第29話 城への帰還

 ノエルはキリルたちを国王側の人間だとわかっていながらも捕まえることなく、無事に反乱軍のアジトから出してくれた。


 その帰り道。

 とっくに昼食の時間を過ぎていて、キリルの腹は空腹を訴えていた。だがそれよりも今は城へ戻るのが先だ。いや、城に戻ってもきっと食事をとっている暇はないだろう。


「……本当に解散してくれるのかな?」


 結局自分はほとんど何もできなかったことに悔しさを覚えながらも、キリルはどうにか上手く話をまとめてくれたニールに感謝していた。


 しかし、それはただの口約束だ。ノエルには元から約束を守るつもりはないかもしれない。いくらローベルト国王が心から謝ったとしても、ノエルが『誠意』が見られないと判断したら反乱軍は解散されない。そうなったら次はもう交渉どころではなくなるだろう。


「やるだけのことはやりましたから、後は信じるしかないですね」


 ニールはそう言って、苦笑いを浮かべた。



  ※※※



 城へと戻ったキリルとニールは、すぐさまユリウスとエリオットの元へと向かった。


「……なるほど」


 ニールの話を聞いたユリウスが納得したように真剣な顔で頷く。


「でも、二人共無事で本当によかったです」


 エリオットはそう言って瞳を潤ませていた。


 きっと心の底から心配してくれていたのだろう。キリルとニールも無事に戻って来られて本当によかったと安心していた。


 もしかしたらノエルが追手を差し向けてくるかもしれない、そんな不安があったからだ。しかしそれは杞憂に過ぎなかった。このことからも、ノエルの言葉を信じても大丈夫ではないかと、キリルは漠然とだがそう思っていた。


「しかし、『誠意』と言われてもどうしたらいいものか……」


 ユリウスの言葉に全員が沈黙する。


 ノエルの言う『誠意』とは一体どのようなものなのか。


 彼は『国王にお詫びをしてほしい』と言った。そして『国王自身で考えてほしい』とも言った。ということは、今キリルたちがいくら考えてもだめなのだろう。ローベルト国王が自分で考えて出した結論、それがノエルの求める『誠意』というものなのだ。


「……やっぱり、父上に考えてもらうしかないね」


 ユリウスがお手上げだと言わんばかりに長嘆する。


 結局この場では何も解決することができず、すべてをローベルト国王に託すことになった。



  ※※※



「父上にはこれ以上負担を掛けたくはないのだけれど……」


 ローベルト国王の自室の前でユリウスが小さく漏らす。


 しかし理由はどうあれ、ローベルト国王が今までしてきたことをきちんと国民に詫びなければならないということは皆が理解していた。


 意を決したユリウスが大きな扉を軽くノックすると、すぐに中から返事が返ってきた。思っていたよりも元気そうな声にキリルは安心する。


「父上、失礼します」


 ユリウス、エリオット、そしてキリルと続き、最後に入ってきたニールが扉を閉める。


 ローベルト国王は広いベッドの上で上半身だけを起こし、何とはなしにまだ小雨が降っている窓の外を眺めていた。


「具合の方はいかがですか?」


 ユリウスの声に振り向いたローベルト国王の顔は、まだ少し白く見えるが大分明るさを取り戻していたようだった。


「ああ、随分良くなったよ。……ところで、何かあったのかね?」


 四人揃って顔を出したことに何か予感めいたものを感じたのだろう。ローベルト国王は不安げに眉を寄せる。


 そんな様子にユリウスは大きく深呼吸をすると、思い切って切り出した。


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