三毛のタマ。
倉沢トモエ
三毛のタマ。
近所の三毛猫のしっぽが割れた、というので見に行った。
まだ誰もネット配信していないせいか、見物人はさほどいなかった。
あ、配信しようとしてる奴がいる。
「ちょっと、ごめんなさい。手を貸してもらえますか?」
反射板を支えてほしいと言われて、支えた。
「あ、その位置かな。ありがとね」
しかし三毛猫は来なかった。
「なんか、いなさそうだから今日は帰ろうかな。
ありがとね」
と言われ、
「お、おう。お疲れさまでした」
とだけ答えた。
おばあちゃんがいたので挨拶すると、こっちこっち、と、庭に呼んでくれた。
「ほら、あすこの縁側の下に、茶碗があるんですよ。そこにイワシの頭を置いておくと、なくなってるんですよ。
見かけたこと、ありますか? あの三毛」
「タマですね」
「ああ、ややこしくてねえ。ミケ、っていうと、それが名前みたいに聞こえる。
三毛猫のタマ、名前はタマね。
うちのマサカツが小さいときね。かくれんぼで見つからなくなって。
どこにいったんだろう、と思ったら、タマが鳴いてね。ついていったらマサカツが木の上でベソをかいていてね」
「そうでしたね」
そのマサカツも、もうお父さんなんですよ。孫をこないだ連れてきてね。
「にぎやかでしたね」
タマとも遊んでいきましたよ。本当にタマは助かる猫なんですよ。
こないだはうちの人が朝に倒れた時も知らせてくれて。おかげで明日は退院できますよ。
「よかった」
「ほんとにね」
「しっぽが割れた、って、ほんとうですか?」
「そうらしいんだけれど、特に何も変わったことはないのよ。よくごはんも食べるし。
タマも長生きだし、元気なら、それでいいのよ、家族なんだから」
「そうですよね」
「そうよ」
「また、イワシをあげてくださいね」
「もちろんよ」
うまくいった。
おばあちゃん、いや、ほんとはお母ちゃんなんだ、人の姿の僕には気づかないな。
しっぽが割れると、こんなこともできるんだな。
あとでそっと帰ろう。イワシ、もらえるかなあ。
三毛のタマ。 倉沢トモエ @kisaragi_01
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