猫さんありがとう

サムライ・ビジョン

出会ったのは優しい猫でした

 とある田舎に、とあるボロ屋がありました。誰も住んでいないそのボロ屋にはネズミの三兄弟が暮らしています。


「…うおお! なんだぁ!?」

「なななな、何が起きたの?」

「ハハッ! 命運尽きたね!」


 ある日突然人間たちがやってきて、ボロ屋を壊し始めたのです。


「おのれこの人でなしめ!」

「人なのは確かだけどね…」

「ハハッ! 人間のさがだ!」


 前触れもなしに奪われた住処すみか

ネズミたちは不本意ながらも次なるマイホームを探すことにしました。


「…とは言ったものの、最近の家はどこもセキュリティが万全なんだよなぁ…」

長男・チュータロー


「僕らって、ずいぶんと長いことあのボロ屋に住んでたもんね」

次男・チュージロー


「ハハッ! なんとも浮世離うきよばなれした生活を送っていたものだね!」

三男・マイハマ


 近ごろの家はネズミ1匹入ることすら許さない徹底した害獣対策が施されており、三兄弟の物件探しは難航しました。


「…ダメだ。なぁ2人とも? やっぱり家は諦めて下水道いかねぇか?」

「下水道!? やだよあんな場所!」

「二度と御免だね! 母ッ!」

「いやオレ兄だけど…」


 あんな場所、二度と御免…

実はこの三兄弟、下水道での生活は短期間ではあるものの体験済みなのです。

「臭いし食べ物も全然ないし…」

「ゴキブリと共同生活するのだけは避けたいところだね! 父ッ!」

「そうはいっても他に候補が…」


 住宅街で会議をしていたところ、どこからともなく声が聞こえてきました。

「ちょいとそちらの御三方おさんかた…お家を探していらっしゃるのかな?」

後ろを見てみると、とある一軒家の塀の陰から、1匹の茶色い猫が顔を出していました。


「え、あ、はい。家をなくしてしまって」

 先陣を切るのはいつも長男坊のチュータローです。

「それならうちに来るといい。寒さもしのげるし、キャットフードでよければ食べ物だってあるよ?」

その猫はゆらゆらと尻尾を揺らし、穏やかな声で誘ってきました。


「…僕、あの猫の家に行きたい」

チュージローがそう言うと、チュータローは猛反対しました。

「バカお前…相手は猫だぞ!?」

 小さな声で言ったつもりが、猫には聞こえていたようです。

「確かに私は猫だけど、なにせもう歳だ…君たちを食べたりなんかしたら胃がもたれてしまうよ…」


 猫がそう言うと、チュージローは目を輝かせました。

「ほらね! それにあの猫、すごく優しそうじゃない?」

「老いぼれだから逃げようと思えばいつだって逃げられるよ! ハハッ!」

 チュージローに続き、マイハマも便乗してきました。


「…まぁ…よしとするか! すみませ〜ん! お言葉に甘えさせてくださ〜い!」


 チュータローは落ちました。


 猫の住む家の玄関扉にはペットドアが取り付けられており、ネズミたちは猫のお腹にしがみつく形でお邪魔しました。

「お〜! いいお家だ!」

「広〜い! きれ〜い!」

「ボロ屋の後だとひとしおだねッ!」

 三兄弟は思い思いの言葉を口にしました。



「君たちにはここで過ごしてもらいたい」


 猫がそう言って案内した場所は猫用のベッドでした。大きなバケツを逆さにしたようなそれはかまくらに似ていました。

「ここにいれば、私の飼い主に気づかれることもないだろうと思う」


 ネズミたちは中に入りました。

「うお〜! あったけ〜!」

「秘密基地みた〜い!」

「ハハッ! 夢の国だね!」


 猫はその様子を見て微笑みました。


「そうだろう? あったかいだろう?」

「はい! ありがとうございます!」

 チュータローはキラキラの瞳で感謝しました。

 すると猫は、とあるをしてきました。


「もっとあったかくしてあげようか?」


「もっとあったかく? それってど——」


 次の瞬間、長男坊が目の当たりにしたのは真っ暗闇でした。


残された2匹はその様子を見て震えました。




「可哀想に…2匹とも寒くて震えているじゃないか。私があたためてあげるからね…?」

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