第23話 呪いからの解放
「父上! 私のことがわかりますか!?」
真っ先に声を掛けたユリウスの顔を、ローベルト国王の瞳が捉える。
「……ユリウス……」
「僕のことはわかりますか!?」
今度はエリオットの方を向いて、ゆっくり頷いた。
「エリオット……だね」
小さいが優しい声音だ。
そんなやり取りに、少し離れたところにいたキリルとニールが安堵の溜息をつく。
どうやら無事、元に戻すことができたようだ。【アウローラの鏡】で元に戻ったということは、やはり呪いがかけられていたのだろう。
誰がかけたものかはさっぱりわからないし、見当もつかないが、今はローベルト国王を助けられたことを素直に喜んでもいいだろう。
キリルとニールが顔を見合わせて微笑んでいると、それまでユリウスとエリオットを交互に見やっていたローベルト国王の目が二人に向けられた。
「ニールと……そこの少年は……?」
そういえば会ったのは初めてだった。キリルが慌てて挨拶をしようとすると、その前にユリウスが口を開き、キリルのことを紹介してくれる。
「彼はキリルと言います。オフェリア様のご令息で、この国の第四王子です。父上もよくご存じでしょう」
ユリウスの言葉にローベルト国王が息を呑んで、瞠目した。
「まさか、本当にキリルなのか……!」
「……はい」
キリルが静かに頷く。
「そうか、オフェリアの……。こんなに大きくなって。して、オフェリアは今どうしている?」
ローベルト国王に問われ、キリルはそっと目を伏せると、
「母は十年ほど前に病気で亡くなりました。その形見がこれです」
そう言って数歩前へと進み出て、懐から銀の懐中時計を出して見せた。
「おお、これは私が息子の生まれた祝いにと、オフェリアに贈ったもの。蓋の細工はキリルの肩の痣をモチーフにしたものだ。やはりお前は息子のキリルなのだな……」
感慨深そうに、ローベルト国王は何度も何度も頷く。その表情はとても柔らかいものだ。
「しかし、オフェリアはすでに亡くなってしまったのか……。いつかこの城に呼び戻したいとずっと思っていたのだが」
その言葉にキリルは首を傾げた。
「……あの、母はおれと一緒にこの城を追われたと聞いていますが」
素直に疑問をぶつけると、ローベルト国王は薄く目を閉じる。どうやら昔のことを思い出しているようだ。
「私には追い出すつもりはなかった。しかし臣下の者たちがうるさく、仕方がなかったのだ」
そして大きく息を吸い、吐き出した。
「……そうだったんですか」
「ああ、お前たちには本当に申し訳ないことをしたと今でも思っている」
ローベルト国王は頭を下げる。その様にキリルはすぐさま首を横に振った。
「いいえ、気にしないでください。ところで身体の方はもう何ともありませんか?」
「あ、ああ。身体は少しだるい気がするが、問題ない。しかし、私は一体どうしたというのだ?」
その言葉にユリウスが口を開く。
「父上は何者かに呪いをかけられていたのです。何か心当たりはありませんか?」
ローベルト国王はしばし考え込んだ。そして言う。
「……いや、特に心当たりはないと思うが。だがずっと長い間眠っていたような、とても不思議な心地だ」
「そうですか」
残念そうにユリウスは俯いた。そんな彼にエリオットが声を掛ける。
「とにかく、父上を元に戻すことはできたんですから、今はそれで良しとしましょう」
「……そうだね」
ユリウスは力なく頷いてみせた。
その後、キリルたちはローベルト国王を自室へと送り届け、眠りにつくのを待ってからそれぞれの自室に戻った。
キリルはユリウスたちと別れると、ニールの部屋の隣に用意された専用の客室に入る。そして真っ暗な部屋の中、扉に背中を預けると深く息を吐き、緊張を解いた。
あまりにもあっさりと呪いが解けて、少し拍子抜けはしたが、目的は無事に達成された。これで【救国の王子】としての役目は果たせただろう。
剣を取ることもなく、魔法を使うことも必要とされず、キリルは正直ほっとしていた。
今回の犯人はこれから探すことになるだろうがこれで国も安泰だろうし、ひとまずは安心だ。
そうは思うが、何だか上手く行き過ぎているような気もしていた。
これからまだ何か大きなことが起こりそうな、そんな嫌な予感のようなものが漠然とキリルの心の中で渦巻いていた。
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