吾輩は作家である。最近アシスタント雇った
西城文岳
本編
吾輩は作家である。名前はまだない。
名が知れぬ作家としていつから始めているかは見当がつかぬ。常々売れないものを書いては世に出し、ジメジメした場所で暮らしている。
思いつきで設定を並べていくが上手く組めずおじゃんになったものが数ほどある。昔から設定を思いつくのが得意でも、それを並べるのは得意じゃないのだ。それ故にいくつか締切に間に合わず、作品をコンテストに出せない事もしばしば。
こんな生活を数年、バイトで食いつないでいたがまともに職に就くことを真剣に悩んでいた。
そんな中、最近アシスタントを雇った。
けれど、どう見ても猫である。どれくらい猫かというと長靴を履いた猫ほどに猫である。二足歩行で何処からかっさらったのかベレー帽を被り、今吾輩の横で作品の添削を行っている。何故猫がそんなことできるのかと大いに気になったが、それは今は些細なことだ。
「ニャー」
鳴き声まで猫だ。どうして二本立ちして文字まで読めるのに、話す言葉はしっかり猫なのだ。ペンを持ってぺしぺしと間違いを差して吾輩に言う。書き上げて直ぐには気づけないような些細なミスを教えてくれるのは非常にありがたい。
「おーよしよし。いい子だ」
「ニャーン」
そう言って頭は帽子があるので、顎を撫でてやるとゴロゴロ鳴きながら目を細めてにんまりしている。愛い奴め。
「ニャー」
一仕事終えるとあやつは目を輝かせて飯を催促して来る。
「そうかそうか、ちょっとまて」
そうして缶詰とシシャモを目の前に出す。
「どっちがいい?」
「ニャ」
あやつは両方の上に手を置いた。
「この食いしん坊め」
「ニャーン?」
だめ?と言いたげに首をかしげて聞いてくる。
売れてないというのに結局は二つともあげてしまうのは私の悪い癖だ。
「ふしゃー!」
飯を用意してる間、あやつはいつも閉め忘れたカーテンの先のキュウリに威嚇している。洗濯物を取り込んで開けっ放しだといつも威嚇している。キュウリは襲って来ぬというのに、やはり賢くても猫は猫だ。
「やはりダメか……」
今回も受賞は出来なかった。やはりここが売れない作家の限界と言う訳か。
「ニャーン……」
こやつは吾輩と一緒に書いた作品が受からず悲しいのだろうか。耳がへにゃりと垂れ下がりしょんぼりしている。こやつを見ていると簡単に執筆を辞めると言っていいものかと思う。だがこいつと食っていくにはその内限界がくるかもしれぬ。
「やはりやめるべきか?」
「ニャ!?」
そういうや否や、こやつは吾輩の膝に縋りつき首を横に振り続ける。
「やはり、お前はそう言ってくれるか……ハ、ハハハ」
こやつがどういう思いでそう答えたか分からないが、少なくとも私の味方を、夢を肯定してくれたのはこいつだけだった。
「次はお前の話を書いてみるか?」
事実は小説よりも奇なりとはいうが、こやつとの出会いを書いてみるのも悪くはなさそうだ。
「ニャ!」
だが、胸の前で腕をクロスさせてあやつは言う。
「なんでだよ?題材としてはピッタリじゃないか」
「ゲボッ!」
「うわっ!ここで毛玉吐くなよ!台無しじゃんか!」
どうやら、うちのアシスタントは緊張に弱いみたいだ。
吾輩は作家である。最近アシスタント雇った 西城文岳 @NishishiroBunngaku
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