チートアイテム《猫の手》を手に入れた

宇枝一夫

金もアイテムも招き放題よ!

 様々なダンジョンを有する《ボイド山》。

 

 盗賊の《ソマリ》も一攫千金を夢見て毎日のようにダンジョンに潜るが、めぼしいものは見つけられず、疲れた体を引きずるように出口へと歩いて行った。


「あ~あ、今日も空振りかよ。やっぱ一人でダンジョンに潜るのは無理があるのかなぁ~。だからといってパーティー組んでもお宝は均等に分けられるから実入りは少ないし……って、やべぇ、迷っちまったか?」


 ソマリはマップにない通路に迷い込み、やがて扉を見つけた。


「なんだこの扉? いや、隠し通路なら隠し部屋か? ならお宝が! おっと慌てるな。まずは罠を調べないとな」


 長い時間かけて罠と鍵を解除し、扉を開けると小さい部屋があった。


「なんだこれ?」


 奥の祭壇の上には右前足をあげた白猫の置物と、左前足をあげた黒猫の置物があった。


「なんかしょぼいな? でもあんなに手こずったドアの中にあったんだし、《魔眼鏡まめがね》にも魔力が感じるから値打ち物かもな。よし! 鑑定屋のおっちゃんに調べてもらうか!」


 麓にある《コトンの街》へ戻ったソマリは意気揚々と鑑定屋に入り、親父に鑑定をお願いするが……。


「ソマリよ。こりゃただの猫の置物だぞ」


「へっ?」


「ボイド山が異界へ通じとる噂は知っとるよな? どうもこれはどこか別の世界の民芸品じゃ」


「……とほほ、また空振りか」


「……いや待て? こいつは?」


「どうしたおっちゃん?」


「二体とも底に封印がしてあるぞ。なになに……


『もし貴公が助力を欲するのなら、以下の言葉を述べよ……』


と書いてある」


「おいおい大丈夫か? 開けたら悪魔ならぬ猫の魔物が現れるとか?」


「とりあえず《透視眼鏡とうしめがね》で調べてみるぞ……。どうやら中に何か入って……猫の足のグローブか?」


「なんじゃそりゃ?」


「白猫の置物には白のグローブ、黒猫には黒のグローブが入っておる」


「グローブか。盗賊は手が命だからな。とりあえずもらっとくか。おっちゃん、取り出せるか?」


「うむ、ならばこの封印に手を置き、次の呪文を唱えてみよ」


 ソマリは二つの封印の上に手を置いた。


「いいぜ」


「ではいくぞ。『猫の手も借りたい』」


『猫の手も借りたい!』


『ニャァ~~!』

『ニャァ~~!』


 と猫の鳴き声が聞こえると、二体の置物は光の粒となって消えた。

 後に残ったのは猫の足の形をした白と黒のグローブと、二枚の紙であった。


「おっちゃん。なんて書いてあるんだい?」


「ふむ、白のグローブをはめると金をつかみ、黒のグローブは魔除けになるみたいだな」


「へぇ~! すげぇじゃん!」


「あとは……あくまで『猫の手を借りたい』状況のみ使うようにだと」


「さっきの呪文もそうだけど、『猫の手……』ってどういう意味だ?」


「ふむ、異界では助けが欲しい状況をそう表現するらしい」


「はははっ! それじゃ俺にピッタリじゃねえか。ダンジョン潜っても魔物に追いかけ回されるか、空振りに終わるかだもんな」


「ほかにもいろいろ書いてあるが、訳しておいてやる。明日また来い。ただ……」


「ただ?」


「この紙に書いてあるようにあくまで必要なときだけ使えよ。微弱ながら呪いの気配もある」


「ありがとよ。明日取りに来るわ」


 ― 翌日 昼前 ―


 ソマリは鑑定屋の親父から白と黒のグローブと訳してもらった紙をもらう。


「さすがに街中で装備するのは恥ずかしいな。ダンジョンでつけるか」


 ― ボイド山 あるダンジョンの入り口 ―


「よし! いくぞ!」


 グローブを装着したソマリは、力強くダンジョンの中へ入っていった。


「……だいぶ潜ったな。そろそろ使ってみるか」


 ソマリは白のグローブを装着した右手を掲げた。


「……さすがに何も反応ないか。ん? この気配?」


 ソマリの五感はダンジョンの奥からやってくる魔物を感じた。


「《スケルトン(骸骨戦士)》!」


 二体のスケルトンがソマリに気づき、一目散に向かってきた!


「慌てるな。確か黒のグローブには爪が!」


 左手を掲げると、黒いグローブから一メートル以上ある黒い爪が五本伸びた!


「てえりゃあぁぁぁ!」


 左手の爪でスケルトンをなぎ払うと


“バキバキバキィ!!”


 一瞬でバラバラになった。


「す、すげぇ。一振りでスケルトン二体をバラバラに……ってあれ?」


 右手が勝手にスケルトンの盾を指していた。


「この盾……。魔眼鏡で調べると防御の魔法が少し残っているな。ないよりマシか」


 こうして魔物を見つけると右手の盾で防御し、左手の爪で攻撃し、難なく倒していった。


「ハッハッハ! 今までの苦労が嘘みてぇだな。そろそろ右手を……こっちか!」


 右手が示す方角を歩いて行くと、行き止まりの床の隅に宝石が付いた指輪が落ちていた。


「うっそお~。全然気がつかなかった。やっぱコイツはすげぇや!」


 そして強そうな魔物のそばを抜き足差し足でやり過ごしたり、落とし穴にはまっても爪を壁に引っかけて落ちるのを防いでいた。


 さらにはランタンの火が消えた暗闇でも、はっきりと通路が見通せた。


「すげぇ! さすが猫だぜ!」


 こうしてお宝を手にしたソマリは、今度こそ意気揚々で鑑定屋の門を叩いた。


「ソマリか、景気が良さそうじゃな?」

「ああ、早速鑑定たのんまぁ!」


 これまでの最高額で買い取ってもらったソマリは自然と頬が緩む。


「ソマリよ、わかっているだろうが使いすぎは……」

「わかってるわかってるってば!」


 しかし人間欲が出ると、忠告なんか聞かなくなる。

 ソマリは毎日のようにダンジョンに潜りお宝をゲットしたが、同時に体に異変を感じていた。


「ふあぁ~! 最近やたら眠いな~。いくら寝ても寝足りないぐらいだぜ」


 さらに……。


「なんか最近、川魚が食いたくなるな。ま、たまにはいいか……」


 さらには!


「せっかく懐が温かいのに、歓楽街に行ってもお姉ちゃんに興奮しねぇ……なんでだ?」


 さらにはさらには!!


「おかしい! 今まで猫のさかりの声なんか睡眠の邪魔だったけど……逆の意味で眠れねぇ!」


 ― そんなある日の冒険者ギルトにて ―


「おい、西のダンジョンにスフィンクスが出たらしいぞ! あるパーティーが扉の前に立ったら


『我と謎かけをしたければ、この部屋に入るがよい』


って話しかけられて、あわてて逃げ出したみたいだ」


「スフィンクスって、頭は美女で体はライオンの、やばい強さの魔物だろ?」


「だけど謎かけに答えられたら、今まで貯めた財宝をすべてを差し出すという……」 


「でもよぉ~正解を言うまで部屋から出られなかったり、間違えたら食われるんだろ?」


 いつもなら聞き流していたソマリであったが、


(スフィンクスか……。ここらで一発どでかいのを狙ってみるか!)


 万全の装備を整えたソマリは、翌朝、西のダンジョンに潜った。

 左手の爪で魔物を倒し、右手を掲げスフィンクスの部屋を探す。


 そしてある扉の前に立つと……。


『我と謎かけをしたければ、この部屋に入るがよい』


 女性の声が聞こえてきた。


(大丈夫だ! 俺にはこの猫のグローブがある!)


”ガッチャ!”


『偉大なる知恵の持ち主よ。よくぞおいでになった』


 部屋の中心には、頭は長い金髪の美女、体はライオンのスフィンクスが、香箱座こうばこずわりをしており、その周りにはまばゆいばかりの財宝が所狭しと置かれていた!


(すっ、すっげぇー!)


『では早速謎かけをしようぞ』


「ちょっと待て。お、俺が正解を言ったら、本当にそこにあるお宝をくれるんだろうな?」


『左様。お望みなら我自身・・・も差し上げようぞ』


「よ、ようし、こい!」


(昔聞いたことある。確かスフィンクスの謎かけは、

『朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足のモノは何だ?』

だったな。そんで答えは『人間』だと……)


『汝に問う。

《春になると六本足になるモノは何だ?》』


「へっ!?」


(なんじゃそりゃあぁ~!)


『どうした? 偉大なる知恵の持ち主よ?』


(や、やべぇ。全然わからねえ……こうなったら!)


 ソマリは左手の爪を伸ばすが


”バキイィィ~~ン!!”


 スフィンクスの目が光ると、爪は一瞬で砕け散った。


『不埒なことを考えるでない。そもそも我の体は百獣の王ライオン。猫の爪ごときではノミしか殺せぬぞ』


「あ……あ……」


 恐怖でソマリの体が震えるが……。


(お、落ち着け。考えろ……考えろ!)


「あ、あの、何かヒントは?」


『ふっ。ヒントか……。

《それは我の望むことだが、人であるお主では決してかなえられぬ》』


(コイツの望むこと? ならどこかにヒントが……)


「ちょっと部屋の中を調べてもいいか?」

『かまわぬ』


 ソマリは盗賊の目で部屋中を調べ、そしてスフィンクスの後ろに回り込むと


(スフィンクスのケツって……なんかいいな……てかめっちゃエロくないかぁ~!)


 ジリッ……ジリッ……っと、ソマリはスフィンクスとの間合いを詰める。


(お、俺は……何を考え……何をしようとしているんだ?)


《くれぐれも使いすぎには……》

《微弱ながら呪いが……》

《ソマリ、なんかおまえ魚臭いな。まるで猫だな》


 鑑定屋の親父や他の冒険者の声が、答え合わせのように頭の中に響く。


(そういえばライオンって、確か猫の仲間……)


 そして思い出す。

 発情した猫の鳴き声が、スフィンクスの声に似ていることを!


(だ、だめだぁ……もうがまんできねえ!)


 今まで溜まっていた・・・・・・モノを吐き出すため、ソマリはスフィンクスの背後から飛びかかった!


「どうえりぃやあぁぁ~~!」

『あっはぁぁぁ~~ん!!』


 ……以下自主規制。


 おお! これこそ六本足のモノ!


 スフィンクスの後ろから覆い被さり、《交尾》をする姿こそ、スフィンクスの足四本+ソマリの足二本、計六本のモノであった!


「フシャー! フギャー!」


 ソマリは猫のさかりの声を叫びながら、一心不乱に腰を振る!


『そうじゃ! それが正解じゃ! 我は寂しかったのじゃぁ~~!!』


 その後のソマリを見た者はいない。


 しかし西のダンジョンでは、どことなくソマリの顔に似たスフィンクスの子供たちが走り回っているとの噂が……あるのかどうか定かではない。


  完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チートアイテム《猫の手》を手に入れた 宇枝一夫 @kazuoueda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ