おいでませ猫屋

紫風

猫の手を借りた結果

 私は小さな菓子屋・猫屋を営む店主。

 店主とは名ばかりの、従業員のいない一人だけの店である。

 店には、大手企業のお菓子も並ぶが、私の考案、製作したお菓子も片隅に置いてある。多くはないし、自慢じゃないがそこそこ売れている。

 とはいえ。

「そろそろマンネリかな~……」

 季節を意識した作り、味も少しずつ変えている。しかし。

「もうちょっとインパクトのあるもの作ってみたいな」

 はっきり言おう。店の売上が、芳しくないのだ。

「そりゃあねえ、このご時世ですから、芳しくないのはどこでもいっしょですけどにゃ」


 突然失礼。

 実は私、無類の猫好きなのである。ほら、店名にあるでしょ。

 別に私は猫ではない。ただの猫好きの人間である。

 店員はおろか、客もいないため、つい出てしまうのである。猫語。にゃ。


 実は、猫をかたどったお菓子も出している。

 定番、猫の顔のクッキー。肉球のマドレーヌ。しっぽをかたどった飴。

 どれもそこそこ人気で、一定数はいつも売れている。

 しかし、商売であるからには、新しいものの新規開発をするのは当たり前である。

「う~~~~~~~~~~ん…………」



 迷った挙句、私は思い切った手段に出た。

「それで、うちに声を掛けてくれたわけですニャ」

 今度は、本物の猫である。

「よろしくお願いします」

 私は頭を下げる。

 下げた相手は、近くにある、猫がやっているお店『猫商会』の店長である。

 猫商会はなかなかのやり手で、売り上げもすごいらしい。

「ふむ、では我が商会の精鋭をお貸しいたしましょうですニャ」


「では店主さん、よろしくお願いしますニャ」

「よろしくお願いします」

 やってきた猫と、厨房で挨拶をする。

「でも、うん、猫と厨房ね~……衛生面に問題はないんだろうか」

「心配いらないニャ。うちはプロですニャ」

 ちゃんと手は洗っているらしい。

 何を作るのかと思ったら、生地を作り、その上に手形を押していた。

 手形。いや、それは肉球だろう。


 みるみる出来ていく、猫の肉球のお菓子。

 すぺたん。すぺたん。すぺたん。

 すぺたん。すぺたん。すぺたん。すぺたん。

 すぺたん。すぺたん。すぺたん。すぺたん。すぺたん。

 すぺたん。すぺたん。すぺたん。すぺたん。すぺたん。すぺたん。



 猫の肉球のお菓子は大好評で、飛ぶように売れた。

 作っても作っても追い付かない。

「どうですかニャ、店主さん」

「素晴らしいです!」

 私は猫に関わってるだけでも幸せです。

「我が商会では、経営コンサルタントもやってますニャ。お望みなら、お手伝いいたしますニャ」

「よろしくお願いします」

 猫商会の実力は聞いている。やり手だと前述したのは嘘じゃない。

「では、こういう新作はいかがでしょうニャ………………………………」


□▲〇


「店主さん、出来たニャ。これを早く並べてほしいニャ」

 猫商会のおかげで、私の店は繁盛している。

 しかし。


 厨房といわず店内といわず。猫があふれかえっていた。

 私はもちろん眼福なのだが、だがしかし。


「店主さん、次はこれニャ」

「店主さん、これが足りないニャ」

「店主さん、お客さんがお待ちかねニャ」

 次々と猫から飛んでくる指令。

 なんかこう、猫に乗っ取られた気がするのは気のせいだろうか。


END.

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おいでませ猫屋 紫風 @sifu_m

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