第17話 地精霊との戦い
大きく両手を振りかぶったラウラに呼応するかのように、その周囲に転がっているたくさんの岩がキリルたち目がけて勢いよく向かってくる。
それを見たエリオットが一歩前へと進み出た。口元で何かを唱え、両手を目の前にかざすとやや青みがかった大きな物理障壁が現れる。岩はそれに直撃するとそのまま弾かれ粉々に砕け散った。
「なかなかやるね」
自分の攻撃を凌がれたにも関わらず挑戦的な笑みを浮かべるラウラに、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。
長剣を構えたニールがエリオットの後方から飛び出すと、そのまま一気に駆け抜けてラウラとの距離を詰める。
しかし上段から剣を振り下ろそうとしたところで手前の地面が隆起して、ラウラを守るように高い岩の壁が形成されてしまう。
途中で止めることのできなかったニールの剣が、大きな音を立てて岩の壁にぶつかった。
キリルはそんな様子をただ黙って、エリオットの傍らで見ていることしかできないでいた。
最初は自分も剣で攻撃すると言った。
城を出発する時にユリウスが護身用にと持たせてくれた短剣がある。だから大丈夫だと言ったのだが、ニールは決して首を縦には振らなかった。
「ここは俺に任せてください。キリル様は後方援護をお願いします」
ニールが自分を危険な目に遭わせたくなくて、そう言ったのだろうということはよくわかる。でも自分だって一人前に戦える。もちろんニール同様にとまではいかないかもしれないが、それでもそれなりの自信はあった。
だから後方支援という名の防御係を任されて、キリルは少々不満を持っていた。
そんな時、ニールの攻撃の合間を縫ってまた多数の岩が飛んできた。
エリオットがもう一度物理障壁を発動させようとするが、キリルはエリオットの前に出ることでそれを制し、自らで物理障壁を発動させた。
しかし。
「――――っ!?」
発動自体は何とか上手くいった。が、その障壁はエリオットのものと比べとても薄く、範囲も小さなものだった。
そこにたくさんの岩が直撃するが、そんな障壁ではどうあがいても岩を砕いて相殺するのが精一杯で、衝撃には耐えられず一瞬にして掻き消えてしまう。少しは飛んでくる勢いを弱め、数を減らすことができたとはいえ、一部の砕かれた岩は障壁のなくなったキリルへとまっすぐに向かってくる。
とっさに両腕で顔を覆い、顔面への直撃は回避するものの、両腕には無数の擦り傷や切り傷ができ、血が滴った。エリオットはキリルの後ろにいたおかげでほぼ無傷だったが、ラウラの次の動きに目を見張った。
「キリル様! エリオット様!」
同じくラウラの行動に気付いたらしいニールが振り返って叫ぶ。
ラウラの攻撃の第三波だ。キリルが気付いた時にはすでに遅かった。
キリルたちの方へと向かって、これまでとは比べ物にならない大きさの岩が飛んできている。あれが自分たちに直撃すれば大怪我では済まないかもしれないだろうことはすぐに察した。だがもう間に合わない。
思わずキリルが目を閉じてしまいそうになった時だった。
「キリル、下がって!」
エリオットの厳しい声が後ろで響いた。と同時に腕を思い切り引かれ、その勢いで態勢を崩したキリルは彼の隣で尻餅をついてしまう。
しかしエリオットはそんなキリルに構うことなく、急いで物理障壁を発動させ、自身とキリルを守った。しかもあれだけの大きな岩が直撃した障壁はキリルのそれとは違い、まだしっかりと形を保っている。
キリルはその様に愕然とした。
ショックだった。
これが『魔法は必要のないものだから』と、今まで訓練を怠ってきたツケだったのか。勘さえ取り戻せればもっとすごい魔法が使えるはず、そう信じていたものが大きな音を立てて一気に崩れたような気がした。
勘を取り戻すも何も、最初から自分には幼い頃と同じ程度の魔法しか使えないではないか。しかもファイヤーボールに至っては小さなものすら出せなかった。
剣だって、もしかしたら自分が勝手に強いと思い込んでいただけで、ニールのような熟練者から見れば子供のお遊びのように見えていたのかもしれない。
剣の熟練者はその人物を見ただけでどの程度の使い手かがわかるという。だからニールは自分に剣を使わせなかったのではないか。そう、邪魔にしかならないから。
悔しかった。同時に、何もできず幼い子供のようにただ守られるだけの自分が恥ずかしくもあった。
そこにあるのは落胆。いや、絶望にも似たものだったかもしれない。
エリオットの傍らで座り込み、俯いたままのその瞳からは光が消えていた。
その時だった。
「……これで俺たちの勝ちです」
ニールのわずかに笑みを含んだ声に、キリルはゆっくり顔を上げる。彼は地面に倒れているラウラの喉元に剣の切っ先を突き付けていた。気付けばもう戦いは終わっていたのだ。
最前線で戦っていたニールはほとんど息を切らすこともなく、怪我らしい怪我もしていない。ラウラの攻撃のほとんどがこちらに向かってのものだったにしても、きっと余裕での勝利だったのだろう。
今になって心から、ニールの制止を振り切って無理に前線に出るような馬鹿な真似をしなくてよかったと思う。ただ、エリオットには多大な迷惑を掛けてしまった。自分が出しゃばらなければもっと楽に戦えていたかもしれない。そう考えると今すぐこの場から消えてしまいたかった。
「……久しぶりに思い切り身体を動かせて楽しかったよ」
仰向けになったままのラウラが晴れやかな笑顔を見せる。その様子にニールが剣を収めると、服の汚れを払いながらラウラが立ち上がった。まだまだ元気そうだったが、その言葉の通り身体を動かすことができて満足したのだろう。
「さて、と。じゃあちゃんと約束は守るよ」
そしてラウラは少し前のことだけど、と前置きをして簡単に話をしてくれた。
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