第9話 戦え! 奮い立て! 劉璋様のために!
劉璋とて、暗愚だと言われた挙句、兵を差し向けられて黙ってはいない。
「老いぼれ趙韙め! 私が暗愚なのかどうか、その濁った目でよく見ておけ! あの世で後悔するなよ! 」
劉璋が奮い立ったことに群臣たちも意外の念に打たれたが、とにかくも、劉璋の出陣命令に応じて、趙韙の軍勢に立ち向かった。
劉璋の下には、自らの子である若き勇将劉循、勇猛果敢な忠臣の張任といった名だたる武将が既にいた。彼らは、劉璋の号令の下、前線で兵士を指揮し、趙韙の軍勢を突き崩していく。
中でも、奮戦したのが、東州兵である。
彼らは、趙韙の下から逃げ出しただけに、この戦が趙韙の勝利に終われば、自分たちの処遇がどうなるか知れたものではない。
「戦え! 奮い立て! 劉州牧様のために! 」
劉循、張任らの指揮する精強な軍勢と東州兵が力を合わせて奮戦したことにより、もともと寄せ集めでしかなかった趙韙の軍勢は散り散りになる。
「劉璋は暗愚だというが、どうしてなかなか優秀じゃないか」
「趙韙の奴のデマに惑わされた俺たちがバカだった」
「趙韙と一緒にいたのでは、後でどんな処罰を受けるか知れたものではない。さっさと逃げよう」
州の豪族たちは、そう密談を交わすと、さっさと戦場から離脱してしまう。
中には、趙韙の首を差し出して身の安泰を図ろうと考える者も出てくる。
龐楽と李異という武将は、趙韙の陣を強襲するや趙韙を斬殺し、劉璋に降伏してしまった。
こうして、趙韙らの外征主張派の勢力は弱まり、劉璋は、乱世にあって、蜀の地を比較的平穏に保てるようになった。
平穏な蜀の地には、その後も多くの人々が流れてきた。
中には、後に劉備の配下となるような有能な人物もいる。劉璋は、これぞという人物がいると採用して役職につけた。
司隷扶風郡(現在の陝西省)から流れてきた法正、孟達。
元々は朝廷の高官でありながら、中原をさまよった挙句、揚州、交州と、中国大陸を大回りして逃避行を続けた挙句ようやく蜀にたどり着いた許靖。
劉備が荊州に来た時に、劉備のことを拒絶して、交州へ逃げ、更に蜀の地に逃げ込んだ劉巴。(結局、劉備に仕えることになる)
このほかにも様々な人物が蜀に流れてくる。
一方で、元から蜀にいた人物もおり、蜀の地で生まれ育った王累、黄権などの役人もいる。
地元で採用され、蜀の役人になった者たちは、それほど、不満を口にしないものの、外から入ってきた有能な人物は、大した職を与えられず、不満を募らせるようになる。
彼らは、乱世を直に体験しているだけに、未だに、
「私は漢王朝に任命された州牧である。蜀を平穏に治めるのが私の務めである」
などと時代遅れの感覚で政治を行っている劉璋にあきれ返る。
「のほほんと蜀に腰かけているだけでは、いずれ、誰かに奪われるわ」
「全くだ。我らが主公は、今が乱世だということを知らなすぎる」
「他によい主公はいないものかなあ……」
法正、孟達の他、成都出身の張松まで不満グルーブに加わる始末である。
そんな不満グルーブの前に綺羅星のごとく現れたのが、劉備玄徳と諸葛亮孔明だった。
さて、次回からは、劉備が入蜀するまでの物語を追っていこう。
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