魔法少女キリカ

にゃべ♪

四天王最後の1人は手強いホ!

 ごく普通の少女の麟翁寺キリカは、地元を侵略しようと襲ってきたジドリーナ帝国の侵略生物バエンナーに襲われる。その時に助けてくれた魔法生物のトリの力を借りて、彼女は地元を守る戦士、魔法少女キリカになった。

 魔法少女キリカは、今日も帝国の魔の手から地元を守るために戦うのだ!


 キリカの前にジドリーナ帝国四天王最後の1人、ヨーキャが現れた。とっくに自宅は割れていたのだ、不意打ちでなかっただけマシだとも言えるだろう。トリの力で魔法少女に変身した彼女は、ステッキを握りしめて攻撃のタイミングを計る。


「アイツの強さもパリピーナとかと同じなんだよね?」

「そうだホ! キリカの敵じゃないホ!」

「分かった!」


 強さの確認をしたキリカは先に動いた。一瞬で間合いを詰めてステッキをかざす。


「シン・レインボーアロー!」


 ステッキの先から七色の光が放たれて収束。この攻撃が当たれば一撃で仕留められるだろう。発射のタイミングは完璧。彼女は勝利を確信して表情が緩んだ。


「な、何なんだな?」


 対するヨーキャは、挙動不審な動きでこの攻撃を避ける。魔法は追尾機能を持っていないので、無関係な所に炸裂して消滅。

 この予想外の結果に、キリカは目を丸くする。


「嘘? 避けた?」

「オデ、弱くないんだな」

「攻撃が当たれば倒せるホ!」

「分かってる!」


 キリカはその後も魔法を連発。そのどれもヨーキャに迫るものの、全部ギリギリのタイミングで避けられてしまった。彼自身は攻撃を見極めて避けている風ではなく、ただの勘で避けてたまたま回避に成功しているように見える。

 何故ならその目は焦点が合っておらず、常に口が半開きだったからだ。


「なんで? 何で当たらないの?」

「オデ、そろそろ反撃する」


 ヨーキャはふらりふらりとキリカに近付く。その予測出来ない動きに彼女は翻弄された。攻撃は避けられ、ズンズンと強引に近付かれ、キリカは空恐ろしい何かを感じて動きが鈍る。


「ちょ、来ないで……」

「間合いに入ったど」


 ヨーキャはニタアと笑うと、ゆらりと姿を消す。次の瞬間にキリカの背後に現れた彼は魔力を纏わせた手刀を当て、彼女は倒れた。


「キリカホー!」

「お前も捕まえる。女王の命令」

「ホー!」


 こうして、キリカとトリはあっさりヨーキャに倒されたのだった。


「あれ……? ここは?」


 気がついた彼女がまぶたを上げると、真っ白で殺風景な景色が目に呼び込んできた。どうやらヨーキャによってこの部屋につれてこられたらしい。その部屋にはキリカとトリとヨーキャの3人だけがいて、ヨーキャは椅子に座って天井を見つめ、キリカとトリは拘束されていた。


「私達をどうするつもり?」

「知らない。女王の命令だから」

「もう食べられないホ……」


 この状況で、トリは幸せな夢を見ているようだ。キリカは視線を落として、まだ自分が魔法少女衣装である事を確認した。手足は縛られているものの、彼女の表情はまだ絶望に染まってはいない。


「こんなもの、魔法でちぎってやるんだから!」

「お前、オデより馬鹿」

「なんですってェェェ!」


 ヨーキャに煽られたキリカは、全身に魔力をみなぎらせて拘束具を解こうと試みる。しかし、発生した魔力は全て拘束具に吸収されてしまった。


「何でちぎれないの?」

「魔法が吸収されてるんだど。何をやっても無駄」

「うそぉ……」


 魔法が無効化された魔法少女は無力だ。使える手段を失ったキリカは、がっくりとうなだれる。


「こう言う場合にどうしたらいいか、師匠に聞いておくんだった……」

「オデ、ずっと見張ってる。お前達、何も出来ない」

「いつまで私達をこうしておくつもりなの? 女王は何がしたいの?」

「だから知らない。オデ言われた事をしただけ」


 どうやらヨーキャに交渉は無駄なようだ。どれだけ言葉を尽くしても、期待していたような反応は返ってこなかった。

 この状態が続いて1時間くらい経っただろうか。ヨーキャはすっくと立ち上がる。


「オデ、飽きた」


 女王の命令で監視していたはずの幹部は、途中でその任務を放棄して部屋を出ていく。この突然降って湧いたようなチャンスに、キリカはトリに向かって叫んだ。


「いつまで寝てんのよ!」

「叫ばなくても起きてるホ。今がチャンスホね」

「寝た振りだったの? まあいいや。何とかして! 私の力じゃ……」

「さっき本部に魔法通信をしたから助けがくるはずホ。もうちょっとの辛抱ホ」


 トリは狸寝入りをしながら、この状況を打破する方法を彼なりに実践していたらしい。この功績を知ったキリカは、トリを責めるのを止めた。


「助けって、救助で魔法少女が来るの?」

「それは分からないホ。本部の判断に任せてるホ」

「ちょっと頼りないなぁ。こんな時こそ師匠が来てくれたらいいのに……」


 部屋に2人きりになって30分が過ぎた頃だろうか。出ていったヨーキャは戻ってこない。そして、何の気配も感じさせずに部屋のドアが開いた。


「にゃーん」

「え? 猫?」

「ナーコだホ! おーいホ!」


 部屋に入ってきたのは、ちょっとメタボ気味の白黒ハチワレ猫。トリの顔見知りのようだから、これが本部がよこした助っ人なのだろう。

 ナーコはキリカによじ登ると、手首の拘束を器用に解いた。そして床に飛び降りて、今度は足首の拘束も解く。その手際の良さに彼女は感心した。


「ナーコすごいね。有難う」

「にゃーん」


 同じ様にトリの拘束も解いたナーコは、トコトコとドアに向かう。キリカ達も彼女の後に続いた。建物の出口に向かいながら、トリがキリカの顔を見る。


「調子はどうホ?」

「ステッキは出せたけど、魔力の手応えを感じないんだ。まだどこかで力を吸われてるのかな?」

「多分、この建物自体が魔力無効化の効果を発揮しているんだホ」

「ここを出る前に敵に会ったらヤバいね」


 キリカの心配は、しかし杞憂に終わる。彼女達を拘束していた建物は無人で、出口に着くまで誰にも会わなかったからだ。建物の玄関が見えてきて、キリカの表情はパアアと明るくなった。


「出口だ!」


 感極まった彼女が駆け出すと、前を歩いていたナーコが突然毛を逆立たせる。そして、一番会いたくなかった人影がゆらりと現れた。


「オデ、こうなる事分かってた。今度はもう手加減しない」

「ヨーキャー!」


 キリカはステッキを振りかざして魔法弾を発射。威力は格段に落ちるものの、魔法自体は撃つ事が出来た。しかし、やっぱりそれは当たらない。威力を落として連射モードで対策をしたものの、その全てがことごとく空振りに終わる。


「何でよ!」

「当たらなければどうと言う事はないど!」


 ヨーキャはまた不可思議な動きでキリカに迫ってきた。一度やられているトラウマで、彼女の動きは固くなる。

 その変化を確認したヨーキャは、また同じように姿を消した。


「嘘? またやられる?」

「にゃーん!」


 ナーコの叫び声に、建物の壁を破壊して何かが突然迫ってくる。超高速で飛んできたそれは、聞き覚えのある声で叫んだ。


「光粉砕パーンチッ!」

「うげええ!」


 不意打ちをしかけていたヨーキャは、予想外の方角からの攻撃を受けて建物外にまで吹っ飛んで行く。キリカを助けたのは、別の地域で活躍する肉弾戦特化の魔法少女、宝生ユカリだった。


「先輩、無事で良かったっス」

「ユカリ~、ありがと~」


 2人は抱き合い、再開を喜ぶ。しばらくそうしていると、ナーコが急かした。


「にゃーん」

「そうだ、まだ終わってない」

「先輩、一緒に行くっス。四天王にトドメっス!」


 2人はお互いに見つめ合い、うなずき合う。そうして、建物の外に飛び出した。どうやらこの建物は寂れた小さな島の中にあったらしく、空き家ばかりの集落と豊かな自然がキリカの目に飛び込んできた。


「こんな所にいたんだ」

「先輩、あそこっス!」


 ユカリの指の先には、ヨロヨロと起き上がるヨーキャの姿。今なら、あの不思議な回避行動もままならないだろう。攻撃の間合いに入ったところで、キリカとユカリはうなずきあう。


「シン・ファイナルニードル……」

「灼熱の地獄の拳……」

「「クラーッシュ!」」


 キリカの魔法の光の針攻撃とユカリの燃える拳の全力パンチがほぼ同時にヨーキャに直撃。四天王最後の1人は自分の許容量を超える攻撃に耐えきる事が出来ず、空の彼方に勢いよく吹き飛ばされていった。


「ぎゃぴりーん!」


 ヨーキャが見えなくなったところで2人は勝利を確信、笑顔で気持ち良くハイタッチ。


「「いえーい」」

「にゃーん」


 場所が地元でないだけに、2人は魔法少女衣装を解かずにアフタートークに入る。


「どうやってここに?」

「ナーコが呼んでくれたんです」

「へぇ、トリより役に立つかも」

「心外ホ!」


 トリいじりで場が暖まったところで、話は情報交換に。四天王全てを倒した事で、ジドリーナ帝国がどう動くかと言う話で白熱する。

 この戦いもいよいよ佳境に突入。2人の魔法少女は、いずれ来るであろう最終決戦に向けて決意を新たにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女キリカ にゃべ♪ @nyabech2016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ