第21話 長らくお待たせしました。いよいよ、あの三兄弟がそろいました。

「愚か者め! 素直に荷物を差し出せばよいものを、死に急ぐか! あの世で後悔するなよ! 」

 髭の男が、馬を走らせ、劉備に突きかかる。

 髭の男の矛先が狙い違わず、劉備ののど元に迫る。

 劉備はその動きを見切り、身をかわすと共に、髭の男の脇腹をめがけて直刀を横なぎに払う。

 髭の男も素早く、劉備の一撃を矛で払いのける。

 一旦すれ違った後で、お互いに馬を転じて、再びぶつかり合う。

 髭の男が矛で突く、劉備が避けつつ、直刀を繰り出す。髭の男も直刀を避けて、また一撃を繰り出す。

 一進一退の攻防が続いた。

 劉備は、単福から習った越女剣を既にマスターしており、髭の男の繰り出す鋭い一撃を難なくかわしている。

 単福から、長兵器を持った敵と剣で渡り合うときは、敵の指を切り落とすつもりで、手を狙うといい。と教わったことを思い出し、矛を握る髭の男の手を薙ぎ払う。

 が、空を斬った。

「その手筋は、越女剣だな! なかなかセンスがあるが、詰めが甘い! 」

 髭の男は、そう叫ぶと、いったん、ひっこめた矛を再び、劉備をめがけて突き出す。

 劉備は、直刀を旋回させて、かろうじて、その攻撃を払いのける。

 互角……。いや、髭の男の方はまだまだ余裕がありそうだ。明らかに腕前が上だ。このまま戦い続けては負ける。

 と劉備は、冷や汗をかいた。

「ちょっと待った! 二人とも、手を引け! 」

 と声を張り上げたのは、簡雍である。

 その声に、劉備と髭の男は、お互いに身を引いた。

「好漢。お前さんは、さっき、世の中でたった一人の人間を除きと言ったな。念のために聞いておこう。皇帝でもないなら、それは誰だ? 」

 簡雍の問いかけに、髭の男は傲然と答える。

「そのお方は、義を重んじて財を軽んじるお方だ。お前らも聞いたことがあろう。涿郡涿県の義人劉備。字は玄徳殿だ! 」

 簡雍は、劉備と顔を見合わせると、カラカラと笑った。

「何がおかしい! 」

「もう一つ、聞いておくけど、好漢、お前さんは、劉玄徳に会ったことはあるのかね? 」

「ない」

「俺は、会ったことがあるぜ」

「本当か! どこに行けば会える? 」

「そうだな。お前さんの立っているところから、五歩くらい前に進めば会えるな」

「何! もしや……。このお方が? 」

 髭の男が唖然として、劉備を見やる。

「好漢。私が、劉備です」

 劉備が拱手すると、髭の男は慌てて、馬から飛び降りて、劉備の下にひざまずいた。

「お見それしました。それがし、司隷河東郡解県の生まれ。関羽、字は雲長と申します。訳があって、故郷を出奔し、江湖をさまよっていましたが、劉玄徳殿が義人であると聞き、お仕えしたいと思い、探し回りましたが、資金が尽きて、ここで山賊稼業で口過ぎしていたところです。本日、思いかけず、巡り合うことができました」

 劉備も慌てて、馬から飛び降りると、髭の男――関羽――を助け起こした。

「私は、義人などと言う虚名を博しておりますが、無位無官のつまらない人間です。そう、頭を下げられては困ります」

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