「小説正史三国志 蜀書編」 歴史書たる正史をライトノベル小説として、まじめにサクッと読みたいあなたへ、眠くならず、読める読み物を提供します。
第17話 劉備が助けた江湖の武芸者は、なんと、あの人だった!
第17話 劉備が助けた江湖の武芸者は、なんと、あの人だった!
「これは珍しい毒にやられていますな。南方の異民族が使う毒です」
「南方の異民族ですか? 」
盧植が首をかしげると、呉普と呼ばれた医師はうなずく。
「さよう。江湖では、五毒などというそうですが、要するに、蝎、蛇、蜈蚣、蟾蜍、蜘蛛などの毒を混合して作り出した毒です。まあ、ご安心ください。私の手にかかれば、解毒は難しくありません。今から薬を調合しましょう」
呉普はそう言いながら、薬箱から様々な薬草を取り出して、調合を始める。
その間、簡雍は、劉備を引っ張って部屋の外に出た。
「小劉。やっぱり、あのケガ人は、江湖の人間らしいぞ」
「小簡。江湖の人間だと何か問題あるのか? 」
「あるさ。江湖は生き馬の目を抜く厳しい世界だ。敵だと見れば、周りの人間が巻き添えを食らおうとも、容赦なく攻撃するものだそうだ。あのケガ人の敵がまだ生き残っていて、ここに運び込まれたことを知ったら、襲撃して来るかもしれないんだぞ」
「小簡、考え過ぎだ。俺たちが、あの男をここに連れてくるまでの間、誰かに後をつけられたとでもいうのか? 」
「そりゃ、誰かが後をつけている様子はなかったけどな」
そんな話をしている間に、盧植と呉普が部屋から出てきた。
「劉備や。呉普先生が薬を調合してくださった。三日三晩、薬を飲ませれば、毒は消えるそうだ。あの男が目を覚ましたら飲ませてやりなさい」
「はい。分かりました」
中に入って改めて男を見やると、男は、劉備や簡雍と同じくらいの年頃のようである。背はそれほど高くないものの、全身の筋肉は、馬の脚のように固く引き締まっており、贅肉は全くない。相当に鍛え上げていることは一目瞭然だった。
頭はぼさぼさで、顔じゅう髭に覆われている。
劉備がその顔を覗き込んだとき、男がはっと目を開いた。
「気が付いたか? 」
「こ、ここはどこだ……」
「安心しろ。君は、小川のところで倒れていたんだ。私たちが見つけて、連れてきた。ここは、私たちの宿舎だ。君に危害を加える者はいない」
「お、俺の剣、剣は……」
「君の剣もあるぞ。小簡、もってきてやれ」
遠くからおっかなびっくりに観察していた簡雍がテーブルに置いてあった剣を劉備に渡した。
劉備が手渡すと男は大切そうにその剣を抱えた。
そして、起き上がろうとするが、たちまち、苦しそうに胸を抑える。
「医師の先生によると、五毒とか言う毒にやられているそうだ。三日三晩、薬を飲めば回復するらしい」
「五毒……。やっぱりそうか……。あの卑怯者め……」
「まあ、無理しないで寝ていろ」
「しかし……、君たちに……迷惑がかかるかもしれん」
「どういう事情があるのか知らないが、ここなら安心だ。誰かに後をつけられたということもないようだ」
男は、鋭い眼差しで部屋の隅から隅まで見やった。それから、物音を聞くように目を閉じて耳を澄ませた。
「ここは、学校か何かか? 」
「盧子幹老師の学舎だ」
「なるほど……。俺が学舎にいるなどと……、ふふっ……、誰も思いまい。安心だ」
男が自嘲地味に笑う。
「さあ、薬を飲め」
「かたじけない……」
男は三日三晩、劉備の部屋で寝起きすると、すっかり良くなったようである。
髭を剃り、髪を整えると、劉備たちと同じ年頃のなかなかの美男子になった。
「劉玄徳殿。すっかりお世話になった」
「そういえば、まだ名を聞いていなかったな。名乗りたくなければ、無理しなくてもよいが」
「それがしの名は……。単……。単福と申す」
「単福殿か。よい名前だな。こっちは、私の親友の簡雍だ」
簡雍も警戒心を解いて単福と名乗った男に挨拶する。
単福はまだ、足取りはふらついていたが、劉備たちと共に宿を出ると、盧植が授業をやっている部屋に向かった。
盧植が経書を音読し講義する声が響く中、単福は、劉備や簡雍と同じ席に座る。
単福は、こういう場所が珍しいのか、周りをキョロキョロと見るばかりで、盧植の講義内容にも、チンプンカンプンの様子である。
「学問か……。いずれ、俺も学問をしてみたいものだ」
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