第12話 王女エミリア・2

「エミリアを今回のことには巻き込みたくないからね」


 嵐が去り静かになった部屋で、うなだれたユリウスが疲れた声で言う。


「……」


 エリオットとニール、そしてキリルは黙ってその言葉に頷いた。


 本当に彼女は嵐のようだった。おそらく、今回の話を知れば『わたしも一緒に行きますわ!』などと、鼻息荒く言いそうなくらい勢いのある王女だった。いや、言いそう、ではなく間違いなく言うだろう。


 気を取り直すように、ユリウスが大きく息を吐く。


「キリルが実の兄だということは、折を見て私からエミリアに話しておくよ。あの子のことだから『それでも構わない』と言うとは思うけれど」


 そして、ユリウスは力なく笑ってみせた。まったくと言っていいほど、気を取り直せていない様子だ。


「でも、この国では片親が違う場合は結婚できるんですよね……」

「……ああ」


 さらに追い打ちをかけるようなエリオットの残酷な言葉に、ユリウスが頷き、キリルとニールはそっと目を伏せた。


「もちろん、キリルがエミリアのことを気に入ってくれたのなら、それはそれで構わないけれど」


 わずかに気力を取り戻したらしいユリウスにさらりと言われ、キリルは当然のことながら困惑する。


「えっと……」


 答えに困っていると、ユリウスはくすりと小さく笑った。


「第一印象はちょっとあれだったけど、とてもいい子だよ。まあ、今はエミリアのことは気にしなくていい。それよりも、まずは父上を元に戻すのが先決だ」


 確かにユリウスの言う通りだ。今の自分にはエミリアとのことを考えている暇はない。先にやるべきことがあるのだから。


「わかりました」


 キリルとニールが顔を引き締めると、それにエリオットが続く。


「それでは早速、明日の朝に出発しましょう」


 その言葉に全員が力強く頷くと、一斉に立ち上がった。


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