第44話 明らかになる事実・1

 もしここでの会話が筒抜けになっているとしたら、探し出す前に逃げられてしまうかもしれない。


 キリルたちは揃って同じようなことを考えていたが、エリオットだけは違っていた。


「父上、今数ヶ月前と仰いましたよね?」

「あ、ああ」


 ローベルト国王がそれだけを答えると、エリオットは何かを確信したように言う。


「数ヶ月前といえば、ちょうど父上に呪いがかけられた時期と一致します」


 エリオットの言葉に、その場にいた全員が顔を見合わせる。ユリウスもまさか、とでも言いたげに顔を上げた。


「そうか、きっと謁見の時に父さんに呪いをかけたんだ! だから会ったところまでの記憶しかないんだ」


 キリルが大きく手を打つ。


 ようやく、パズルのピースがはまったようにすべての辻褄が合った。


「そしてユリウス兄さんに嘘を吹き込んで、思い通りに動かそうとしたってことだよね。さすがに様子のおかしい父さんにわざわざ事実を確認しに行くことはないだろうし」


 興奮した様子で一気に言い切ってエリオットの方を見やると、彼は力強く頷いてみせる。


「そういうことですね」

「なるほど」


 ニールもようやく合点がいったと言わんばかりの表情だ。


 これで今回の一連の事件について色々とわかってきたが、後の詳しいことはユリウスの口から直接きちんと話してもらった方がいいだろう。


 キリルはまだ座り込んだままのユリウスの隣にしゃがみ込むと、静かに声を掛ける。


「ここからの詳しい話は、ユリウス兄さんがしてくれるよね?」

「……ああ」


 ユリウスは小さく首を縦に振ると、ぽつりぽつりと話し出した。


「……漆黒の魔導士は私に『ローベルト国王はロランを次の国王にしようとしている。王位継承権を取り戻したければ自分の言う通りに動けばいい』と、そう言った。キリルとニールにも話した通り、私には王になることでしか自分の居場所を見つけられなかった。だから、即座にその話に乗ることにしたんだ」


 キリルたちはユリウスの話に相槌を打ちながらも、黙って耳を傾ける。


「……父上の呪いを解くことができれば、その功績によって王位継承権を取り戻せるだろう、だからこれを使えと、奴は【アウローラの鏡】の在りかを私に教えた。そして、父上を殺してしまってはロランがそのまま王位を継ぐことになるから絶対に殺してはいけない、と何度も念を押してきた。だが、ここで気付くべきだったんだ」


 ユリウスはここで言葉を止めると、溜息をひとつ落とす。


「でもその時の私には気付くことができなかった。……【アウローラの鏡】があるエルデの洞窟は近くの村人が恐れている場所だから一人で行くな、と言われた私は、ならばどうしたらいいかと漆黒の魔導士に問い掛けた。すると奴は【救国の王子】であるキリルを探し、利用すればいい、と答え、そして父上の呪いを解いた後、キリルはきっと邪魔になるだろうからその時に殺してしまえばいい、と言われた。奴がキリルのことを知っていたから、私はさらに信じてしまったんだ。その時に初めて【救国の王子】が間違って【災厄の王子】と言い伝えられてきたことも知った。こうして奴の言葉に素直に従ってしまった私は、すぐにキリルの捜索隊を出したんだ。エリオットが古書の話をしてくる前のことだった。……後は皆の知っている通りだ」


「まさか、そんなことになっていたなんて……! しかもキリルを殺す……!?」


 聞き終えたエリオットが思わず声を上げ、ローベルト国王は一度目を見開いた後、すぐにそれを伏せて唇を噛んだ。


 実際にキリルは殺されかけたし、ニールはそれを止めに入ったので二人はその部分についてはよく知っていた。だが、エリオットとローベルト国王にとっては初耳だったのだから驚くのも無理はない。


「……キリル様は先程、ユリウス様に襲われました」


 ニールが淡々と事実を述べると、エリオットはさらに声を張り上げた。


「兄上! どうしてもっと早くに相談なりしてくれなかったんですか!」


 今更でしかないが、そう言いたくなる気持ちは誰もがわかっている。だが、それ以上にユリウスの気持ちもわかるような気がした。

 

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