猫妖精(ケット・シー)の手を借りた結果
夕闇 夜桜
そこには、猫(妖精)もいた
『猫の手も借りたい』とは、とても忙しく、誰でもいいから手を貸して手伝ってほしいことの例え――である。
☆★☆
『なぁ』
「ごめん、今それどころじゃない」
構ってほしいのか、何か用事でもあるのかどうかは分からないが、猫――ではなく、
だが、そう返すだけでバタバタと慌ただしく動く彼女に、
――こいつは、ここ最近ずっと同じことをしている。
疲れた様子で、休むことなくバタバタと動き回っている。
今後、頭を動かすことも含め、少しでも休めばいいのに、彼女は休むことなく動き回っている。
休まないと倒れることを示唆しても、彼女が動きを止めることは無かった。
『お前のソレ、何の役に立つんだ?』
「さあね」
でも――と、彼女は言う。
「数人の人間と、この国の命運とかにも関わりかねないから。だから、後悔しないように、色々と準備してる」
私も無関係じゃないから、と最後にそう付け加えると、彼女は再び作業に戻ってしまった。
☆★☆
――人間たちが、何やら言い合っている。
契約獣である
だが、それも最初のうちだけだった。
ある男が、これまたある少女――令嬢に、言い掛かりをつけたのである。
婚約破棄だのいじめだの、そんなことを口にしていたが、契約主の少女はそれを冷めた目で見ていた。
「こんなの見てても、つまんないよね」
そう言いながら、頭を撫でてくる手は優しかったが、声はどことなくこっちに向けられていないようにも聞こえた。
「こっちには、証拠があるんだぞ」
「証拠、ですか」
そして、証言者として、少女が呼ばれた。
ここ数日、少女が忙しかった原因――きっと、このための準備だったのだろう。
契約主が数枚の紙を男へと差し出せば、ニヤリと男は笑みを浮かべ、言い掛かりをつけらていた令嬢だけではなく、この場に居合わせた全員に見せるかのように、その内容を示す。
だが、契約主は特に気にした様子もなく、次に令嬢に向かって、数枚の紙を渡す。
それを見たのだろう。深く溜め息を吐いたのかと思えば、令嬢は『これ、他に知ってる人は?』と、少女に確認する。
「あくまで、そこに書かれているのは、調べたうちの一つに過ぎません。その他、すべての事柄については、父を通じて、陛下に提出させていただきました」
「なっ……!」
「あら……」
調べるのは手伝ったが、二人に手渡されたのがどの情報なのかも、少女にしか知らない。
そんなことされたからなのか、自分の扱いに納得いかないのかは分からないが、男が
「つまり、最終的な判断は陛下がなさると」
「はい、そのようにさせていただきました。私の判断で、父や家を陥れるわけにはいかなかったので」
契約主である少女の家は貴族ではあるが、派閥としては中立である。
だがそこに、男が所属する派閥、令嬢の所属する派閥のどちらかと関わってしまっては、敵意等を向けられかねない。
そのための判断でもあった。
「まあ、私は別に、どっちの味方でも無いんだけどね」
きっと、物凄く小さな声だったのだろう。
でも――
『オレの情報、役に立ったか?』
「そうだね。――ありがとう」
こっそりと聞いてみれば、頭を撫でながら、同じぐらいの声量でそう返される。
どうやら、彼女の望む結果とまではいかなくとも、面倒なことは回避できたらしい。
そして、彼や彼女たちがどうなるのかは陛下次第――と、少女は言う。
その後のことなんて、
あんなことがあったにも関わらず、パーティーは仕切り直して行われることになった。
きらきらする会場と、いろんな音楽が流れる、多くの人間たちがいる場所――それが、
☆★☆
――今日は本当に大変だった。
小さくあくびをした
慣れない場所に連れてきたためか、本人(本猫?)は気づかずに緊張していたのかもしれない。
「……」
これは、
どうすることが最善なのかを考えた結果、情報を集めることにした。
彼らの言動。
令嬢の言動。
それ以外の言動。
そして、その結果が本日彼と彼女によって引き起こされた件だ。
本当なら、結果は最後まで見るべきなのだろうが、この件に関しては放っておいても噂が出そうなので、その時に知れば良いとは思う。
「よぉ、功労者」
「あら、珍しい」
少女は声の主に、本気で珍しそうな目を向ける。
「功労者が、こんなところに居ていいのか?」
「いいよ、別に。それに、私は功労者じゃないから」
ただ、情報を集めただけだ。
功労者というのであれば、有りもしない罪をでっち上げられそうになった彼女の方だろう。
キレることなく、限界ギリギリまで耐えた彼女こそ、功労者と呼んでも良いのではないのだろうか。
「まあ、私だけじゃ、あそこまで集められなかったから、感謝かな」
誰に、という主語は無いが、少女の視線と優しい声色で、彼女が誰に向かって言っているのかなんて、簡単に想像できる。
「それで、影の功労者様はおやすみ中?」
「そうだね。思ったより、疲れたみたい」
少女が撫でていれば、自分も撫でたくなったのか、声の主の手が右往左往する。
「撫でる?」
「いいのか?」
「そっとね」
全部が全部、そうというわけではないが、この
だが――
『――ッツ!?』
何かを察したのか、飛び起きるかのようにして、周囲を警戒する
「……あらら」
「……」
少女は苦笑いするが、声の主はそれどころではない。
せっかくの触れるチャンスが、まさるかの
「またいつかリベンジしてやる……」
「頑張れ」
そう労えば、『それじゃ、呼ばれてるから』と声の主は去っていく。
『何だったんだ、あいつ』
「さあね」
少女としては、別に話しても良かったのだが、自分まで警戒されては大変である。
「それじゃ、帰ろうか」
パーティーの終わりを判断した少女は、
猫妖精(ケット・シー)の手を借りた結果 夕闇 夜桜 @11011700
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