第6話 ただ少し驚いただけ

 獣人はしばらく嗚咽を漏らしながら撫でられていたが、やがて落ち着いてきたのか今は目を閉じ私に撫でられていた。


 そんな静かな空間に、家の外からの騒音が入り込む。

 ん? 馬の駆ける音?

 あ、お母さん達が帰ってきたのかな?

 窓からそっと外を覗いてみると、やはりクーとマー(馬の名前)に乗ったお母さん達がみえた。


 窓の外から目を離し獣人の方に目を向けると、緊張した顔で私の表情をうかがっている。

 ん~、どうやってお父さん達から隠そうかな。

 普通の狐ならまだしも、獣人となるとお父さん達も良い顔はしないだろうし。

 あ、お父さん達が居る時は狐の姿になって貰うようにしよう。

 それならもし見つかってもただの狐だって誤魔化せるよね。


「ん、えっと、こう、またちいさくなってほしいんだけど…、できる?」


 言葉は伝わらないだろうから、なんとか身振り手振りで伝えてみる。

 私の急な行動に最初はポカンとしていた獣人だけど、以外とすぐに伝わり目の前で姿を変えてくれる。

 ん、昨日よりちょっとだけ狐っぽい。

 普通に狐人なんだろうけど、昨日は本当に犬に見違えそうになったから。

 そんなことを考えていると、家の扉が開く音が聞こえてくる。


「ただいま~、お母さんもお父さんも無事に帰ったよ」


 階段の下からお母さんの声がする。

 上がってきちゃう前に行かないと。

 そう思い、獣人にここで待って居るようにと伝えるように手で制し、急いで部屋を飛び出しお母さん達の元へ駆ける。


「おかあさんたち、おかえりなさい」


「ん、ただいま、危険はなかった? 大丈夫?」


「ん、いつもどうりだったよ。

あ~、けがをしたきつねみつけたから、ちょとだけやくそうあげてからにがしたけど」


 まぁ、嘘だけど。

 …これで、見つかった時の言い訳材料ができたかな。


「ん、無事ならよかった。それにしても狐ねぇ、あの森にはたまに痕跡があるから、居るとは思ってたけど、お母さんはみたことないかなぁ」


「ん、わたしもはじめてみた、いがいとおおきかったよ。

おかあさんたちはどうだった?」


「いつもどうりよ、うるさい村長さん達のつまらない会議に呼ばれただけ。

あっちでの魔物の増加なんて私達には関係ないのにね」


「ん、おかあさんおつかれさま」


「ありがと」


 お母さんはそう言って私を抱き締めてくる。

 お母さんはいつも、頑張ったり疲れたりすると私を抱き締める。

 こうすると落ち着くらしい。

 なんとなく、お母さんを抱き締め返してみる。


「ん、頑張ってよかった」


「じゃあ、おかあさん、ゆっくりやすんでね。」


「えぇ、あ~、午後はどうするの?」


「おかあさんたちねてるでしょ? ならゆみのれんしゅうしてくる」


「そう、怪我しないようにね」


「ん、わかった」


 お母さんへの労いを終え部屋に戻る。

 すると、獣の姿の獣人が足元にすり寄ってくる。


「ただいま」


 寂しかったのかな?

 ゆっくり抱き上げると、大人しく抱かれている。


 ん~、外に出るって言っちゃったからなぁ。

 このこも多少歩けるようになってるし、連れていった方がいいよね。

 そう思い、獣人を布団の上に乗せ、自分は昨日のように出かける準備をする。

 もちろん弓矢は忘れないように。


 よし、準備を整え獣人を抱えた私は、お父さん達が自室に居るのを確認し、急いで家を出る。

 そして、獣人を抱えながら〟アスト森林〝まで頑張って歩いた。



  ・



 〟アスト森林〝の入り口に近付くにつれ、獣人がだんだんソワソワしてくる。

 ついに入り口付近にたどり着いた時には、急に大人しくなり私の顔を見つめながらじっとしていた。


 獣人を地面に下ろし、身振り手振りで元の姿に戻るように伝えてみる。

 すると獣人はすでに察していたようですぐに人の姿に戻る。

 やっぱり、裸でだった。

 けどさすがに駄目だと思ったから、家にあった古い外套を持ってきたのでこのこに着せてあげる。

 ん、少し獣耳が窮屈そうだけど、大丈夫そうかな?


 一人で満足していると、獣人がいきなり私の手を引いて、辺りの広い場所まで私をつれて歩く。


「えっと、どうしたの?」


 獣人は何も言わずに、ただ私のいない方を向き片手を前にかかげる。

 そして


『雷弾』


 手元で何か光ったと思えば、雷属性の魔法が放たれた。


「Ъл、БЛ、ΛξθЪΣЛΣи」


 少し震えた声で獣人が何かを呟く。


「ЪБЛ、ЪБЛΛΣ、θξБЛΛи」


 獣人瞳から涙が零れる。


「θξБЛΛ、ЪθЛΣΛБл」


 あぁ、この涙は、駄目なやつだ。 

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