第25話 反乱軍への潜入・1

 朝は晴れていたはずの空はいつの間にか暗くなっていて、小さな雨粒がキリルとニールの頬を叩く。


 反乱軍への潜入は思いのほか上手くいった。


 今回の移動は徒歩だった。偵察団からの情報でルアールのすぐ近くにアジトがあることがわかったからだ。


 ルアールを出てすぐにその外壁をぐるりと時計回りで進み、そのまま森の中へと分け入る。キリルがデルニード城に連れてこられた時とは逆方向だ。


 そして獣道をずっとまっすぐに進んだ突き当たりにある、今は誰も住んでいないという小さな古い小屋。そこが反乱軍のアジトだった。


 入り口の扉を軽くノックして声を掛けると、程なくして扉が静かに開く。


「……誰だ」


 低い声で顔を覗かせたのは図体の大きな男。

 目つきが悪く、できれば関わり合いになりたくないような雰囲気を醸し出していた。もちろん見た目だけで判断してはいけないことはよくわかっている。


「おれたち、反乱軍に入りたくてここに来ました!」


 緊張しながらもその目をまっすぐに見ながらそう答えると、男はじろじろとキリルとニールを舐め回すようにして眺め、一言だけ発した。


「……入れ」

「ありがとうございます!」


 あまりにもあっさり招かれてしまい、キリルとニールは少しだけ拍子抜けする。


 今はとてもありがたいことではあるのだが、ここまで簡単に見知らぬ人間を中に入れてしまってもいいものだろうか。

 だが、きっと男はこの場所を反乱軍のアジトだと知っている者、イコール国王側の人間ではないと判断したのだろう。


 もちろん見た目も、キリルは元々村で着ていたものだったし、ニールも普段の比較的質素な恰好だったのでその辺の一市民、または一村民に見えたと思われる。武器はその辺の村人が持っているような古びた短剣をそれぞれ装備していた。さすがにニールの長剣は村人が持つには少々高価すぎる、かつ普通の人間が持つような代物ではないということで城に置いてきた。


 ひとまず潜入には成功した。次はどうにかして反乱軍のリーダーに会うのが目的だ。


 今にも崩れてしまいそうな小屋の中に入れてもらい、辺りを見回す。

 倒れた古い棚に、脚が折れたままで放置されている机と椅子。そしてそこかしこに散乱している、窓ガラスの欠片。


 これらを見ただけで、確かにずっと昔に人が住んでいたのだろうということはすぐにわかった。


「……この下だ」


 男が顎で指し示す。


 見れば、地下室らしきものの四角い入り口がぽっかりと開いていた。おそらく昔からあったものをアジトとして利用しているのだろう。


 どうやら後は自分たちで勝手に行けということらしい。


「……ありがとうございます」


 男に軽くお辞儀をして、地下へと向かう。


 キリルの身長ではまったく問題はなかったが、長身のニールには少し高さが足りなかったようで、少し背を丸めるようにして狭い階段をずっと下りていく。途中にはところどころにカンテラがぶら下がっていたので暗さに困るようなことはなかった。


 いちいち数えるようなことはしなかったので、階段が何段あったのかはわからなかったが、結構深いところまで来ただろう。


 すでに人の住んでいない小屋に、地中深くまで掘って作られた地下室。それに王都に近い立地と、確かにアジトにするには好条件が揃っている。


 なるほど、と二人で納得していると、ようやく長い階段が終わって少し開けたところに出た。


 しかしそこで見たものは。


「じいちゃん!? それにばあちゃんも!?」


 キリルはそれだけを言ったきり、それ以上の言葉が出てこなかった。


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