱が起き、劉備は義勇軍を結成することになる。関羽が集めた山賊集団は、その中核部隊となるのである。

 それはともかく、今の劉備には、部隊を養う財力はない。関羽の下にいた山賊集団は、ひとまず、その山にとどまり、関羽のみが、劉備に同行することになった。

 劉備は道すがら、関羽と生い立ちを語り合い、関羽の方が年少と知ったので、お互いに「劉兄」「関弟」と呼び合うことにした。

 関羽は、解県を出て以来、いろいろな土地を旅し、江湖の出来事を見聞きし、様々な体験を積んできただけに、見聞が広い。劉備は、関羽と語り合うことで、世間の様々な情報を得たのだった。


 故郷の涿郡涿県楼桑里では、成長した張飛が真っ先に向かえ出てきた。

「劉兄! 久しぶり! 俺のことを忘れてないよな! 」

「おお。張弟! 大きくなったな! 」

 張飛はもはや、頭をなでなでされるわんぱく少年ではない。背丈は劉備をこしており、肉体労働で鍛えた体は、筋骨隆々としていて、贅肉がない。

 張飛は、劉備の傍らに、見慣れない長身の髭男が矛を携え、護衛官のように侍立しているのをじろりと見やった。

「劉兄。この男は誰だい? 」

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