「小説正史三国志 蜀書編」 歴史書たる正史をライトノベル小説として、まじめにサクッと読みたいあなたへ、眠くならず、読める読み物を提供します。
第20話 劉備、故郷への帰り道で、立派な髭をした盗賊に行く手を遮られる
第20話 劉備、故郷への帰り道で、立派な髭をした盗賊に行く手を遮られる
ともあれ、劉備たちの学生生活はこのようなものであった。
やがて、盧植が、再び、朝廷に出仕することになり、学舎は盧植の高弟達が一部引き継ぎつつ、徐々に縮小された。
公孫瓚も、役所から仕事に戻るように命じられたため、学舎を去った。
去り際に公孫瓚は、劉備に、
「劉弟、困ったときは、いつでも、私のことを訪ねてくれ」
と言って、別れを惜しんだ。
無位無官の劉備は、その後もしばらく学生生活を謳歌しつつ、様々な人物と出会い、人脈を広げていたが、学費が底を尽きたのを機に、故郷に戻ることになった。
「銭、銭、銭……。今の世の中、何をするにしても、銭が必要だな」
劉備は、馬に揺られて、故郷に向かう道すがら、そうつぶやく。
「全くだ。学ぶにも銭が必要。役人になるにも、銭が必要だ。今や役職は、銭で買う時代だからな」
簡雍も応じる。
「結局、銭のない俺たちは、村人として人生を終えるのだろうか」
劉備が溜息をもらすと、劉徳然は、
「私は、盧老師の学舎でいろいろな人と出会い、様々な人生があることを知ったけど、やっぱり、私は故郷の村でつつましく暮らすのが身の丈に合うと思ったな」
と言う。
劉備は、劉徳然のようなつつましい考え方は持っていない。
故郷に戻って、母と共に草鞋を売ったり、むしろを編んだりして生計を立てる日々はもううんざりだと思っている。盧植の学舎では、公然と口にすることはなかったものの、劉備の夢は、少年のころから全く変わっていない。
「皇帝になること」
そのためには、「役人になる」などと言う選択肢も、劉備にはない。
役人として出世しても、うまくいって、皇帝の側近になれるだけた。皇帝になるためには、自ら国を建てる以外に方法はない。
そのためには、自分を皇帝として担ぐ臣下が必要になる。
臣下を集めても、彼らは、ただ働きしてくれるわけではなく、やはり、銭なり土地なりを与えてやらねばならない。
「結局、銭の問題だな……」
劉備はまたも溜息を洩らした。
故郷に向かう山を通り越そうとした時である。劉備たちの行く手に男が躍り出た。
「お前たち、ここを通るなら、通行料を置いていけ! 」
そう叫んだ男は、劉備と同じ年頃の若者と思われたが、背が高くがっしりした体つき。見事な髭を生やしていて、貫禄があるため、劉備たちよりも一回り年上のようにも見えた。矛を手にし、完全武装の騎馬武者姿である。
「俺たちは貧乏学生で、銭が尽きたから、故郷に帰る途中だというのに、通行料など払えるわけないだろ。大体、天下の公道に陣取って、通行料を支払えとは何様のつもりだ! 」
簡雍がそう言い返すと、髭の男は、
「世の中でたった一人の人間を除き、学生だろうが、役人だろうが、皇帝だろうが、ここを通る者は、俺に通行料を置いていく決まりなんだ。銭が払えないなら、お前たちの持ち物全部おいていけ! 」
と叫んで矛を突き出す。
この時代に限らず、中国の山々には、道行く人々の荷物や金目のものを強奪する山賊が跋扈していた。そのため、役人たちが重要な物資を輸送するときは、たくさんの兵士を同行させたし、民間の商人でも、鏢局と呼ばれる警備輸送業者を利用して、物資を送っていた。
旅人たちも、山賊が出没する地域では、それなりの武装をしつつ、なるべくまとまった人数で行動するのが普通で、少人数で、山道を通り抜けるのは、山賊に襲ってくれというようなものだった。
劉徳然は震えあがり、懐を探って、わずかばかり残っている銭を差し出そうとする。
劉備はそれを制して、髭の男と向き合った。
「断ると言ったらどうする? 」
「見れば分かるだろう。この矛が黙っていない」
「そうか。私も、無駄に直刀を差しているわけではないぞ」
劉備はそう言いつつ、直刀を抜き放つ。
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