第47話 語られる真実

「これには永遠の命を手に入れる方法が書いてあるの」

「まさか、その方法が……!」


 キリルが瞠目する。


 本当にそんなものが存在しているのか。


 にわかには信じがたかったが、少なくとも彼女はその古書の一部に書かれていることを信じている。


「そう。【救国の王子】を殺して、神に捧げるの。ついでに今回の計画のすべてを教えてあげるわ。冥土の土産に持って行きなさい」


 そして紙切れを大事そうに懐にしまい込むと、イルムヒルデは改めて口を開いた。


「さっきあんたたちが話していた通り、あたしはまずローベルト国王が悪政を行っていくようにと呪いをかけた。そうすれば遅かれ早かれ反乱が起きて、放っておいてもこの国は滅びるもの。そして次に、そこの第一王子に王位継承権についての嘘を吹き込んだ」


 イルムヒルデの言葉に、座り込んだままのユリウスがはっと顔を上げる。


「……やはり、嘘だったのか……!」

「あんたがこれから少し先の未来、本当に国王としてやっていけるのか、と当時の父親の様子を見て不安に思っていたのはすぐにわかったから、それを利用させてもらおうと考えたの。心が弱っていたあんたを騙すのはとても簡単だった」


 ユリウスが悔しそうに唇を噛み、拳を床に叩きつける。


 自分さえ騙されなければ、こんなことにはならなかったのに。


 激しい後悔と怒りでどうしていいかわからなかった。


 もちろん、キリルに会えたことは本当に嬉しかったし、一緒に過ごしたこの数日間もかけがえのないものだ。


 だが、自分が不甲斐ないばかりに漆黒の魔導士の言いなりになって、キリルを手に掛けようとしてしまった。


 操られていた、と言えば少しだけ聞こえは良くなるかもしれないが、それでもキリルを殺そうとしたのはその時の自分の意思だった。


 先程エリオットに言われた通り、もっと早く、いや最初に誰かに話すべきだった。エリオットだけでなく、ロランに直接話を聞くことだってできたかもしれない。


 後悔が次から次へとユリウスの心の中で湧き上がってくる。


 ただ、キリルを殺そうとした時にニールが止めてくれたことは心からありがたく思っていた。もし誰も止めに入ってくれなければ、今頃キリルの存在はこの世から消え去っていたことだろう。


 それだけが今のユリウスにとっての救いだった。


 イルムヒルデはさらに続ける。


「後はだいたい第一王子の言った通り。ローベルト国王の呪いを解いた後はキリルを殺してしまえば、ほぼあたしの計画は達成されたも同然だったのに」


 がっかりだわ、とイルムヒルデはわざとらしく肩をすくめてみせた。


 その様子にキリルが歯噛みする。


 やはり彼女はどこかで自分たちの動向をうかがっていたのだ。それが魔法なのかはわからないが、ずっと見張られていたようなものだろう。しかも、きっと自分たちが手駒のように動くのを楽しんでいたに違いない。


 イルムヒルデの手のひらの上で上手いこと転がされていたのだ。


 そこでエリオットが思い出したように声を上げる。


「まさか、エルデの洞窟に【アウローラの鏡】を置いたのは……!?」

「そう、あたしよ。それも計画の一部だったの」


 そういえば、誰かがわざわざ【アウローラの鏡】を置きに来たようだ、とエリオットとニールが話していたことをキリルは思い返す。


 ローベルト国王に呪いをかけた犯人が、それを解くための魔道具を自ら置きに来るなんてことは誰もが予想すらしていなかった。


「じゃあ、反乱が起きそうになったのもやっぱりお前が……?」


 キリルがエリオットに続いて問うと、イルムヒルデは悪びれもせずに笑顔で頷いた。


「反乱軍をちょっと焚きつけてやっただけよ。その後は勝手に動いてくれたもの」

「それは計画になかったはずだ!」


 ユリウスがすぐさま声を荒げる。


「あたしにとっては最終的にこの国が滅んで、キリルが手に入れば順番なんて関係なかったの。キリルが死んだあとは、さらにこの国を混乱させるつもりだったんだし。どちらにせよ、この国はあたしの手で滅ぶことになってたの。ねえ、花が一番美しい時っていつだか知ってる? それは散る時よ。国も同じ。滅びる時が一番美しいの」


 うっとりと目を細めるイルムヒルデに全員が声を失った。


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