第56話 過保護なニール
どこまでも澄み切った真っ青な空が広がっている。
もし、また天気が崩れて雨でも降れば一日延期しようと考えていたのだが、ありがたいことに今日も晴れてくれた。
パーティーの翌日のことだ。
朝食を済ませて一息ついた後、キリルはニールの馬に乗せてもらいながらカーミス村へと向かっていた。
本当はキリル一人で村に帰ろうと思い、パーティーの後から準備をしていたのだが、今日の朝になってそのことを知ったニールはどうしてもついて行くと言って聞かなかった。
どうやって帰るのかと訊かれたので、素直に徒歩でとキリルが答えたら、
「王族が一人で、しかも徒歩だなんて危険すぎます!」
と、ニールに怒られた。
ならばルアールから出ている乗合馬車にすると言ったら、
「見知らぬ人間と一緒だなんてそれこそ危険です! だったら城から馬車を出しましょう!」
ニールはそう言って、馬車を手配しに騎士団の宿舎へと向かおうとする。
もちろん、キリルはそれだけはやめてくれと必死で止めた。
とてもじゃないが、自分の身の丈には合わなすぎる。それにきっととても豪華な馬車だろう。しかもそれだけではなく、周りに騎士団の馬もたくさんついてくるに違いない。
そんなもので村に帰ったら大騒ぎになってしまうどころか、からかわれるに決まっている。
どうしてもニールはついて行きたいらしいが、そこまで迷惑を掛けたくなかったキリルが自分だけで大丈夫だからと何度も念を押すように言うと、
「キリル様は王族としての自覚がなさすぎます! それに一人で馬にも乗れないんですから、いつ城に戻って来られるのかわからないじゃないですか!」
と、ニールにさらに
確かに王族としての自覚は皆無だし、馬に乗れないのも事実なので、キリルは思わずそこで口をつぐんでしまった。
それをいいことにニールにまくし立てられて、現在に至るというわけだ。
いくら正式にキリルの世話係になったとは言っても、さすがに過保護にも程があるだろう。これまでも過保護なところはあったが、世話係になってからはさらにそれが悪化したような気さえする。
そうは思ったが、これ以上ニールを怒らせることはしたくなかったし、自分も怒られたくはなかったのでキリルは黙って従うことにしたのである。
「おれもちゃんと馬に乗れるようにならないとな……」
ニールの前に座ったキリルが、自分に言い聞かせるようにぽつりと呟く。
どこに行くにしても毎回ニールに同乗させてもらうわけにもいかないし、そうなればもれなく彼がついて来ることになってしまう。
これ以上ニールに迷惑や心配を掛けることはしたくないし、これから城で生活していく上でも乗馬は必要になってくるかもしれない。
努力で馬に乗れるようになるのならやるしかないだろう。
「じゃあ、城に戻ったら特訓しましょう。まずは馬選びからですね」
背中越しにニールの嬉しそうな声がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます