第16話 地精霊ラウラ
「ここで勝手なことをしないでもらえるかな?」
見れば、一人の少年が腕を組んでふんぞり返っていた。
まさか後をつけてきていたのだろうか。それとも、先にこの少年がここに来ていたのか。
「……君は?」
キリルが自分よりもずっと小柄な少年に問うと、彼は大袈裟に溜息をつき、肩をすくめてみせる。
「ボクのこと知らないの?」
「……はい」
キリルたちは顔を見合わせると、同時に頷いた。
顔すらこれまでに見たことがない。それはニールやエリオットも同じだった。そんな彼らの様子に少年は大きな声を上げる。
「信じられないっ! 自分たちで祀っておいてさ!」
そう言って憤慨した少年の言葉でキリルはあることを思い出す。ビレンナ村の村長が話していたことだ。
そういえば、少年の後ろには何かを祀っているような祭壇がある。
「……もしかして、地精霊……?」
この少年がそんなはずはない、とは思いつつも念のために聞いてみると、
「もしかしなくてもそうなんだけど」
あっさりと返された。
「ええーっ!」
次の瞬間、まさかの地精霊本人の登場に、キリルたちの大声が洞窟内に響き渡る。
これはキリルの勝手な想像なのだが、精霊というからにはもっとこう威厳のある、白くて長い髭をたくわえたお爺さんみたいな人物だと思っていたのだ。
しかし、どうやらニールやエリオットも同じような人物を想像していたようで、二人共揃ってあんぐりと口を開けていた。
「まさか、本当に精霊がいるなんて……!」
エリオットが感動したように瞳を潤ませる。
精霊とは魔法の根源を司る者だから、エリオットのような魔法使いならば誰しも一度は会ってみたいと思うだろう。
だが、キリルの場合は幼い頃に魔法というものから離れてしまったため、これまで特に精霊に会ってみたいと思ったことはない。それでも実際にその存在を目の当たりにすると、やはり驚きを隠せなかった。魔法の素質がないと言っていたニールも当然、例外ではない。
そんなキリルたちの反応に満足したのか、少年姿の精霊は腰に両手を当てて胸を張った。
「そう! ボクこそが地精霊のラウラ!」
勝ち誇ったように勝手に自己紹介をしてくれる。少年姿のせいかどうにもテンションが高いが、実際の年齢は多分聞かない方がいいのだろう。それに見た目だけで判断してはいけない。これは祖父母から教わったことだ。
「ところで、キミたちはなんでこんなとこに来たのさ」
その言葉にキリルはまたひとつ大事なことを思い出す。ここに来た一番の目的だ。
「そうだ! この洞窟に【アウローラの鏡】っていうのがあるって聞いてきたんですが、知りませんか?」
下手に精霊の機嫌を損ねると大変だ。キリルはできるだけ丁寧に、ジェスチャーも交えながら尋ねた。
「【アウローラの鏡】……?」
「そうです! おれたち、それを探しに来て……!」
キリルが必死に訴えるとラウラは目を閉じ、少し思案した。そしてゆっくりと口を開く。
「少し前……人間からすれば十年くらい前かな、この洞窟に誰も来なくなってずっと退屈してたんだよね」
「……?」
キリルたちは揃って首を傾げた。ラウラの言っている言葉の意味がわからない。一体何の話だろうと思いながらも、そのまま耳を傾け続ける。
「その鏡にまったく心当たりがないわけじゃない。ボクの知っているものがキミたちの探し物かはわからないけど、こうしよう? ボクと戦って、勝てたらその話を教えてあげるよ」
「えーと、つまりは戦えばいいってことですか?」
キリルの問いに、ラウラは何度も大きく頷いてみせた。そこで三人は顔を見合わせて視線だけで会話をする。
(どうしよう……?)
(できれば戦いは避けたいですが、精霊の提案を
(戦って勝たないと情報がもらえませんし……)
(じゃあ、戦うしかないよね)
ラウラの知っているものが【アウローラの鏡】なのかはまだ不明だが、それは戦って情報をもらうしかない。手掛かりは少しでも多い方がいい。むしろ手掛かりはこれしかないと言った方が正しい。
そう判断した三人はラウラと戦うことを決意した。
「そうこなくっちゃ」
本当に退屈していたのだろう。ラウラは心底嬉しそうに腕まくりをしてみせる。キリルたちも一斉に身構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます