【KAC20229】猫の手を借りても、わたしはこうなる
竹神チエ
記者会見場はこちらです。
パシャッ パシャッ
カメラのシャッター音がしている。
司会者がマイクのテストをしたあと口火を切る。
「えー、このたび『KAC2022 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2022~』9回目のお題は『猫の手を借りた結果』です」
おぉ。どよめく記者席。
「その点につきまして、T子さんから言い訳したいことがあるというのでお集り頂きました。質問は挙手にてお願いいたします。カメラのフラッシュはお控えください」
そしてT子さんが記者会見場に入る。
パシャパシャパシャ
T子さんはトラのかぶり物を装着していた。
T子さんがお辞儀をすると、シャッター音が鳴り乱れた。
T子さんはゆっくり顔をあげ、パイプ椅子に腰を下ろした。
パシャパシャパシャ
「では質疑応答を始めたいと思いますが、その前にT子さんから一言、皆さんにあるようです」
T子さんは、マイクを手にする。
その手は猫の手を模したのか、トラの手を模したのか。やはりここはお題に絡めて猫の手ということにしよう。そんなふっくらした手袋をはめている。手のひら側にはちゃんと肉球模様もあるようだ。
「……このたびはお忙しい中お集りいただき……ボソボソボソ……猫好きとしては何とかしようと試みたのですが……グチグチ……このような会見を開きましたことお詫び申し上げます」
パシャパシャパシャ
記者1「なぜトラのかぶり物なんですか?」
T子「寅年だからと虎柄のシャツでお題に応募いたしましたことが関係しております」
記者1「身元を隠そうとしているんじゃありませんか」
司会者「質問はひとりにつき、ひとつにしてください」
記者2「お題を知り、少しは何か考えたんでしょうか」
T子「猫がお題に出たので、もう虎柄のシャツがくることはないな、と。そう思いました。だってトラも猫みたいなものですから」
パシャパシャ
ざわざわ……
記者3「締め切りぎりぎりまでネタを考えようとは思わなかったんですか」
T子「はい、思いませんでした。猫の手を借りた結果、良からぬことが起こった、という場合もあるでしょうし、そうならなかった、という場合もあるでしょう。そういう話がぼんやり浮かびましたが、とても書く気力がなく……」
たくさんの記者「不誠実だとは思いませんか!! KAC関係者に謝罪してください!!!」
パシャパシャパシャ
パシャパシャパシャパシャ
T子さんは何も言わず黙っている。
司会者「申し訳ありませんが、600字を大幅に超えたので、これにて会見は終了いたします」
逃げるように会場をあとにするT子さん。
その会見を見て、わたしは思いました。あと2回、大丈夫だろうか、って。
【KAC20229】猫の手を借りても、わたしはこうなる 竹神チエ @chokorabonbon
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