第陸話 青楼の中は夢幻〈二〉

 西の監兵領かんぺいりょう一の遊郭『天街てんがい』の店の一つ、咸池屋かんちやに売り飛ばされてしまった六花だったが、その待遇は予想していたものとは大分違っていた。


 売られたからにはてっきり妓女にさせられるか、その妓女の禿かむろにでもさせられるかと思いきや、六花は楼主の揺籃ヨウランから直々に下働きを命じられたのだった。その仕事は主に、掃除や洗濯のみ。妓楼で女に求められる仕事は決してさせられることなく、首を傾げながら六花は黙って仕事に励んだ。

 その中で六花は、朔夜に頼まれた“事件の捜査”を進めていた。妓楼の女達は最初こそ六花の存在を怪しみ邪険にしていたが、真面目に働く六花の姿を目にしてからは次第に打ち解け、先輩風を吹かせた者たちが親切に話を聞かせてくれた。元来、おしゃべり好きの彼女たちは打ち解ければ随分とぺらぺらと、例の噂について語ってくれた。


「…あぁ、あの噂。私も聞いただけなのだけど」

「一番詳しいのは誰なのですか?」

「そうねぇ。やっぱり楼主の揺籃さんか、若菜太夫ワカナだゆうかしら」


 姐さんの一人が挙げたその名は、この妓楼で知らぬ者はいない人の名前。この咸池屋の顔であり、楼主の次に権力を持つ天街の三人しかいない“太夫”として君臨する女性、それこそが“若菜太夫ワカナだゆうである。器量も良く、頭も良い彼女は人気も高く、妓楼内でも彼女を慕う者も多い。そんな彼女の古い友人であったのが、その噂の中心人物であった。

 その姐さんの紹介で六花は若菜太夫のもとへと通され、一時話をすることを許された。


「太夫、六花を連れて参りました」

「――お入りよし」


 障子の向こうから聞こえてきた落ち着きを払った女性の声に六花は少しばかり緊張した様子で襖を開け、小さな頭を下げたまま入室した。女性の着物が座敷に擦れる音を聞きながら待っていると、頭上から「顔をお上げ」という優しい声が降ってきて、恐る恐る顔を上げた。そこに座していたのは、既に太夫として着飾り優しい眼差しで六花を見つめている色白の女性であった。紅を差した唇を緩めて、落ち着いた声で六花に語り掛ける。


「…貴女が、六花さん?」

「はい。本日は御時間を頂戴していただき、ありがとうございます」


 六花は必死に昔屋敷で見た娘たちの真似をしてできる限りの礼節をもって、深々と頭を垂れる。緊張の滲み出ている六花に太夫はくすくすと笑うが、決して嘲ってのことではなく寧ろ可愛く思っていた。


「ふふ。そんなに硬くならずともよいのですよ。わたくしは若菜ワカナ、なにやら聞きたいことがあるらしいですね。遠慮なく、どうぞ」

「えっと、では、について聞いてもいいですか?」


 六花の質問のその内容を聞き、太夫――若菜は一瞬暫しの間表情を曇らせたが、すぐに穏やかな表情に変わり、まるでかつての楽しい思い出を振り返るように語り始める。


「…そうですね。あの噂に出てくる、かつてわたくしのであったその娘の名は、“コガラシ”」

コガラシ、さん?」

「えぇ。彼女も二年前まで、わたくしと同じこの見世で働く妓女の一人でした」




 それは今から、二年前のこと。


 若菜も齢十五歳で太夫になったばかりの頃、彼女には心から信頼していた妓女がいた。若菜にも匹敵する美しさと、活発で明るく純粋な笑顔が魅力的な少女、それこそがコガラシであった。売られた己の身を恨むことよりも、日々を楽しく生きることに全力を注ぎ、芸事を磨くことに生きがいを持っていた。そんな朗らかな彼女の笑顔に、繊細で塞ぎ込みがちな若菜の心は何度救われたかわからなかった。そんな純粋過ぎたが故に、彼女はとある悲劇を起こしてしまう。

 凩はとある客の男と懇意になり、彼女は彼に本気で恋をするようになる。その客の男は監兵領でも有名な豪商の嫡男であり、他にも通った店はあるも、ここまで入れ揚げた妓女は始めてであったことから、凩こそ本命だ、と噂された。凩も足繫く通ってくれる男に次第に心惹かれていき、本心から男を愛するようになり、最後にはいつか彼が自分を身請けして妻に迎えてくれる、と自分勝手に願うようになった。そのことを聞いた若菜は同時に、その男の悪い噂も耳にしていたため、凩のことを心配して若菜は彼女に忠告した。


『…凩、彼にあまり深入りするべきではないわ。彼が今まで他の見世の女たちにどれだけ酷い仕打ちをしたことか。痛い目を見ぬうちに、手を引きなさい』

『馬鹿なことを言わないで。あの方は私に執心なのよ。いずれ、私を正室に迎えてくれることよ。待ち遠しいわ』

『凩!』

『…なるほど、そういうこと』

『なにがですか?』

『私のことが妬ましいのね。太夫の貴女より、私の方があの方の寵愛を受けているから。この見世で一番は太夫の貴女なのに、それを差し置いてただ一人に愛されている私に嫉妬しているのでしょう?』

『いえ、わたくしが嫉妬しているのは…』

『…貴女に何と言われようとも、私はあの方の為ならこの身すら惜しくないわ』


 親友の言葉すら聞く耳持たない彼女の盲目さに、若菜は黙って見守ることしかできなかった。彼女の愛情が燃え上がり続けてその最高潮に達した頃、訪れた男に予想もしなかった言葉を投げかけられる。


『…。故に、もう会えぬ』

『………は?』


 男は豪商の息子に相応しいおたなの娘を嫁に貰い、既に子も身籠っているとのこと。悪びれもせず言い放った男の態度に、凩は呆然とするしかなかったが、その身体は次にやるべき事を無意識に理解していた。虚ろな瞳で凩はその男から贈られたかんざしを髪から引き抜くと、無防備に酒を飲んでいる男に容易く圧し掛かりその首に突き立てたのだ。苦しみ悶える男に凩は表情一つ変えず、何度も、何度も、簪を突き刺しては座敷を男の血で染めた。やがて座敷一面が男の血で染まった頃、駆け付けた者たちが見たのは、血塗れの簪を握って座っている凩の姿だった。その汚れた姿で、彼女はただ笑っていたという。


『……あぁ。これが夢なら、どれだけ良いか』


 そんな変わり果てた凩の姿をこれ以上見ていられなかった若菜は、すぐにその場を去ってしまった。それを今になって、後悔している。

 その後、座敷牢に入れられた凩は男の実家からの糾弾を聞く前に、絶望の中隠し持っていた簪で同じように自分の首を突いて自害したという。だが、その亡骸は座敷牢の一番奥ということもあり、暫く見つかることなく放置され、見つけたその日のうちにどこかへと消えてしまったらしい。それもあくまで噂であるが、それ以降何人かが店の中で彷徨う凩の姿を見た、と言い出し始めたせいで噂は更に加速した。


 そしてその二年の間、四人もの妓女が謎の自殺を遂げている。そしてそのすべてが、首を簪で突いての自殺であった。ただの自殺かと思われたが、その四人には一つだけ共通点があり、それは、ということである。




 噂の詳細を聞き、六花はこの見世の壮絶な過去を知り身を震わせる。若菜は今は亡き友人の姿を心に浮かべ、悲痛な表情を浮かべて自分の心の内を吐露する。


「…あの時、傷ついたあのコに、わたくしが寄り添ってやれていれば、こんな結末ではなかったやもしれないと、今でも後悔ばかり。故に、今でもこの店に囚われている凩が不憫でならない」

「やっぱり、彼女が一連の事件の犯人だと思いますか?」

「…もし、あのコがそうであるならば、わたくしは喜んで


 若菜のその言葉と決意に満ちた瞳の理由がわからず六花が聞こうとしたが、うまくはぐらかされて二人の細やかな時間は終わりを告げた。店に出た彼女は本当に息を飲むほど美しく、その凛とした姿に六花は亡くなった母親の姿を重ね合わせた。


 夜見世の灯りが点々と点き始めた頃、六花は姐さん方から下がるように言われて自分の小部屋に戻った。大部屋が偶々空いていなかった、という理由で幸運にも倉庫のような小部屋を与えられた六花は部屋に戻ると、部屋の座敷の上に広げられた風呂敷の上に丁重に置かれた巾着を手に取り、手早く中で休んでいる朔夜を取り出して若菜から聞いた話を彼に伝えた。それを聞いた朔夜は自分なりに事件について推理し始め、そして若菜の言葉の真意を見抜いた。


「…つまり、若菜太夫は近々身請けの予定があるということだろう」

「え、そういうことだったの?」

「その凩という妓女は、自分が身請けしてもらえなかったことを妬んで四人の妓女を自殺に見せかけて殺して回っているというのだろう? その若菜太夫の言ったことが本心ならば、恐らく身請けが決まっているのだろう」


 若菜は凩に殺されてもいい、と本心から思っていたと聞かされ、六花は思わず立ち上がる。そんな六花を朔夜は冷静に止める。


「待て、六花」

「で、でも! このままじゃ、若菜太夫が…っ」

「…もし本当に凩が店の中を歩き回っているのなら、もうそれは人間ではない。恐らく、“鬼化”している」

「鬼?」


 元々この地で自然発生する災いの一つである『鬼』は、人一倍の未練や怨念を抱えて死んだ亡骸の負の感情に惹かれ、その者の魂や他の同じような魂の集まったものが入り込むことによって生まれる存在。怨念の力をつのとして発現させ、人の血と肉を求めて彷徨うもので、凩も恐らくは死んですぐに強過ぎる怨嗟が彼女の亡骸を『鬼』へと変貌させたのだろう、と朔夜は推理した。

 もしその推測が当たっているのであれば、人の手には余ると考えていた。


。いざという時は、僕がなんとかする」

「…わかった。頼むね、朔夜」

「さて、どうやってその凩を探すか…」


 どう対処するか二人が悩んでいたその時、襖の向こうから声が聞こえてきて朔夜は慌てて口を噤み、六花も手早く巾着の中に朔夜を収めた。短い返答をすれば、襖の向こうから聞こえてきた女が意外な人の名前を挙げた。


「楼主の揺籃さんが呼んでます。楼主の部屋にお越しください」

「はぁ…。揺籃さんが、ですか」

「それと、にとのことです」


 六花はドキリとして思わず巾着を胸に抱えた。



 ❖ ❖



 咸池屋の一番奥の座敷が楼主である揺籃の私室であり、彼女の許可なく入ることは禁じられている。座敷は常に彼女が愛用している煙管の紫煙が立ち込めており、今日も今日とて目の前の六花をそっちのけで紫煙を燻らせる。十分に堪能し切った揺籃は煙管の灰を煙管盆にカン、と落としてようやく六花の方に視線を向ける。揺籃の鋭い視線に晒された六花は緊張の面持ちで膝の上に置いた巾着をギュッと握り締めている。その巾着にどれほどの物が入っているのか、揺籃は興味があった。しかし今はそれよりも、彼女が嗅ぎまわっている噂についてだ。


「…さて、六花。貴女最近、あちこちで凩についての噂を聞きまわっているそうね? 一体、何の魂胆あってのことなのかしら?」

「えっと、その…、ただの好奇心——じゃ納得してくれないでしょうね」

「勿論」


 全てを見透かすような揺籃の目に気圧され、六花はどう言い訳しようか言いあぐねていると、揺籃は六花の髪を見てついに心の内に隠していた確信を口にした。揺籃は玄関先で出会ったとき既に、六花の髪の秘密に勘付いていた。


「…貴女のその髪、?」

「な、なんでそれを…っ」

「わかるわよ。貴女みたいな子、沢山見てきたもの。生まれつき髪の一部でも白ければただそれだけで生きずらい世の中で苦労してきた子たち。…貴女を見ていると、とある子を思い出すの」


 そう言って遠くを見つめる揺籃の瞳は悲哀に満ちており、それを見て彼女が今朔夜の兄弟の赫夜のことを思い出しているのだと六花は予測して、揺籃の本心を聞き出すため更に追及する。その六花の行動に朔夜は密かに驚いたが、自分が死んでからのちの揺籃となにより赫夜の足跡を知りたいということに関しては同意見であったため、黙って彼女が語るのを待った。


「…その思い出の人は、どんな人だったんですか?」

「……いいわ、聞かせてあげる。実は私、昔あの陰陽国の後宮に仕えていたの。然も、世に言う“悪逆非道の双子”の御子の一人、赫夜様の乳母として」


 年老いた女は語る。かつての華やかな陰陽の国での生活を。



 揺籃がその生を受けた家は下級貴族の父のもとであったが、運良く風変りな上級貴族の男の目に留まり、めでたく妻となったのはまだ十四歳の時のことであった。夫となった男は十六代目兎君の御世から蔵人くろうど(兎君の秘書)として宮中に仕え、時を経て十六代目のを期に異例ののその後に烏師より生まれた双子の片割れの御子“朔夜サクヤ”の春宮大夫とうぐうだいぶとしてその権威を揮った。そんな夫と共に宮仕えした揺籃は、十六代目烏師であり朔夜、赫夜の生みの母となる『十六夜イザヨイ』に仕え、いつしか彼女とはまるで友人のように親しくなる。

 陰陽国が滅亡するきっかけとなった反乱より33年前、陰陽国始まって以来の大事件が発生した。それこそが『十六代目兎君の失踪』である。お役目を放棄して女官と共に失踪した兎君の代わりに、その役目を担うことになったのは双子の妹であった烏師“十六夜”である。烏師と兎君を兼任する彼女を支え助けたのが揺籃である。十六夜が兎君も兼任することになるということは同時に、である。本来、終生未婚を貫く烏師にとってそれは抵抗があるものの、十六夜は北の『玄武一族』から婿を貰い、その二年後めでたく懐妊し生まれたのは見事に双子であった。その乳母の一人に任命されたのが、十六歳の時に息子を一人産んでいた揺籃だった。しかし、彼女が乳母を務めることとなった次代の烏師――つまり“赫夜”には、誰にも漏らせない重大な秘密があった。それは烏師たる能力を持って生れ出た赫夜が、女児ではなくであったこと。その秘密は母たる十六夜と父親、双子の弟の朔夜、揺籃の夫、その息子、そして揺籃の五人だけに打ち明けられ、彼等が必死になって守ってきた。その五人の必死の働きにより、赫夜は朔夜と共に十五年間幸せに何不自由なく暮らしてこれたが、その平穏は四人の領主による反乱によって打ち壊された。


 十年前の反乱軍の陰陽国侵攻最終日、夫と息子を同時期に亡くした揺籃は心ここにない状態で皇宮内を彷徨い、双子の玉座の置かれたその場所で反乱軍の手の中で揺れる、朔夜の首を目にし、それを目にして狂気に飲み込まれた赫夜の変貌をも目撃していた。それでも止めることのできなかった揺籃は喚び出した鬼神と共に姿を消した赫夜を探して後宮内を走り回り、ようやく見つけ出すが既に絶望に染まり切った赫夜の瞳は目の前の揺籃を映すことはなく、突然現れた揺籃を赫夜の鬼神は敵と認識して襲い掛かってこようとした。逃れる術のない揺籃がただ怯えて攻撃を待ったが、それを制止したのは赫夜の声だった。


『——待て、トモエ

『——!』

『…その人は、いい』


 血の染み付いた打掛を翻し背を向けたまま赫夜が命じれば、荒れ狂う鬼神はぴたりと動きを止め、目の前の揺籃から興味を失くした。その後一度も振り返ることのない赫夜を追って、鬼神も走り去っていくのを揺籃は呆然と見つめるしかできなかった。

 その後、命からがら陰陽国を脱した揺籃は隠れるようにこの天街にやって来て、暫くは妓女として働き、偶然にも先代の楼主の目に留まって彼女の死後見世の跡を継いだ。


 生きていく場所を新たに得た今でも、揺籃はあの日のことを夢に見るという。



「――あの時、私が死に物狂いででも手を伸ばしていれば、赫夜様が闇に堕ちていくのを止められたかもしれない、なんてそんな後悔ばかり考えているせいか、私の夢にはいつもあの時の赫夜様が現れては、私に助けを求めてくる。おかげでずっと目の下の隈が消えないよ」


 揺籃が指でなぞった目の下はうまく化粧で誤魔化しているものの、深く隈が見え隠れしている。寝不足気味な彼女はここ最近常に頭痛に悩まされており、更に彼女の頭を悩ます事態が起こり始めた。それこそが、妓女たちの立て続けの自殺。


「あの、自殺した姐さん方に何か共通することはなかったのでしょうか。身請けが決まっていたこと以外で」

「…そうね。身請けが決まっていて浮かれていたこと以外だと、そのかしら」

ですか?」


 六花の問いに揺籃は煙管盆の引き出しからある物を取り出して、六花の前に差し出した。それは四本の銀の簪であった。しかしその簪のどれもが不自然に曇っているのに六花は目敏く気づいた。


「…これは、もしかして」

「えぇ。この簪はすべて、四人の妓女の死因になった凶器よ。皆等しくこれが首に刺さって死んでいた」


 揺籃は六花に詳しく四人の死について説明を始めた。

 身請け先が決まっていた妓女たちは全員、身請け先の旦那から約束代わりの簪を受け取っていた。だが女達はその簪を首に自ら突き刺して自害した。まるで二年前に死んだ凩のように。しかし一つだけ凩とは違う点があるとすれば、四人の女達は自分の手で簪を刺したはずだというのに、その両手首や身体には謎の締め付け跡があったという。その跡は例えるのならば、縄で縛ったような跡であったという。

 女達の死の現場について聞いた朔夜が巾着の中である事に気づいた、その瞬間。


「きゃあああ―――!?」


 一人の女の悲鳴を皮切りに、見世の中を複数の悲鳴が駆け巡った。それと同時に、朔夜は見世の中に突如充満してきた鬼の気配に気づき、六花に合図を送る。


「っ六花! 

「うんっ」


 朔夜の合図で六花は首に巻いた包帯を解き、その首に刻まれたツギハギの赤い刺青に人さし指を引っ掛けて思いっきり解いた。解けた六花の首元に開いた黒い傷口のような風穴に、巾着から零れ出た光の粒が徐々に吸い込まれていき、すべてを吸い込むと首から黒い影が広がって六花の身体を丸ごと覆った。

 目の前で起きた突然のことに揺籃が驚愕のあまり口を開いて凝視していると、六花を覆った影の中から見覚えのある碧眼が現れる。先程まで立っていた六花とは背丈も違い、着物も萌木色から漆黒に染まり、夜空のような艶のある黒髪と光る碧眼のその姿を現したのは、十年前に死んだはずの朔夜その人。自分の目を疑うしかない揺籃は、震える声でその人の名を半信半疑に呼んだ。


「ぁ…、さ、朔夜、さま…?」

「……話は後だ。急がないと、


 そう告げて名残惜しそうに背を向けると、朔夜は座敷を飛び出して騒ぎの中心である二階の奥の座敷に向かって駆け出した。

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