第33話 約束の時
いよいよ日付が変わるだろうという頃。
城内はこれまでにないくらい静まり返っていた。どこにも明かりは灯っていない。
今、明かりと言われて思いつくのは空に浮かぶ大きな月と、空に散りばめられたたくさんの星たちくらいのものか。
ユリウスとエリオット、そしてキリル、ニールはローベルト国王の部屋で窓の外を注意深く眺めながら日付が変わるのを黙って待っていた。
ローベルト国王は少し熱が下がったようで、今はうなされることもなく静かに目を閉じている。
まだ事情を知らない、いやさすがに薄々は感づいているかもしれないエミリアにはいつもより厳重に警備をつけていた。
もし反乱が起これば日付変更と共に外は騒がしくなるだろう。そしてその場合には騎士団の伝令係がすぐにこの部屋に報せに来る手はずになっていた。
ユリウスは騎士団に、できる限り反乱軍の人間を傷つけないように、もし捕らえても乱暴なことは絶対にしないようにと何度も念を押していた。
反乱軍が結成されたのは自分たちに責任があると思ってのことだ。そして味方はもちろん、反乱軍側にも犠牲者は出したくないと考えていた。
ただ反乱軍のリーダーであるノエルだけは、無傷で捕らえ、また捕らえ次第この部屋へと連れてくるようにと騎士団全員に伝えていた。
もちろん、リーダーを失った反乱軍が空中分解するのを狙ったということもあるが、もう一度きちんと話し合いの場を設けたいとの考えもあったからだ。
だが、それらが起きないことが今ここにいる全員の願いである。
「……そろそろだね」
ピンと張り詰めた空気の中、ユリウスの言葉に一同が神妙な面持ちで頷いた。
キリルは自分の懐中時計を出して、母に願いながら心の中でカウントダウンを始める。まるで全身が心臓になったようだった。
――――――あと一分。
何事もないよう祈りながら、強く懐中時計を握りしめる。
――――あと三十秒。
時計の針の音だけが沈黙の中、規則的に鳴り響く。
――あと十秒。
ユリウス以外の全員が目を閉じ、その時を待つ。
そして。
「……時間だ」
ユリウスのその言葉を合図に全員が目を開き、揃って窓の外を見やる。
いつもと何ら変わることのない静かな夜の街。
「……大丈夫、だった……?」
キリルの小さな声にエリオットがまだだ、と言うように首を振る。
確かにまだ安心するには早いだろう。
頷いたキリルはまた窓の方を向くと、黙って目を凝らした。
そうして数分。
静かな街は、ずっと静かなままだった。
「……どうやら、『誠意』が伝わったらしいね」
ユリウスが大きく息を吐き出した。
その言葉に全員が安堵の溜息をつき、ようやく張り詰めた空気が徐々に解けていく。
それぞれが顔を見合わせ、口元を緩める。
全員がこの喜びを大声で叫びたいほどだった。
誰も傷つくことなく、犠牲になることもなく、無事だった。
そのことが本当に嬉しかった。
そしてキリルはノエルに心から感謝する。
朝になったらニールと一緒に、ノエルにお礼を言いに行こう。信じてくれてありがとう。『誠意』を受け取ってくれてありがとう。約束を守ってくれてありがとう。ただただそう伝えたかった。
キリルたちのとても長かった一日がようやく終わりを告げ、静かに夜は更けていった。
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