突然異世界転生って流行り病に罹ったら仲間が使えなくて猫に頼った話

緋雪

要するに、猫とかに手を借りた話。

 普通に寝たはずなのに、気がついたら森にいて、気がついたら装備とか結構しっかりしていて、どうやら、俺は、今流行りの「転生したら勇者でした」とかの世界に迷い込んだらしい。まあ、流行りもんだからな。インフルエンザに罹ったようなもんか。


 それにしても。そんなものになる気は1ミリもなくて、なんで俺が何かわけのわからんモンスターとかファンタジーな奴らと戦わなければいけないのか意味がわからんし。そもそも、俺のゲーム歴は●ラクエⅦの途中で終わったようなもんだし、アニメも漫画も全然興味がない。だって40代だぞ? 人選を誤ったとしか思えない。


 ステータスとかさ、わかるんじゃないの? どっか見れば。ほれ。四角いやつ出た。お。意外と進んでるんだな、俺。寝て起きたらLv31とか凄いんじゃなかろうか? いや、そもそもレベルの比較対象がないから、これが果たして強いのやらどうなのやら?

 ん……? 仲間? ほお。何匹か、モンスターを仲間にしてるらしい。って、スライム!

最弱の王スライム! ……他には? ……? うさぎ? ……うさぎって何やねん? あとは、リス、スズメ、猫……。全部拾ったところに置いてこい、俺。


 あ、でも、魔法のとこに、「巨大化」とかあるな。こいつら、巨大化したら使えるのかも……。

 俺は巨大化したリスを想像して、頭が痛くなった。



 暫く歩くと村があった。こういう時、どうするんだっけ? あ、聞くのか。何をだ? 「どうしたら俺は元の世界に戻れますか?」そんなこといきなり聞いても情報ないんでしょ、どうせ。


 その辺の人に聞く。「あーいそがしい、いそがしい」とか「知らないねえ」とか、関係ないことばっか、聞いてもないのに喋ってくる。こいつら、俺のゲームスキルに合わせられてるな。左右に動き回ってるだけだし。


 ここで得られた有益な情報は、方角と、「ラスボスでかいらしい」ということだけだった。でかいのか。ま、大抵でかいけどな。



 北の森に住んでいるというので、とりあえず、スズメに偵察に行かせる。帰ってきて、チュンチュン言ってる。あるのか? イマイチ情報が不確かだが、進む。スズメが誘導している感じもするので、見つけたんじゃないかな?


 と、森が急に開けて、大きな城が現れた。

「え? ここ?」

っていうか、途中、何のモンスターにも会わなかったけど? いきなりラスボス? ラスボス倒すにはLv31、低すぎない??


 目の前には重そうな木の門。門番とかいないの? どうやって開けるのよ、ここ。ふと下を見ると、うさぎがピョンピョン跳ねている? まさか、お前?


 うさぎを巨大化してみた。そして、乗ってみた。ぴょ〜ん。門を飛び越えてしまうという斬新さ。なるほどな。うさぎの使い方がわかる。


 入口にモンスターらしきものがいた。ここへ来て、スライム以外に始めて見る。お。これはまさかの戦闘? いや、待ってくれ、戦闘経験がないので、どう戦っていいのかよくわからん。戦闘経験がないのにレベル高いとかいう設定がもっとわからんが。とりあえず剣とか振ってみる。避けられた。魔法魔法……これかな? いっぱいあるけど、カタカナの専門用語だ。いきなりわかるわけがない。これ? 使ってみたら「パーティ全員のHPが回復しました。」……いや、1Pたりとも減ってた気がしないけどな!

 最終的にスライムがモンスターと「交渉」するという、聞いたことない技で切り抜けた。スライムって、こんな使い方もできたのか。


 ラスボスを探して彷徨さまよっていると、宝箱が落ちていた。偽物の可能性とかあるけど、とりあえず開けてみるか。……開かない。鍵?? 多分、どっかでモンスター倒したりしたら手に入れることができたんだろう。さっきからモンスターに会うっちゃ会うが、社交的で「よいしょ」の上手いスライムが全部「交渉」で乗り越えてきたからな。倒してないし。困った。開かない。

 その時、俺の足を昇って、肩にちょこんと乗る、リス。……リス? お前なの? とりあえず巨大化してみた。

 「カリカリカリカリカリカリ」リスは器用に宝箱を回しながらかじる。そのうち、中身が出てきた。猫じゃらしだった。……どうしろと? 膝から崩れ落ちる俺。


 巨大リスがパタパタ動かす猫じゃらしに、猫がぴょんぴょん食いついている。そうだな。お前にとっては、宝物に違いない。まあいい。リスの使い方がわかっただけでも。



 ついにラスボスを見つけた。すっごい強そう。ヤバいだろ、こいつ、絶対Lv31で倒せる相手じゃないだろ? うち、巨大化させたとて、スライム、うさぎ、リス、スズメ、猫だぞ? 鬼退治に犬と猿とキジ連れてった桃太郎並のラッキーさがないと無理だろ。


 そんなことを思ってるうちに、ラスボスが攻撃をしかけてくる。


「バーン!!」


 うわ。ヤバっ。いきなりHP1/3になった。次の攻撃の前に、なんとかしなきゃ……。次の攻撃がいつくるかわからないのでいそいで、さっきの一つだけ偶然見つけたパーティHP全回復の魔法を探す。あれ? どこだ? 早くしないとラスボスの攻撃が……こないな。……あ、そうか、交互に攻撃ってことね。じゃあ、今はこっちのターンか。ホントに俺のスキルで止まってるな、この世界。


 いや、しかし、HP回復魔法を使い続けたとて、相手を攻撃しないと意味がないわけで、かと言って、あとの魔法は何が起きるかさっぱりわからん。さすがにスライムの交渉も無理だろうし、リスがかじるには大きすぎる。うさぎとスズメに至っては、どう使っていいのかわからない。


 「お。」


 もう一匹、使ってないのがいた。この足元でスリスリしてる奴な。こいつは爪という確かな武器を備えている。俺のへなちょこの剣から比べても絶対的に強い……と思う。多分。まあ、「猫の手も借りたい」って言うじゃないか。使い方が違う気もするけど。


 猫を巨大化してみる。


「行け!!」


 ……行かない。巨大化したとて猫は猫。我関せずとばかり、毛づくろいをしている。さて、これは、本当にピンチなのでは?


 そう諦めかけたとき、スズメが、さっきの猫じゃらしを持ってきた。

「おお、そうか。そういうことか。」

俺は、猫じゃらしをくわえたスズメを猫じゃらしごと巨大化させた。

 猫の前でそれをパタパタさせるスズメ。猫はそれを追いかけたり、ゴロンゴロン寝転んだり、遊んでくれるのがうれしくて、手当り次第その辺にあるもの抱きしめてキックキック。その辺中パリパリパリと引っ掻き回した。


 そうやって、嵐のような猫じゃらし攻撃が収まると、ラスボスはいつの間にか倒れていた。猫はというと、スズメから猫じゃらしを貰って、引っ張ったりゴロゴロしている。


「さすがは選ばれし者。約束通り、お前の願いを3つ聞いてやろう。」


 選ばれし者、何もしてないけどな。ってか、何をいつの間に約束したんだろう、俺?


 まあいいか。


「1つ目は、村への攻撃やめて。」

「2つ目は、人とモンスター、上手に共存するか、住み分けするかして。」

「3つ目は、俺を元の世界に戻して。」


 簡単に言ってみた。


「わかった。そうしよう。」


ピカッと強い光が俺の体を包む。



「ん、んん…」


気付くと俺は自分のベッドで眠っていた。

「なんだよ、夢オチかよ、ホントありがち過ぎて笑うわ。」

そう呟いて体を起こして、一気に目が覚めた。足元に猫が一匹。待て待て待て! 俺んち、猫飼ってないし!! いや……


「お前、ついてきちゃったの?」


 どうやら俺は、この見覚えのある猫を、異世界から連れて帰ってしまったようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

突然異世界転生って流行り病に罹ったら仲間が使えなくて猫に頼った話 緋雪 @hiyuki0714

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ