第6話 王子たちとの対面
応接間の扉をノックする音に、キリルの心臓が大きく跳ねる。慌てて振り返ると、ゆっくり開いた扉から入ってくる金髪の人物が二人、目に映った。
一人は背中まである長い金髪を後ろで緩く三つ編みに束ねている、碧眼の青年。年齢はニールよりも少し年上くらいに見えた。身長もニールとほぼ同じか、わずかに低いくらいだ。
もう一人の青年はキリルと年齢が近そうに見えた。少しだけ彼の方が年上だろうか。彼も同じく金髪だったが、肩に軽く触れるくらいの長さで、
「ユリウス様、エリオット様!」
彼らが現れると、ニールはばつが悪そうな表情で立ち上がった。慌ててキリルもそれに
村では見たことのない、
「初めまして、キリル」
「初めまして」
二人はキリルの前まで来ると、それぞれ声を掛けてきた。そんな彼らに対して、
「は、はじめまして!」
キリルの声は思わず上ずってしまう。緊張はすでにピークを迎え、彼らのこれからの言動で自分の生死が決まってしまうことすらすっかり忘れてしまっていた。
ところで、つい反射的に挨拶を返してしまったが、どちらがユリウス様でどちらがエリオット様だろうと困っていると、ニールがこっそり耳打ちしてくれた。
(長い金髪の方がユリウス様で、眼鏡を掛けている方がエリオット様です)
その言葉にキリルは胸を撫で下ろす。
ユリウスの物腰は先程からとても柔らかく友好的に見えるが、エリオットからは眼鏡を掛けているせいか、一見してどうにも冷たい感じを受けた。
キリルは、自分が知らないうちに何かエリオットの気に
しかし少しずつ冷静になっていくにつれ、また言い知れぬ不安が湧き上がってくる。これからどんな話が自分を待っているのか、やはり殺されてしまうのだろうか。何も悪いことをした記憶がないのに、殺されるとは一体どういうことか、と
だが、そんなキリルに掛けられたユリウスの言葉は意外なものだった。
「いや、正確には『初めまして』ではないかな」
「え……?」
一瞬、キリルは自分の耳を疑った。
『初めまして』ではないということは、どこかでユリウスに会ったことがあるのだろうか。しかしそんな記憶は自分の中にはない。もしユリウスがカーミス村に来たことがあるのならば村はきっと大騒ぎになっているはずだから、多分その可能性は薄いだろう。
では一体どこで会ったのだろうかとキリルが懸命に思い出そうとしていると、ユリウスは意味深に微笑んでみせる。
そして今度はエリオットが口を開いた。
「ニールもそうですよね? 僕は『初めまして』で合っていますが」
「……はい」
ニールが細い声で静かに答える。そんな二人のやり取りにキリルは目を瞬いた。
どうやらエリオットとは初対面で合っているらしいが、ニールとは今日初めて会ったばかりではなかったのか。やはり母が関係しているのだろうか。
今日一日で色々なことが起きすぎて、キリルの頭の中は混乱し始めていた。ぐるぐると回る頭の中を整理しようとしていると、ユリウスがニールに向かって言う。
「それでは、まずは君が単独で勝手に動いた件について、詳しく話してもらえるかな?」
彼は満面の笑みをたたえてはいるが、有無を言わさない雰囲気を
そうしてユリウスはエリオットと共に、テーブルを挟んだ、向かいのソファーに並んで腰を下ろす。その様子にキリルとニールも揃って腰を下ろした。
やや間があって、ニールが話し出す。
「……ユリウス様直属の騎士団がキリル様を探しに出たと知り、俺はすぐさまその後を追いました。……キリル様を殺させるわけにはいかなかったからです」
彼の言葉に、ユリウスとエリオットは顔を見合わせると同時に首を傾げた。キリルも何のことなのかさっぱりわからず、頭の中にたくさんの疑問符を浮かべる。
「殺す? キリルを?」
「どうしてそんな発想が出てくるんですか」
「え、っと、キリル様が【災厄の王子】だから、存在を消そうとしているのではなかったのですか……?」
今度はニールが首を傾げる番だった。
どうやら彼はキリルが殺されると思って、それを助けるためにわざわざカーミス村まで来たらしいが、ユリウスとエリオットにはそんなつもりはないようだった。
どこかでボタンを掛け間違えたかのように話が噛み合っていない。
そんな中、すっかり
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