第24話 反乱の報せ

 翌日、朝食後のデザートを揃って食べている時だった。


 普段、ニールはユリウスたちとは別の部屋で食事をしているが、今日はぜひにとユリウスとエリオットに半ば強引に誘われ、少々遠慮しながらではあるが一緒にテーブルを囲んでいた。


 ローベルト国王はまだ寝ていた方がいいだろうということで同席はしていないが、体調は比較的安定しているようで皆は安心していた。


 キリルはデザートに入っていた、初めて見る果物を物珍しそうにフォークでつついていた。その目の前では頬杖をついたエミリアが幸せそうにキリルの様子を眺めている。


 もちろん、エミリアにはまだ今回の事件については話していなかったが、今日にでもきちんと話そうとキリルたちは相談していた。


 そんなごく普通の朝食風景が、突然壊された。

 勢いよく扉が開かれ、一人の騎士が飛び込んできたのだ。


 一同の視線を一斉に浴びながらもそれを気にすることなく、騎士は大声で言った。


「大変です! 今日にも反乱が起こるとの報せが入りました!」

「何だって!?」


 ユリウスがテーブルに両手をついて勢いよく立ち上がる。続いてエリオットとニール、そしてキリルも立ち上がった。エミリアは状況がいまいちよく把握できていないようで、フォークをくわえたままできょとんとしていた。


「まさか、こんなに早く反乱が起きるとは……!」


 眉を寄せ、ユリウスが唇を噛む。


「今日にも御触れを出すはずだったのに!」


 エリオットも悔しそうにテーブルを叩いた。


 これまでの税金を元に戻し、多く取り上げた分はきちんと返還する、との御触れを今日これから出す予定だったのだ。


 それで国内については丸く収まるはずだった。反乱が起きる前に間に合うと誰もが思っていた。


 反乱が起こるとの報告は国の偵察団からのものだった。


 偵察団とはローベルト国王直属の精鋭部隊で、普段は首都ルアールの市民に交じってごく普通の平民として生活をしているという。


 そして、年に数回しか国内の視察ができない国王に代わって、あちこちの街や村の情勢を見て歩き、逐一国王に報告することが任務となっている。もちろん、その情報は正確なものだ。


 現在は直接ローベルト国王に報告をするのではなく、騎士団を通してユリウスに報告することになっていた。


 今回の反乱は税金を引き上げられ不満の募った国民、主にルアール市民とその近くの村民が起こすものだと偵察団から報告を受けたと騎士は話した。


「間に合わなかったというのか……!」


 渋い顔で椅子に座り直したユリウスが歯噛みする。


 もし反乱が成功すれば、国は滅びの一途をたどることになるだろう。今以上に国は混乱し、そこに目を付けた他国が攻め入ってくる可能性が非常に高い。


 デルニード国は周りの国に対してずっと中立の立場を貫いてきた。そのおかげで、争いのない現在の平和があると言っても過言ではない。


 逆に言えば、戦力と呼べるものはほぼ皆無に等しい。武器と呼べるものはかろうじて騎士団くらいのものか。だがその程度のものでは、他国が攻めてきたらほとんど抵抗することもできず、簡単にその手に落ちてしまうだろう。


 反乱軍は目の前のことに囚われ過ぎていて、きっとそこまで先のことは考えていない。それは明白だった。


「兄上、どうしますか?」


 エリオットがユリウスに指示を仰ぐ。ユリウスは腕を組んで目を伏せると、しばし思案する様子を見せた。


「……何とか反乱軍の内部に入り込めれば、あるいは。だが、私たちは顔が知れてしまっているからね……」


 ユリウスの発した言葉に、エリオットはすぐさま落胆した。


 確かにユリウスとエリオットは顔が知られ過ぎている。潜入はまず不可能だし、もし仮に潜入しようとして反乱軍に捕らえられたらどうなるか、それは想像に難くない。


 ならば、今動けるものは誰か。当然考えるまでもない。


 意を決してキリルが手を上げた。


「おれなら顔も知られてないし、普通の村人として潜入できると思うから任せてもらえないかな?」


 一同の視線がすべてキリルに注がれる。

 その場にいる全員が注目する中、キリルはさらに続けた。


「もし古書に書いてあった『予言』が本当だとしたら、きっと今回のこともおれに『国を救え』って言ってるんだと思う。だから、おれにどこまでできるかわからないけど、やるだけやってみようと思うんだ」

「キリル……」


 まだ晴れない表情のユリウスが仕方ない、とでも言いたげに嘆息する。


 今回は追い出されることのなかったエミリアは、相変わらず訳もわからないまま、ただ黙って凛々しく見えるキリルに見入っていた。


 ユリウスの様子に満足そうに目を細めたキリルは、今度は隣に座っていたニールの方を向く。


「ニールは顔、知られてる?」


 そう訊かれ、ニールはすぐさま首を横に振って微笑んだ。


「いいえ、ほとんど知られていないと思います」

「じゃあ、おれとニールで行ってくるよ」

「キリル様のためなら、喜んで」


 キリルとニールが確認し合うようにして一緒に頷く。


「ユリウス兄さん、反乱軍の場所はわかる?」


 テーブルに両腕を乗せたキリルがユリウスの方へと身を乗り出すと、ユリウスはこう答えた。


「偵察団に確認すれば、場所はすぐにわかるだろう」


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