第15話 噂の真相

 カンテラを持ったニールが先頭に、そしてキリル、エリオットと続いて進んでいく。


 さすがに精霊を祀っている洞窟だけあって、昔は大勢の人々が訪れていたのだろう。洞窟の入り口も大きかったが、内部も広く、両側の壁にはほぼ等間隔にカンテラがぶら下げてある。しかし残念なことに、そのすべてが今はまったく機能していないようだった。長年放置されていたせいで劣化してしまったのだろう。


 道もほぼ一本道で、ほとんど分かれ道に遭遇することはなかった。ごくたまに分かれ道らしいものがあっても、壁に配置されたカンテラを辿って行けば、精霊を祀っている最奥部に着くということは村長に聞いて知っていた。


 だからまずは最奥部を目指すことにした。そこまでは良かった。だがこの洞窟は直線的ではあるが徐々に上へと向かっている作りらしく、坂道が多い。傾斜自体はそれほどきつくはなくても、ずっと続けば疲れが出てくるのは当然だ。


 ニールはともかく、普段は畑仕事で身体を使っているキリルでさえきつかったのだから、剣術や身体を動かすことが苦手だというエリオットにはもっと辛い道中だっただろう。途中で何度も休憩を入れながら三人は最奥部を目指した。


 やっとのことで大きく開けた場所に出る。


 そこは周りにある鉱石が淡い緑色の光を放っていて、カンテラの必要がないくらい明るい。何となく神秘的なものを感じる場所で、もしかしたら本当に精霊がいるのかもしれない、彼らにそう思わせるには十分だった。


「ここが一番奥……? 魔物どころかまともな動物すらいなかったけど」


 少し拍子抜けしたらしいキリルがぽつりと漏らす。息を整えながら辺りを見回していると、急に強い風がキリルたちの頬を叩き、髪を乱した。


「……風が外から吹き込んできてる……?」


 さらに注意深く観察しながら風上を探すと、ずっと奥の壁に大きな穴が空いている。


「もしかして、あの穴から……!」


 三人で慎重に穴の方へと向かう。間近で見れば、直径はキリルの身長よりも少し小さいくらいのものだ。


 しかし、そこから強い風が入り込んできている。この穴の近くで少しでも気を抜くと、足を取られ後ろへと飛ばされそうだ。


「洞窟なのに、随分と風が流れていると思えばこういうことでしたか。なるほど、そしてこの穴のせいで村人が困っていた、と」


 エリオットの納得したような呟きに、キリルは素直に感心する。


 自分は最奥部を目指すのに精一杯で、風を感じる余裕すらなかったのだが、エリオットは違った。きつい道中でもきちんと周りの様子にも気を配っていたのだ。そしてどうやら遠吠えの正体も掴んだらしい。


「この穴が遠吠えと関係してるってこと?」


 キリルが答えを促すように尋ねると、エリオットは大きく首を縦に振った。


「ここから吹き込んだ風が洞窟を抜ける際に大きな音が出ていたんです。いわば、この洞窟そのものが大きな笛みたいなものだったということですね。その音が遠吠えのように聞こえていたわけです」

「じゃあ、この穴を岩とかで塞げば……!」


 幸いなことに、この辺りにはたくさんの石や岩が転がっている。それらを積み上げていけば穴を塞ぐことは十分可能だろう。


 キリルたちが早速作業に取り掛かろうとした時だった。突然背後から聞き覚えのない声がして、三人揃って振り向いた。


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