救済

MAY

第1話

 私は、救われた。

 助けのない、出口のない、地獄だった。

 家族も友人も公的機関も、誰も私を救ってはくれなかった。

 救ってくれたのは、ただ一人、あの方だけだった。


 けれど、私が救われたことを、誰もが非難した。

 誰一人、許してはくれなかった。


 家族も友人も仕事も、何もかもが私から離れていった。

 何もかもを失った私を受け入れてくれたのは、唯一、あの方だけだ。

 だから、彼は私のヒーローだ。


 物語やアニメのヒーローのような、鮮やかなものではない。

 誰もが憧れ、悩める弱い者を救うようなヒーローなんて、この世にはいない。

 そんな存在がこの世にいるのならば、どうして私を救ってはくれなかったのだ。

 だから、万人が認めるヒーローなんていないと、私は断言できる。


 私のヒーローは、たった一人だ。

 この先も決して変わることはない。

 誰が彼を糾弾しても、全てが彼を否定しても、私は彼を信じ続ける。

 無力な私に出来ることなどたかが知れている。

 それでも、持てる全力で尽くしてみせよう。

 世界がそれを罪と呼んでも、好みが朽ち果てても、必ず。


「あのう、すみません」

 おそるおそる顔を出したのは、四月からうちで暮らし始めたばかりの女の子だ。

 下宿に暮らす子供たちは、みんな、自分の子供だと思って世話をしている。

 その中でも、彼女は格別だ。

 なにせ、あの方から、直々に頼まれたのだから。


「どうしたの?」

「学校までの道が分からなくて。地図はありませんか?」

 浄界から降りてきた彼女は、世俗に疎い。

 私に課せられたのは、この清浄さを守ることだ。


「それなら、私もついていくから、一緒に学校まで行ってみましょう」

「本当ですか? でも、ご迷惑じゃあ……」

「気にすることはないのよ。きちんと安全な道を知ってほしいもの」

「ありがとうございます」

 無垢な笑顔を見せる少女に微笑み返す。

 これまでにない重要な使命に、私は高揚していた。幸福を感じていた。

 だから、迷いはしない。

 私は最期まで、この道を進むのだ。

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救済 MAY @meiya_0433

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