第14話 ビレンナ村にて

「ここで合っているはずです」


 簡単な地図の描かれたメモを手にしたエリオットが洞窟を見上げながら言う。キリルは途中で敬語を使うのを自然にやめたが、どうやらエリオットの敬語は生来のものらしい。


「でも、本当にここに魔物なんているのかな……?」


 キリルはこの洞窟に来る途中で、少し早めの昼食と情報収集のためにと向かったビレンナ村で聞いたことを思い出した。



  ※※※


 

 ビレンナ村に立ち寄った三人はまずは昼食にしよう、と食堂に入った。また、食堂なら人も集まるだろうから、情報収集にはもってこいだろうとの考えからだった。


 この村特産の豆がたくさん入った、野菜とベーコンのスープはとても美味しかった。こういう庶民の食事が苦手そうに見えるエリオットも、


「素朴な味ですが、これはこれでなかなか美味しいものですね」


 そう言いながら数回おかわりをし、実に美味しそうに食べていた。キリルとニールが一杯だけでお腹がいっぱいになったことを考えると、意外と彼は大食いなのかもしれない。


 その後近くのテーブルにいた村人らしき男を捕まえると、早速エルデの洞窟についての話を切り出した。


 すると男は怯えたような表情を見せ、『詳しい話が知りたければ村長のところに行ってくれ』と、そそくさと店を後にしてしまったのである。


 仕方がないので、とりあえず言われた通りに村長のところに向かった三人はそこである事実を知る。



  ※※※



 白髪にお揃いの白髭をたくわえた村長の話を要約するとこうだ。


 エルデの洞窟とは、昔からこの洞窟に住むと言われる地精霊ちせいれいを祀っている場所である。


 しかし、十年ほど前から動物の遠吠えのようなものがしょっちゅう聞こえてくるようになった。


 村人は魔物が住んでいるのだと噂をするが、誰も洞窟に近づこうとはしないのでその正体を知る者はいない。


 今もその遠吠えのせいで人がまったく寄り付かないのだ。


 もし洞窟に行くのなら、遠吠えの正体を調べてきてはもらえないだろうか。



  ※※※



 村長はそう言って頭を下げると、エルデの洞窟までの地図を描いたメモをキリルたちに渡そうとした。


 断る理由もない三人は『用事を済ませるついでに調べてきます』と、ありがたくメモを受け取ったが、結局【アウローラの鏡】については村長も知らず、本当にあるかどうかすらわからないままだった。


「この国には魔物なんていないはずですが……。もちろん隣国でも聞いたことはありません」


 手にしたメモに視線を落としたエリオットが、訝し気に眉をひそめる。


「何があってもキリル様は俺が必ず守りますから!」

「ニール、それは僕のことは守らないということですか?」

「えっ、いや、その……」


 ニールとエリオットのやり取りに、思わずキリルはくすりと笑ってしまう。そんなキリルに二人は揃って頬を掻いた。


「でも、一応用心しておくに越したことはないよね」


 キリルがニールとエリオットに視線を向ける。そして三人で頷き合うと、洞窟に向かって最初の一歩を踏み出した。


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