第13話 ニールの正体
翌日、昼過ぎのこと。
エリオット、ニール、そしてキリルの三人は、ぽっかりと口を開けた洞窟の前で佇んでいた。
「ここだよね……?」
あくびを懸命にかみ殺しながら、キリルが二人に尋ねる。
昨日は森の中を走り回ったり、馬の背に揺られたり、とすごく眠いはずだった。だが精神的に色々とごたごたし過ぎていたせいで、なかなか寝付けなかったのだ。
キリルの服装はこれまで村で着ていたものよりも小綺麗なものになっていた。綿の白いシャツにこげ茶のベスト、そして黒いズボンといったいで立ちだ。
これはユリウスがキリルのために、と大量に持ってきてくれたものの一部だった。
絹で作られた真っ白なシャツやビロードのズボンなどの豪華なものもあったし、ユリウスはそれらを熱心に勧めてくれたが、その豪華さに気圧されて袖を通すことすら躊躇われたキリルは、これから洞窟に行くのに汚してしまってはいけない、と丁寧に断った。
しかし、ユリウスとエリオットの客人扱いになっていたキリルはさすがにこのままの汚れた恰好でいるわけにもいかず、仕方なしにユリウスが持ってきた洋服の中から一番シンプルで動きやすそうなものを選んだのである。
ここに来るまでの道中で、キリルたちはかなり親しくなっていた。そして、気付けばキリルはエリオットに敬語を使うこともなくなっていた。もちろん、エリオットはそれを咎めることはしなかったし、むしろ喜んでいる様子だった。
これまで自分ひとりで馬に乗ったことのないキリルは、今回もニールの馬に同乗させてもらっていた。
途中でキリルはニールに現在のオフェリアについて訊かれたが、素直に亡くなったことを打ち明けると、彼は一瞬目を見開き、その後は心底残念そうにがっくりと肩を落とした。
だが、ニールはその事実をどうにか受け止め、改めて『自分がオフェリア様の分もキリル様を守らなければ』と、決意を新たにした。
また、キリルはようやくニールの正体について知ることができた。
本当は昨日のうちに聞きたいと思っていたのだが、なかなか聞く機会ができずに今日になってしまったという訳だ。
彼は城の庭師の息子で、生まれた時から城に住んでいるらしい。そして現在はエリオットの世話係として生活しているが、エリオットは何でも自分でやってしまうから仕事がほとんどなくて困っている、と言葉とは正反対に、まったく困っていなさそうに笑ってみせた。
そのせいで結構時間のあることが多いので、そんな時は騎士団の宿舎に赴き、暇そうな団員を見つけては剣の稽古をつけてもらっているのだとも言った。また、ユリウスと一緒に稽古と称した打ち合いをすることもあるのだと話してくれた。
そして生まれた時に母を亡くしたニールは幼い頃からずっと、後宮にいたオフェリアに実の息子のように可愛がってもらっていたのだとも語った。とても美しく、優しい方だったという彼の言葉に、キリルも記憶の中の母も同じだったと深く頷いた。
そんな経緯で、生まれたばかりのキリルとはよく会わせてもらっていたのだが、オフェリアがキリルと共に城を追われることになった際、彼女は当時五歳だったニールにこう言ったのだという。
「大きくなったら、キリルの力になって。そして守ってあげてね」
幼いニールはその言葉に泣きそうになりながら何度も頷き、そしていつか再会することを願い、ずっと剣術の稽古をしてきた。
そうして、オフェリアとの再会は結局叶わなかったが、キリルとの再会は無事果たせたというわけだ。
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