第8話 自分を信じられないから-1

 ずっと、独りだったんだよ。

 いくつもの群れに転がり込んで沢山の同族と出会ったけど、誰も私の傍に居てくれなかった。

 群れに置いてくれる理由は、私の魔法が役立つものだからかなぁ。

 どれだけ酷く利用されようと自分から群れを離れないのは、独りは嫌だから。

 純粋な狐人なら、一人でも生きて行けるだろうけど、私の半分は犬人。

 その本能が群れを必要としてしまう。

 まぁ、それでも普通の犬人より独りになる恐さは強いと思うけどねぇ。

 …恐いんだよぉ。

 独りは恐い。

 だから、傍に置いてもらえるなら

 なんでもするよ。

 なんでもするから、私を傍に居させて下さい。



  ・



「うぅ………」


「───Л──иБ」


 いつものように少し魘されながらも、近くにある熱を求め抱き寄せた。

 ふぁ、この匂い、なんだろぅ。

 分かんないけど、嫌いじゃないなぁ。

 むしろ───

 !? 私の背中を、何かが撫でる。


「…ぇ?」


 抱き締めていた手を緩め、うっすらと眼を開くと。

 …んぅ? だれぇ?

 まだ寝ぼけた頭で、ぼーっとしていると、ふとその子と目が合う。


「θΣЪ」


 耳元で声がして、一気に意識が覚醒した。

 そうだ、私は昨日この方に………

 都合の良い夢じゃなかったことに少し驚きながらも、嬉しくなってぎゅっと恩人の服を握る。

 すると。

 んぁ、嬉しいなぁ。

 昨日と同じように撫でてくれた。

 えへへ、胸が暖かくなって堪えきれなくなり恩人の体にすり寄る。

 しばらくその暖かさに浸っていると、ふと、恩人の体が離れ布団から這い出ようとする気配を感じる。


 えっ、な、なんで。

 一気に遠ざかる暖かさに冷静ではいられなくなり、思わず恩人の服を掴み引いてしまう。


「ЛиΛ、Б~、ЪΣБлθЛΛξ?」


 少し困惑するような声が聞こえる。

 ほら、駄目だよぉ。

 捨てられたくないならぁ、迷惑かけちゃ駄目。

 …分かってるけど、置いて行かれるのが怖いから、手を離せないでいる。


 ……ぁ。

 暖かい手が私の手に触れた。

 その手は私の手を優しく包み込み、布団の外へ私を促す。

 置いていかれない為に、誘われるがままに布団から這い出て恩人の前に立つ。

 すると、手を繋ぎ直して今度は部屋の外に誘われる。

 連れてってくれるの?

 人が居ないのは分かってるけど、この姿で歩きまわるのは少し勇気がいった。

 案内されているとは言え、他人の部屋を見回る事に対する不安もある。

 でもまぁ、独りで置いていかれるよりずっといいよねぇ。

 私の手を握り前を歩く恩人をみて、擽られるような気持ちになった。



  ・



 はむっ………はむっ………

 一晩寝たことで体力も回復し、大分身体も動くようになった。

 今は恩人から渡された干し肉を自分で食べている。

 んん~、美味しいぃ。


「Λ、ΣБЦЪθЛξφΓ」


 声のした方をみると、考え事をしているのか恩人は少し虚空を見つめていた。

 そう言えば、この方は何故私に良くしてくれるのかなぁ?

 昨日の私は死にかけで、拾って貰えるような理由は何一つ無かったのに。

 この方は無価値な私を拾ってくれた。

 …何で、傍に置いて優しくしてくれるんだろう?


「ΣΣ~………」


 よくない方向に思考を向けていたからか、恩人のいい感情を含まない悩むような声に、身体が冷たくなるような感覚に襲われる。


「あっ、あのぉ」


 寒さに犯されそうな感覚を押さえつけ、恩人に声をかける。

 すると恩人はじっと私を見つめて、また何かを考えこむようにして口を閉じている。

 その様子にさらに血が凍るような冷たさが身体をめぐる。


「えっとぉ、ご、ごめんなさい、その、また撫でてほしくて、そのぉ」


 自分でも分からないまま謝って、傍に居させてほしいと訴えていた。

 助けてくれた恩人に、何をしたら価値を示せるか分からなくて、ただただ自分の願望だけを吐き出してしまう。

 いろんな後悔に苛まれそうになる直前、優しい声がした。


「БлЛ、ЪΛΣΓ」


 何を思ったのか、その小さな指が私のお腹にある傷を撫でていた。

 それだけで緊張していた身体が一気に脱力させられる。


「っ、うぅ」


 恩人は、もう訳が分かんなくなっている私の手を引いて、私を部屋まで連れ帰った。

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ただただ騎士を目指してただけですよ?~調教師はやはり奴隷を囲う~ 紫苑 @sionn828

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