猫の手を借りるイタリア男の結末

出っぱなし

猫の手を借りるイタリア男

 拙作ワインエッセイ『神の血に溺れる』第一部と第二部の間の話だが、短い期間だけイタリアを旅したことがある。

 その話のごく一部をKAC20221「二刀流」で少し触れた。

 今回、もう少し掘り下げてみよう。


 イタリア・トスカーナのワイナリーに滞在しながらブドウの収穫などを手伝い、ワインを楽しんで過ごしていた。

 収穫も一段落し、ワイナリーの責任者の幼馴染のイタリア人の男の車に乗せられ、僕たちは他のワイナリーにも遊びに行った。


 トスカーナの有名ワイン地区はいくつかある。

 キャンティ・クラシコ、ブルネロ・ディ・モンタルチーノ、モンテプルチアーノなどなど、である。


 今回は、キャンティ・クラシコの名門カステロ・ディ・アマを訪れた時の話だ。


 ワイナリーの歴史は1970年代創業とそれほど古くはないが、アマのキャティクラシコの畑は18世紀には銘醸地として文書に登場するほどだ。

 かつては要塞化された城だったが、アラゴンの侵略により破壊され、18世紀初頭に再建されている。

 その建物が現在のワイナリーの所有物になっている。


 小高い丘の上にあるアマという小さな村へと僕たちはやってきた。

 見渡す限りのブドウ畑、時の刻まれた石造りの建物の前に車を止めた。

 

『ニャーン』


 車から降りワイナリーの玄関口へと向かうと、しっぽをピンと立てた黒縞のネコが出迎えてくれた。

 手を差し出すとスンスンと鼻を当てる。


「あら、いらっしゃい? 観光かしら?」


 ワイン売り場の奥から褐色肌のイタリア美女が、口元に柔らかい笑みを浮かべながら現れた。

 ややイタリア訛りがあるが、僕でも聞き取れる英語だった。


「ああ、そうさ。てっきり、こちらの美人さんに接客されるのか思ったよ」

『ニャーン』


 とイタリア男のジョークに、タイミングよく足元のネコが答える。

 イタリア美女も思わず笑い、猫の手を借りた結果、掴みは良かった。


 イタリア美女にワイナリーの案内をされて、僕たちは気分良く堪能できた。

 ワインの貯蔵蔵や目の前に広がる畑が、最高の区画のベラビスタだとも教えてもらった。

 ここのワイナリーは芸術にも力を入れていて、敷地内にあるミニチュアの万里の長城を見て楽しんだりした。

 そうして、テイスティングを最後に楽しむ。

 

「せっかくだから、美人な君と一枚取りたいな」

 

 イタリア男は、イタリア美女との写真を僕に取るように言った。

 イタリアの男というのは、息をするようにナンパの言葉が出てくる。

 美女が目の前にいて口説かなければ、逆に無礼だというように。

 

 イタリア美女もまた、こんなことは慣れたものなのか、あっさりと流され僕たちは帰宅の時間となった。


 猫の手を借りた結果、ワイナリー見学は楽しめた。

 しかし、ナンパは空振りだった。

 が、イタリア男はめげない。 

 新たな美女が目の前に現れれば、挨拶のようにナンパをするのだ。


 これがネコよりも気ままで陽気なイタリア人なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫の手を借りるイタリア男の結末 出っぱなし @msato33

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ