第5話 ただ笑顔をみたいだけ

 ───ねぇ、わたしのモノになって

 私が口にした言葉を、あのこは理解していなかったと思う。

 だけど、私の胸元ですすり泣き始めたあのこをみて、胸が苦しくなったから。

 私は一方的に、このこの笑顔をみたいなって思ったんだ。



  ・



 朝、窓から差し込む日の光にあてられ、私はゆっくり目を開く。

 裸の獣人が眠っていた。

 ???? あっ、私が昨日拾ったんだ。

 明るいなかで、人の姿に戻っているこのこをゆっくり観察してみる。

 ん、獣耳や尻尾に、手から腕脚全体に生えた狐を想わせる毛、只人より少し大きいく爪の鋭い手に、獣を想わせる只人とは全く違う足。

 そして、身体中についている傷。

 その一つ一つに目を向けていると。


「Лл………」


「ふぁ、ん、まって」


 うぐっ。

 急に抱き寄せられて、身動きが取れなくなる。

 ん? 昨日より力が強い?

 少しは休めたのかな?

 そんな事を考えながら、ゆっくりと背中を撫でてみる。


「…л?」


 私を抱き締めていた力が抜ける。

 ふと顔をみてみると、うっすらと目を開いているようで、目が合う。


 「おはよ」


 声をかけると、一瞬目を見開いてたけど、すぐに私の服を掴んでくる。

 やっぱりこのこ、可愛い。

 優しく頭を撫でてみると、また私に体を寄せる。

 ん~、まだ撫でていたいけど、そろそろ朝ごはん食べなきゃだよね。

 それに、お昼にはお父さん達も帰ってくるから、その前に色々と準備をしなきゃいけない。

 そう思い、まだ布団を求める体をゆっくりと動かし、這い出ようとする。


 ん?

 抵抗を感じて振り向いてみると、獣人が慌てたように服を引っ張っていた。


「えっと、あ~、だいじょうぶだよ?」


 できるだけ優しい声色で伝えてみるけど、このこの不安そうな色は消えない。

 ん~、もしかして置いていかれるのが嫌なのかな?

 ん、なら、今はお母さん達はいないから、一緒に連れて行けばいいよね。

 私の服を引っ張っていた獣人の手を、ゆっくりと掴み少し手を引いてみる。

 すると、獣人はゆっくり布団から出て、私の前に立った。

 あ、よかった、ちゃんと歩けるようになってる。

 私はぎゅっと獣人の手を繋ぎ直し、部屋を出る。

 獣人は、部屋を出る事に少し困惑した様子だったけど、しっかり私をみながら付いてきてくれた。

 私はこのこに、なるべく全ての部屋をみせながら食糧庫へ向かった。



  ・



 獣人は特別回復が早いのかな?

 一晩寝たことで体力はかなり回復したようで、もう一人で渡した干し肉を美味しそうに食べていた。

 

 「ん、ごちそうさまでした」


 朝食を食べ終わり、これからどうするか考える。

 正直、拾ったは良いもののこのこを具体的にどうしていいかわからない。

 言葉がわかれば話し合えるけど、それができない。

 このこの考えてる事もわからないし。


 「んん~………」


 「Бл、БЪи」


 ん?

 顔を上げると、獣人がこちらをみつめている。

 あぁ、そういえこのこの声を聞いたの今日は初めてだな。

 そんなことを思い見つめ返していると、何を思ったのか獣人の顔が徐々に青ざめ、おろおろとしている。


「ЪлΣи、Б、БЪΣЛΛΣ、θЪ、БЛΣξφΛθξЪ、ЛБл。」


 お~、いっぱい喋った、泣きそうになりながら………

 ん? なんで?

 何て言ってるかわからないし………

 ん~、どこか痛いのかな?

 このこの身体、酷い傷だらけだから。


 「えっと、ごめんね」


 伝わらない言葉でことわり、優しくお腹の傷に触れてみる。

 触れた瞬間、力が抜けたように大人しくなる。


「и、Лл」


 …やっぱり痛いのかな?

 ん、いっかい部屋に戻って確かめてあげよう。

 なんかこの部屋だと居心地わるそうだからね。


  ・



 また手を引いて、自分の部屋に戻ってくる。

 部屋に入り立ったまま俯いているのをみて、少しモヤッとした。

 なんか、ん、甘えて欲しい。

 昨日や寝起きの時みたいに。


 そう思いながら、獣人の手を引いて布団に上げる。

 ん~、まだ不安そうにみえる。

 …ん、とりあえず傷をみようかな。


「えっと、ほうたいとやくそう、おとうさんにわたされたの、つかってもいいよね」


 そう呟きながら鞄から取り出し、このこの身体をゆっくりと観察する。

 酷い傷には、お父さん達に習ったように包帯を巻く。

 本当、酷い傷がたくさん。

 ん? この首のは、絞め跡?

 よく観察しないとわからない程薄くだけと、跡が残っている。

 それをみると、なんだかとても嫌な気分になる。

 だから、特に効果はないだろうけど、絞め跡を隠すように首にも包帯を巻く。


「…ん、これでぜんぶ、かな?」


 そう呟いたと同時に、急に、けれどどこか遠慮がちに獣人が私にぎゅっと抱きついてきた。

 おぉ、可愛い。

 甘えてきたこのこに応えたくて、私も優しく抱き寄せて頭を撫でる。


「ли、ΣлиЪ」


 すると、少し我慢するように嗚咽を漏らしながら、涙をながし始めた。

 あ~、また泣かせちゃった。

 本当、どうしたら笑顔にできるかな。

 

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