第41話 ユリウスと王位継承

 思いもよらなかった問いにニールが首をひねる。


「……継承順位ではユリウス様なのでは?」


 今更何を聞くのか、とニールが疑問に思いながらも素直に答えると、ユリウスは寂し気に目を伏せた。


「私もそう思って、今まで王位を継ぐべく色々と頑張ってきたのだけどね。でも、父上は弟のロランを次の国王にしようとしているらしい」

「まさか! そんなはずはありません! 一体どこからそんな話が……!」


 剣を下ろしたニールがすぐさま否定し、首を振った。


 ようやく呼吸が整ってきたキリルは、ニールとユリウスを交互に見やる。


 正直なところ、次期王位継承者がどうとか、政治がどうのとかはまったくわからない。だが王家に関わらず、どこの家でも家督というものは大体、長男が継ぐのが当たり前だと思っていた。


 そして思い出す。


 ユリウスならきっと大丈夫、いい王様になれると言った時のことを。


 自分は心から思ったことをただ口にしただけだったが、それがユリウスを追い詰める原因のひとつになったのかもしれない。


 あの時のユリウスは笑顔を見せながらも、とても不安そうにしていた。それはもしかして、自分が王位を継げないかもしれないという心配からだったのではないか。


 だが、第二王子のロランは王位を継ぐユリウスを支えるために留学して勉強をしていると、祖父母から聞いたこともあった。


 ユリウスの話と祖父母の話、どちらが本当なのか。


 座ったままのキリルが考え込んで唸っていると、ユリウスがぽつりと一言だけ漏らした。


「……漆黒の魔導士」


 聞き覚えのない単語に、キリルだけでなくニールまでもが首を傾げ、怪訝そうに眉をひそめる。


「漆黒の魔導士……?」

「やっぱり知らないようだね。少し前からこの城に滞在しているらしい、黒いマントを纏った魔導士だよ」

「『らしい』……というのは?」


 ニールが率直に尋ねるとユリウスは顎に手をやり、天井を仰ぐ。何かを考えるような素振りだ。


「本人はそう言っているのだけど、城内で見たという者はいないんだよ。おそらく気配を消して動いている、と私は考えているけどね」


 言われてみれば、キリルとニールもこれまでにそのような人物を見かけたことはない。魔導士というからには気配を消すことくらいは容易いのかもしれない、と揃って考えた。


「その漆黒の魔導士っていう人が、王位継承者はユリウス兄さんじゃないって言ったの?」


 壁に手をつきながら、キリルがゆっくり立ち上がる。それに気付いたニールが慌てて身体を支えてくれた。キリルは小さく頷くことで感謝の意を伝える。


「そうだ。だから、王位継承権を取り戻したければ言う通りに動けばいい、と……。それなのに……!」


 途端にユリウスの声音が低いものに変わって、今度は悔しそうに声を絞り出した。握られた両の拳は小さく震え、怒りのようなものを滲ませている。


 どうやら今回の計画が失敗に終わったことだけではなく、自分自身そして漆黒の魔導士にもその感情は向けられているのだろう。


 それほどまでにユリウスが王位継承にこだわる理由は一体どこにあるのだろうか。


「ユリウス兄さんはどうしても王様になりたいの?」


 キリルが思ったことをそのまま口にすると、ユリウスはそれまで強張っていた肩の力を少しだけ抜いて静かに首を横に振った。


「いや、どうしてもということはないかな。ただ私は、次の王様になるんだ、と幼い頃からずっと周りから言われ続けて、自分でも勝手にそう思い込んでいた。そのための帝王学の勉強だって頑張ってきたつもりだった。……漆黒の魔導士の話を聞くまではね」


 そこで一旦言葉を区切ると、ユリウスは息継ぎでもするように大きく息を吸う。


 そしてさらに続けた。


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