特別な猫の手

夏伐

猫拓-ねこたく-

 夏休みの宿題が終わらない!

 明日やろう明日やろうと思っていたら、もうすでに夏休みは終わろうとしている。私だってバカじゃない。一行日記とあさがおの観察日記はきちんと書いていた。

 問題は残り三日でそれ以外の、ドリル・書道・絵・自習ノートを全部始末しなければならない。


「みんな助けてー!」


 家族に泣きつくと母は少し怒り、父は呆れたように笑い、兄は「だから言っただろう」と家族を代表してお小言。

 飼っている猫が「にゃ~ん」と返事をした。


「毎年、猫の手を借りたいくらい忙しくなるな」


 父は飼い猫のチヨの頭を撫でた。


 私はドリル、兄が自習ノートに私の字をまねて教科書を書き写している。父は私の学習ドリルを手伝ってくれた。ちゃんと勉強しながら、問題を解いていく。母は絵を描いてくれた。

 「夏休みの思い出」というテーマで何を描こうか紙にメモをして画をかいていく。


 ばしゃり……


 不穏な水音にそちらの方を見ると、チヨが墨汁の墨を被っていた。足元には、書道の宿題「希望」という文字が荒々しく書いてある。


 紙のはしっこには私の名前と肉球が。


 家族で目を合わせた。チヨは二本足でふらふらと母の元へ近寄った。


「大丈夫?」


「にゃあん……」


 しょんぼりとした猫はその場に倒れ込んだ。


 母の前にあった画用紙に猫の魚拓……猫拓が出来上がる。母はおかしそうに、


「絵の宿題もこれでできたわねぇ」


 と笑った。

 私が生まれた時からこの猫はこのようだったし、みんな受け入れていた。何よりこうして宿題まで手伝ってくれるなんてとても良い猫だ!


「私もドリルかノートの書き取りを手伝うわ」


「やったー! チヨありがとう!」


 こうして何とか家族で恒例の夏休みの宿題問題を片付けることができた。

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