第7話 ただ言葉がわからないだけ

 両耳を後ろに伏せ声も洩らさず、ポロポロと涙を溢す獣人に、私はどうしたらいいか分からなくなる。

 まず、何故急に悲しそうに泣いてるのか分からない。

 何か悲しませるようなことしたかな?

 外に出たくなかった?

 あ、もしかして森に返されるっておもってる?

 出ていくように言われてると勘違いしてるのかな?


 そうこう考えていると、一瞬獣人がまるで幼子のような表情をしたようにみえて………

 瞬間、強い衝撃と共に私は獣人に押し倒される。


「лл、ЛΣи、ЪБΛθΣ、иΣ」


 何が起こっているか分からず唖然としていたが、顔の上から落ちてくる涙に引き戻される。


「Бл、ЛΣЪи」


 どこか苦しそうな、こちらも痛くなるような声がした後。

 獣人の力が抜け、その体が完全に私に覆い被さる。

 そして、このこの呼吸が荒くなるのを感じる。

 とても苦しそうで呼吸が早い。

 それでも、泣きながら私の服をぎゅっと掴んで離さない。


 ッ、どうにかしなきゃ。

 でもどうする、呼吸が早い。

 ちゃんと息ができてない?

 いや、とにかく落ち着かせなきゃ。

 左手で私の服を掴む獣人の手を握り、右手で獣人の背中に手をまわし、背中をさすりながら声をかける。


「ね、きこえてる?

だいじょうぶだから」


 声は聞こえているのか、伏せていた顔を上げ、目が合う。

 薄暗くて深い、このこの寂しいって想いを全部集めたみたいな、そんな気持ちみえるような眼。

 それが、すがるように私をみつめてくれる。


「ん、そばにいるから、

ほら、ちゃんと息吐いて」


 きっと言葉は分からない、けど声は伝わるから。

 獣人が、ぎゅっと私を抱き締めて、時折詰まらせながらもゆっくり深呼吸をしている。


「よしよし、もうだいじょうだよ」


 なんとか普通に呼吸が戻ったものの、まだ涙は止まっておらず咽び泣く声が止まない。

 ん~、どうして欲しいのかな?

 どうしたら笑ってくれるかな?

 そんなことを考えながら、背中をさすり続けていた。



  ・



 結局、このこが落ち着くまで結構掛かったな。

 でも、ん、ちょっと可愛かった。

 先のこのこの姿を思い浮かべながら、すっかり泣き止んでいる獣人の頭を撫でる。

 ふふ、気持ち良さそう。

 さっきまでの状態が嘘のような表情に思わず笑みが漏れる。


 するとこちらをみていた獣人が、驚いたように少し眼を見開き、そして嬉しそうな笑顔をみせてくれた。

 それが、本当に嬉しくて、胸が暖かくなってぎゅっと身体を抱き寄せる。

 ん、よかった。

 これから、もっとたくさん笑顔でいてほいな。



  ・  ・  ・  ・  ・



7歳半ばの小暑しょうしょ


 森林の前の平原で、種族の違う二人少女が抱き締め合いながら笑っていた。


 もしこのを拾わなければ、この先の私はあの達も拾わず見捨てていたんだろうな。

 だから、この出会いは沢山あった出会いの中でも最も後悔のない思い出だ。


 この先、沢山の出会いが待っている。

 だからこれは、能力を授かる前の私。

 私の人生ものがたりの序章だ。

 ごめんね。

 もう少しだけ、私が8歳になるまでの日常を、人の人生ものがたりを楽しむ貴方に知ってほしい。

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