二章 常夜桜③
「あ、あの、八雲さんが失礼なことを言ってしまい、申し訳ございません……。特に人間
「ううん、大丈夫よ。……でも、妖も人間を嫌っている方が多いのね」
「それは……人間達による
「妖狩り?」
初めて聞く言葉に、沙夜は首を傾げる。
「えっと、妖に対処出来る術を備えた人間が、妖を
「……!」
沙夜は思わず
……だから、妖も人間のことを嫌っているのね……。
お
「八雲さんはご家族と共に妖狩りに
「……白雪も、その……人間に、傷付けられたの……?」
答えを聞くのが怖かったが、沙夜は
「私はお
白雪は
「なので、恩義を受けた以上は返そうと思い、こうしてお仕えすることを決めたのです」
「そういえば先程、真伏さんが玖遠様に助けられた妖は多いって言っていたけれど……。『頭領』というものは
「玖遠様はどちらかと言えば、変わっている方ですね。
「でも、白雪達と玖遠様との
「それはきっと、玖遠様の
白雪が語る頭領としての玖遠は、沙夜が知っている彼と似ているようで
……ああ、だから彼らは私に害意を向けてこないのね……。
玖遠は
たとえ、沙夜のことを妖達が快く思っていなくても、「妻」として
「……玖遠様は本当に、人望がある方なのね」
「はい、とてもお強くて、
笑って答える白雪も、沙夜が知らない頭領としての「玖遠」を知っているのだろう。
……どうして、あの方は私を妻にして下さったのかしら……。
もちろん、実家から
だからこそ、少しずつでいいから玖遠について知りたいと思った。
……そうしたら、いつか、あの方に返せるかしら。今まで貰った
今の自分には何もない。けれど、彼の「妻」となったからには、自分も他の妖達のように恩を返すために
……私も「妻」として、ここで生活していくなら、それに相応することをしないと。
でなければ、人間である自分はここに居てはいけない気がしてならなかった。
● ● ●
その日の夜、
妖の中には夜の時間帯になるにつれて活発になる者もいるそうだが、人間と同じように夜に
「つまり、何か仕事が欲しい、と?」
「はい。不慣れ
「そうは言っても、配下の妖達に
彼の「妻」として何が出来るだろうと考えた結果、沙夜は他の妖達のように仕事をもらえないかと玖遠に
この
「それに君はあの屋敷で、やりたくもないのにずっと無理に働かされていたんだ。……ならば、せめて俺の
「……
「ん?」
「どうして……玖遠様はそんなに、私を
玖遠から次々と
「それは違うよ、沙夜。……俺はすでにたくさんのものを君から
夜の空気にゆっくりと
「……どんなに自分が
「私が、玖遠様を……?」
しかし、玖遠を手助けするようなことをした覚えはないため、首を
「他者を気遣うことを教えてくれたのも君だ。それまでの俺は自分のことばかり考えて生きて来たから
それに、と玖遠は言葉を付け加えた。
「君とこうやって言葉を
「……私も、玖遠様とお話しする時間はとても好きです」
「中々、
気付けば、
「君が救いを求め、そして俺はその手助けが出来る力を持っている。……ならば、手を差し伸べるのは当然のことだ。だって、俺は自分の一部を失いたくはないからね」
沙夜の
「でも……。何か、出来ることはありませんか。玖遠様の『妻』である以上、私も何かをしなければ……」
「
玖遠は右手で、沙夜の
「やらなければならないこと、ではなくて……君がやりたいと思うことをこれから見つけていくといい」
「やりたいこと……?」
「何でも良いんだ。……知らなかった花の名を知ったり、食べたことがないものを味わったり、見たかった美しい景色を
開け放した
それでも沙夜は玖遠が何故こんな表情を自分に向けてくれるのか、分からなかった。
「要するに君が好きなものを知りたいってことだよ」
「私の……好きな、もの……」
好きなものなんて、ない。いや、分からないのだ、自分のことなのに。
そんな沙夜の様子に気付いたのか、玖遠は頬に触れていた右手で、
「ゆっくりでいいからお
「……」
気を張らなくていいのだと、言ってくれているようだった。
……望まれているならば、私も……少しだけ、声を上げてもいいのかしら。
今も心の奥から
『──お前は何も望んではならない。お前の望みは誰かを不幸にするものだ』
その言葉を思い出すたびに、ずきりと胸が痛む。
けれど、今だけは違う。玖遠が望んでくれるならば、彼と共に好きなものを見つけてもいいのでは、とほんの少しだけ
「……それなら、あの……玖遠様と
「もちろん、いいとも。それなら今度、一緒に屋敷の周辺を散策しようか。色んな草花を沙夜に教えてあげるよ」
玖遠は否定することなく、
……この方が私のことを知りたいと
それはきっと、自覚していなかった小さな欲だ。何故なら、玖遠が一番好きな花を教えてくれた時、自分にだけ彼の秘密を明かしてくれたようで嬉しかったのだから。
「……楽しみに、しています」
髪に絡められた玖遠の指先に手でそっと触れつつ答えれば、彼は嬉しそうに破顔した。
◆ ◆ ◆
続きは本編でお楽しみください。
あやかし恋紡ぎ 儚き乙女は妖狐の王に溺愛される 伊月ともや/角川ビーンズ文庫 @beans
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