第20話 再び、ビレンナ村へ
エルデの洞窟に入った時は空のてっぺんにあった太陽が、洞窟を出た今はかなり傾いていた。まだ日は沈んでいないが、あと一、二時間もすれば沈み出すだろう。
キリルたちはすぐに城に戻りたいところではあったが、ビレンナ村に寄って村長に報告することがまず最優先だった。
ビレンナ村に着いたキリルたちは遠吠えの正体についての説明と、その原因だった大穴を塞いできたことを話すため、すぐさま村長の家を訪れた。
「おお、あんたたちは」
無事にエルデの洞窟から戻ってきたキリルたちを見て安心したのだろう、村長が嬉しそうな顔で出迎えてくれた。
居間へと案内され、椅子に座るように促されると、三人は素直にその言葉に従って小さな木の椅子にそれぞれ腰を下ろした。
「で、どうでしたかな?」
水の入ったコップを人数分持ってきた村長が、それをテーブルに置きながら単刀直入に訊く。
「はい。まず遠吠えの正体ですが、これは洞窟の一番奥、祭壇があった広間に大きな穴が空いていました」
エリオットがコップを遠慮なく手に取りながら簡単に答えると、村長は不思議そうに首を傾げた。
「穴、ですか?」
「ええ、その穴から吹き込んだ風が洞窟を抜ける際に大きな音が出ていたんです」
「まさか、それが……」
「そうです。その音が遠吠えのように聞こえていたんです」
そこで一旦区切って、エリオットはコップに口をつける。
だが、その様子にもう話が終わってしまったのかと、村長はまだ不安そうな表情を見せていた。正体がわかっても原因を払拭できたわけではないと思っているのだろう。
そんな村長の不安をすぐにでも取り除かなければ、とキリルは慌てて付け加える。
「でも、その穴はおれたちでちゃんと塞いできましたから、もう遠吠えは聞こえないと思います」
「……そうですか!」
村長がほっと胸を撫で下ろし、柔らかな笑みを零す。
「はい! もう大丈夫です」
キリルも力強く頷いて、笑顔を見せた。
「しかし、そんなことだったのなら自分たちで調べに行くべきでした。それを村外のあなた方に頼んでしまい、本当に申し訳ありませんでした」
すべての事情を知った村長が深々と頭を垂れる。
「おれたちもエルデの洞窟に用事があったんで、そのついでに調べてきただけですから」
キリルが気にしないでくれ、と両手を左右に振りながら答えると、エリオットとニールもそうだそうだ、と言わんばかりに頷いた。
そこで村長は何かを思い出したように手を打つ。
「そうです! 大したお礼はできませんが、せめて一晩泊まっていってはくれませんか?」
その言葉にキリルたちは困惑した。
村長の申し出は本当にありがたかった。
だが、自分たちの用事を済ますついでに大穴を塞いできただけだ。そこまで大袈裟なことはしていないし、今は一刻も早くデルニード城に戻らなければならない。三人はそれを丁重にお断りすることにした。
「村長さんのお言葉はとてもありがたいのですが、僕たちはすぐにでも帰らないといけませんので……申し訳ありません」
エリオットが丁寧に謝罪の言葉を紡ぎ、頭を下げる。キリルとニールもそれに倣った。
ちなみにエリオットとキリルが王子であることは、この村ではずっと秘密にしていた。別にわざわざ名乗る必要もなかったし、名乗ったところで何かが変わるとも思えなかったからだ。それに下手に名乗って騒ぎになることも避けたかった。
キリルたちが丁重にお断りした後、村長は残念そうな表情をみせながらも村の入り口まで一緒に送りに来てくれた。
「また今度、スープを飲みに来ます!」
笑顔で手を振る村長に見送られ、ビレンナ村を後にする。キリルも村長の姿が見えなくなるまで、懸命に手を振り続けた。
ラウラの時もそうだったが、やはり人との別れとは何度経験しても寂しいものだと思う。けれど、ラウラも村長も生きている。会おうと思えばいつでも会えるのだ。すでに亡くなってしまった母とは会うことはできないが、彼らにはまた会える。
キリルは少し感傷的になりながら、帰路についたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます