第26話 反乱軍への潜入・2

 そんなキリルの姿に気付いたらしい祖父母が急いで寄って来る。


「キリル! 無事だったんだね!」


 両目に涙を浮かべた祖母がキリルを力一杯抱きしめた。その横では口元の少し緩んだ祖父が、祖母の背中を優しく撫でている。


 まさか、このような場所で再会することになるとは思ってもみなかった。そして周りにほとんど人がいなくてよかったと思った。さすがにこの歳になって祖母に抱きしめられるのはちょっとだけ恥ずかしいなどと思ってしまったのだ。


 しかし数人いた他の人間はそんな様子を気に留めることもなく、思い思いに自由に過ごしているらしかった。


「……どうして、こんなところに」


 どうにかそれだけを絞り出すと、ようやくキリルを解放した祖母が言う。


「……村の会議で反乱軍に加わることになってね。もちろん全員ではないけど。でも私たちはルアールに行けばお前がどうなったかわかるかもしれないと思って」

「……だから、反乱軍に参加したの?」


 キリルの言葉に祖父母ははっきりと頷いて見せた。


「ところで、こちらの方は?」


 祖母に問われて存在を思い出す。すっかり忘れててごめん、とキリルは心の中でニールに必死に謝った。


「えっと、彼はニールって言って、母さんの知り合いみたいな感じで今は一緒に行動してる」


 簡単に説明してニールを見やると、


「初めまして、ニールと申します。キリル様には大変お世話になっております」


 そう言って優しい眼差しを祖父母に向けてから、恭しく頭を下げた。


 王族ではないにしても、さすがにずっと城で育ってきただけはある。キリルが思わず感嘆するほどの優雅な物腰だった。これらもきちんと城で教育されたものなのだろう。

 少し悔しいが、どうやってもキリルには真似できないものだ。


「そういえば、ここのリーダーってどこにいるの?」


 そうだ、と手を叩いたキリルが祖父母に小声で問うと、祖父が無言で奥の扉を指差した。


 そう、元々祖父は物静かで口数は少ない。たった数日会わなかっただけなのに、そんなどうでもいいようなことに何だか嬉しくなってしまう。祖母も相変わらずのようで、思わずキリルの口元が綻んだ。


「……どんな人?」


 少しでも情報を得ようとしたキリルがさらに問うと、祖母から思いがけない言葉が返ってきた。


「普通の人ね」

「は!?」


 大声を出しそうになって、キリルは慌てて自身の口を両手で塞ぐ。


 普通の人とは一体どういうことなのか。いや、確かに今回の反乱はルアール市民とその周辺の村民が起こそうとしているとは聞いていたが。


 視線だけでまた問い掛けると、さらに祖母が答えてくれた。


「本当にごく普通のルアール市民よ。少しだけ話をしたけど、ルアールで鍛冶屋をやってるって聞いたわ」

「鍛冶屋……ね」


 キリルが眉を寄せ、唸る。


 カーミス村には鍛冶屋というものがないからよくわからないが、鍛冶屋と言われて思い浮かぶのは、頑固親父がただひたすら無言で金属を叩いているようなイメージだけだ。もし本当に頑固親父ならば口で何とかなる相手だとは到底思えない。


 今回はだめかもしれない。そんなことが頭をよぎり、頭を掻きむしりそうになっているとニールが言った。


「鍛冶屋って、もしかしてノエルさんだったりしますか?」

「そ、そうだけど……」


 祖母はどうして知っているのか、と言わんばかりに何度も目を瞬かせる。キリルも疑問の視線をニールに投げつけた。


「前に一度、剣を作ってもらったことがあるんです。それにルアールの鍛冶屋はそんなに多くはないですから」

「……どんな人?」


 先程祖父母に言った言葉をそのままニールにも向ける。すると彼は顎に手を当て、少し上を見た。どうやらノエルさんとやらのことを思い出しているらしい。


 そして待つこと数秒。


「……普通の人ですね」


 同じ答えが返ってきた。


「いや、普通とは言っても色々あると思うんだけど」


 キリルが思わず不満を漏らすと、ニールはさらに考えるような素振りを見せる。


「そうですね……。でも百聞は一見に如かずと言いますし、実際に会った方が早いと思います。とりあえずちゃんと話は通じる相手だと思いますよ」


 キリルの考えていることがわかっていたのか、ニールはそう言うとにっこり微笑んだ。


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