第36話 甘い香水の香り~9M39ミサイルを添えて~②
「エミリヤ! 状況を確認したい! 戦況図の記載はどうなっている!?」
「今更新されている目標は4つですわ! 方位240、距離50km。方位230、距離60km。方位210、距離40km! これらは全て妨害電波を発する目標ですわ! 他に方位230、距離50に7209/50/82の目標が居ますの! こちらは戦闘機と思われますわ! 現在東南東に向け飛行中ですの!」
「確認した! 早期警戒レーダーはどうなっている?」
「ヴぁい! 方位215に妨害電波! 方位245までの範囲が真っ白だ! 現在探知できている目標はそれだけだぞ!」
「よし、確認した。連隊の防空網では探知できていない目標が潜んでいる可能性が高い。方位210から方位245に注視しろ!」
「火器管制レーダーはどうするッスか?」
「方位210に向けておけ。アンジェラ! 距離設定は50kmだ」
「あいよ!」
「ニーナ! 仰角5度から走査をする。準備しておいてくれ」
「了解......!」
「電波妨害を抜けた瞬間を狙う。誘導К誘導、К3信号起爆で射撃する」
「了解よ!」
レイラがパチパチとコンソールのトグルスイッチを弾く。何時ものふざけた言葉が飛び交う火器管制室は、今日に限り本来の緊張感ある雰囲気を漂わせている。
「ヴぉい! 目標探知! 方位205! 距離50㎞! 妨害電波を突き抜けたぞ!」
「よし! 奴ら国境を越え始めた! 目標は領空内だ!」
その様子をエレーナが見回すと、受話器に手を掛けた。
「72中隊エレーナです」
『ライーサよ......いよいよ来たわね......」
「7209の編隊は恐らくARM搭載機でしょう。領空侵犯を早期警戒レーダーで確認しました」
『こちらでも確認したわ。奴ら、山に向かって飛んでいるわね』
「もし、次に探知したら一度火器管制レーダーを照射し誘い込みます。ARMを発射しようと山を越えたら、確実に仕留めます」
『了解したわ』
「......本当によろしいのですか?」
『......』
すると受話器の向こうでライーサが少し黙り込む。だがそれ程時間を置かず、返答が返って来た。
『......やりなさい。危険と判断した目標は全て撃ち落として良いそうよ......』
「......了解しました。火器管制レーダーの使用許可と射撃許可を申請します」
『許可するわ......』
「......確認しました。全ての脅威目標に対し射撃を行います」
『......頼んだわよ』
「......はい」
受話器を戻すと深く深呼吸をして胸に手を当てる。
「久々の緊張感だ......タジキスタンとの戦闘の時を思い出す......」
「......そうねぇ」
いざ実際に戦闘機を撃ち落とすと考えると、ふと恐怖にも似た感覚がエレーナの身体を巡る。油断をすれば手が震えそうな程だ。懐かしさを感じるその感覚に負けじとキッと顔を上げ、エレーナは命令を出し始めた。
「先ずは奴らを山の影から引きずり出す! 実践モード切替!」
「実践モード切替、了解」
命令を受け、レイラは上から二番目のI-64Vパネルへと手を伸ばし、モード切替ボタンを押してБРへ切り替え実践モードにする。
「早期警戒レーダー管制官指示の下目標を追跡する! ソフィア!」
「ヴぁい!」
指示を受け目標指示マーカーを205度の反応に合わせ、PPIスコープの右下にある同期スイッチを押し込むと、右上のПЕРЕБРОСランプが緑色に煌々と光りだした。
「目標指示を送ったぞ!」
「確認したわ。火器管制レーダー同期開始」
手元のI-62Vパネルの右上についているПЕРЕБРОСランプが赤色に点灯した事を確認したレイラは、同じI-62Vパネルの中央付け根にあるスイッチをВКУ-ЦУIIの方に倒すと火器管制レーダーが指示された方位へと指向を開始した。不意に回転を始めた火器管制室により、他の管制官達の体が慣性によって僅かに揺れる。指向が完了するとレイラは早期警戒レーダー同期スイッチを戻した。
「一度火器管制レーダーを送信し目標の正確な位置を確かめる。奴はARMを装備している可能性が高い。目標を追跡したら直ちに送信を停止して停波状態で目標を追跡する。全ては追跡担当官の腕にかかっている。キーラ、アンジェラ、ニーナ、頼んだぞ!」
「了解っす!」
「がってんだ!」
「何時でも大丈夫です......!」
「こちらも準備できてるわ!」
「目標は山陰に逃げる可能性がある。手動で目標を追跡しろ! レーダーモードはスコープアウトによる失探を防ぐためワイドビームを使用する」
「ワイドビームモード、確認したわ!」
「追跡
上から二番目、レーダースコープの上部にあるI-64Vパネルのレーダーモード切替ボタン3つとその上にあるランプを確認し、一番右のワイドビームモードの青いランプが点灯していることを確認した。
「よし確認した! では、送信開始! 送信時間は6秒に抑えろ!」
「了解! 送信を開始するわ! 送信時間は6秒!」
続いて頭上へと手を伸ばし、一番上I-66Vパネルの電源投入ボタンの下にあるレーダー送信スイッチを押すと各管制官のレーダースコープにノイズと目標の反応が現れた。
「1秒......2秒......」
レイラはすぐさまI-66Vパネルの真ん中にある時計へと目を移すと送信時間を口ずさむ。それと同時に、左手で送信ボタン横にある送信停止スイッチに指を添えてすぐに押せるようにしていた。
「よし、ドンピシャっす! 方位追尾中ッス!」
「......捉えた! 仰角追尾中!」
「おっしゃこっちも捉えたぜ! 距離追尾完了!!」
「6秒経過! 火器管制レーダー停波!」
添えていた指を押し込み、6秒丁度で火器管制レーダーを停波した。その直後にI-66Vパネルの下にあるI-64Vパネルへと視線を落とし高度と視線速度を読み上げる。
「高度5km! 視線速度200m/sよ!」
「よし、では各管制官はハンドルを今の位置で保持! 絶対に動かすなよ!」
SA-2Eの追尾管制官が使うレーダー操作ハンドルは左右に45度ずつ回転するようになっており、回した角度、向きに応じてレーダーが指向する。より深く回せば早く旋回し、浅く回せばゆっくり指向する。直進する目標に対してはそれを利用し、一度照射し追跡した際のハンドル位置を維持する事によってレーダー波を送信していなくても目標の追跡を維持することができた。
「15秒経過したわ!」
「よし、再確認する! 火器管制レーダー送信! 送信時間は6秒!」
「レーダーを送信するわ! 送信時間6秒了解!」
15秒後に再びレーダーを送信する。一度送信したら間隔を置き、一回の送信を6秒以内に抑える事によってARMのロックオンを回避する。発射後ロックオンができないARMは短時間の照射ではシーカーがロックオンできずミサイルを発射する事ができないのだ。
「方位修正完了ッス! 方位の変化量が減少したッス!」
「仰角修正......! 少しだけど仰角が上がってた......!」
「距離修正したぜ! かなり近づいてる! 距離35km!」
「高度5km! 視線速度280m/sよ!」
「再度火器管制レーダーを捕捉しようと機首を向けたな! 食いついたぞ!」
視線速度が上昇したということはレーダーから遠ざかるように旋回したか接近するように旋回したかのどちらかだ。高度は変わらず仰角が上がっているので接近中と判断できる。遠ざかれば逆に仰角が下がる。
これらの情報を元に、ARMを発射しようと山影からSAM陣地に向けて目標が旋回した事を確認したエレーナはミサイルの発射準備を指示する。
「ミサイルの発射体制を
「ミサイル発射体制
「ランチャー同期開始」
「ランチャー指向中よ!」
指示を受けたレイラが手慣れた手つきで号令を聞き終わる前にパチパチとスイッチを切り替えていく。6基のランチャーに装填された6発のミサイルが同時にオーバーヒートするのを避けるため、1~3番ランチャーのみ発射体制にしてジャイロのスピンアップを開始した。
その後同じパネルのランチャー同期スイッチを押し込むと、未同期を知らせるオレンジ色のランプが消灯すると同時にランチャーが指向を開始し、I-62Vパネルの方位角インジケーターのランチャー指向角を示す赤い針が火器管制レーダー指向角を示す黒い針と重なる。
「ランチャー同期完了、確認したわ!」
「相手は戦闘機だ。誘導К誘導、信管はК3信号起爆、設定は接近中に」
「誘導К誘導、К3信号起爆、設定接近中、確認したわ!」
戦闘機と思われる目標なのでミサイルの発射を検出すると急降下しながら回避機動をする。その為
「よし、確認した。今回はARMの脅威がある。着弾
「レーダー停波射撃、了解!」
「最終確認!」
「最終確認......よし、ミサイル発射準備完了!」
ミサイルを発射する瞬間には火器管制レーダーの照射は必要ないが、命中25秒前には火器管制レーダーの送信を開始しなければ、誘導の誤差が増え命中精度の低下を招く。その為SA-2Eには命中25秒前である事を知らせる25секランプが火器管制コンソールのレーダースコープの上部に搭載されている。それを目安に火器管制官はレーダーの照射を開始するのだ。
「最終にもう一度目標位置、命中予定位置を確認する。火器管制レーダー送信」
「エンベローブオン、火器管制レーダー送信開始、了解!」
発射前に目標の位置を確認する為もう一度火器管制レーダーを送信した。レイラがレーダースコープの下についているε пр.п βスイッチを左に切り替えスコープにエンベローブを表示させる。命中予定位置は射程圏内に収まっているようだ。
「おっけい! 方位変化なしッス! 目標追尾中ッス!」
「仰角は少しずつ上がっている......修正完了......! 追尾中!」
「距離の変化量も変わらずだ! 距離25km!」
「目標射程圏内!」
「よろしい。送信停止」
「送信停止、確認!」
「ではミサイルの発射に移る。安全装置解除」
「安全装置解除を解除するわ!」
レイラは急いでI-64Vパネルの安全装置に被さるガラスに指をかけ引っ張ると『パキッ』という音ともに二つに割れ、露わになった3つのスイッチを『パチパチパチ』と全て跳ね上げた。
「安全装置解除、確認!」
「確認した」
するとエレーナは深い深呼吸を挟み、号令をかけた。
「警報」
「警報を鳴らすわ」
I-64Vパネルの警報スイッチを上に倒すと、聴きなれたけたたましい警報が鳴り響く。
《ゥゥウウウウウウウウウウウウウウ......!》
エレーナの耳をつんざく警報。聞きなれた管制官にとってはただ不快なだけであったが、この日の警報は何時もとは違って聞こえているようだ。今日の警報は不快感ではなく、緊張感を煽っているように感じる。
「............」
「......エレーナ?」
何時もならテンポよく発射命令が来るはずが、今日は間があった。僅かな時間ではあったが、火器管制室を警報のけたたましい音が支配する。その支配を打ち破るように、意を決したような大声の号令が再び火器管制室に響き渡る。
「1番ランチャー発射!」
「1番ランチャー発射!!」
レイラが3っつ並ぶ発射ボタンの内、一番左のボタンを押し込んだ。
《シュゴゴゴオオオオオオオオオオオォォォォ......!!》
何時もの轟音が聞こえる。何時もの火薬の香り。だが今日のミサイルは演習目標ではなく、戦闘機へと向かい飛翔していく。
「2番ランチャー発射!」
「2番ランチャー発射!」
1発目のミサイル発射から6秒後、ミサイルの誘導電波の干渉を防ぐ為の安全装置が解除されたのをランプで確認し、エレーナは2発目のミサイルの発射を命じた。復唱したレイラが真ん中の発射ボタンを押し込むと、遠のくミサイルの飛翔音を新たな爆音が上書きする。火薬の匂いが広がり、ロケットブースターの煙が漂う空間をもう一発のV-759ミサイルが切り裂き飛んでいく。
「初弾発射から10秒経過! 25секランプの点灯を確認!」
「火器管制レーダーの送信を開始! 同時に"秘密兵器"を起動させろ!」
「火器管制レーダーの送信を開始するわ! "秘密兵器"も送信を開始するわ!!」
レイラが火器管制レーダーの送信スイッチを押し込むと、再び目標の反応がレーダースコープに現れる。それと同時に火器管制コンソールの横にある取って付けたようなスイッチボックスのトグルスイッチを倒した。
「......!! この反応は!?」
レイラがレーダースコープに視線を戻した次の瞬間、目標が二つに分かれ、離脱するようにもう一つの反応がスコープアウトした。
「目標からのARMの発射を確認!」
「早いな......火器管制レーダーではなくミサイル誘導電波をロックオンしたか」
「目標の旋回を確認! 同時に急降下しているわ!」
「遅い! ミサイルは撃たれないだろうと高を括っていたな! これなら山影に隠れる前に着弾が期待できる!」
「К3信号起爆の設定を離脱中に変更したわ!」
「確認した!」
「ヴぉい! ARMはどうするんだ!? 必中距離だゾ!?」
「大丈夫だ! 秘密兵器がある! こちらのミサイルの起爆を確認したら即座に火器管制レーダー停波!!」
「了解よ!!」
「信用できねぇ......こんな所で死にたか無いぞ! 本当に大丈夫なのか!?」
「そうッス! まだ自分にはやるべき事が残ってるッス! 死にたくないッス!!」
「心配するなアンジェラ! キーラ! 装備を信用できないなら私を信じろ!!」
「ヴぉぉぉ!! 大丈夫なのか!? 本当に大丈夫なのか!?」
「......大丈夫。私は隊長を信じる......ARMは......当たらない......!」
「わたくしも隊長を信じますわ!」
「......ああクソッ! わぁったよ!! 隊長を信じればいいんだろ!?」
「ああ、大船に乗ったつもりで構えていろ!」
「そうよ。アレがあれば絶対に当たらないわ。信じなさい」
「......ヴぉぉ......」
するとエレーナはソフィアが震えているのに気が付いた。以前のARM攻撃を思い出しているようだ。ソフィアの肩にエレーナが手を置いて
「心配するな。私がついている」
「エレーナ......」
「間もなく命中よ!」
その声に反応し、火器管制パネルのレーダースコープに目を向ける。すると目標と重なり拡散する反応がレーダーに表示される。
「初弾の起爆を確認!!」
「確認した! ど真ん中に行ったな! 撃墜は確実だろう! 火器管制レーダー停波! 二発目は誘導を放棄する!!」
「了解よ! 火器管制レーダー停波!!」
レーダーの停波を命じたエレーナは火器管制室の入り口に急いで移動し、体を乗り出しARMが向かってくる方向の空を睨む。どんよりとした空にはミサイルの飛翔した煙がゆっくりと流れており、その奥で火達磨に包まれ落下する敵機が見えた。
その光景にエレーナは安堵の声を上げたくなったが今はそれどころではない。他のSAM要員にARMの着弾を知らせる為エレーナが大声で叫ぶ。
「ARMが来るぞ! レーダーの近くに居る奴が居たら即刻退避しろ!!」
その叫びを聞いたアンジェラが覚悟を決めたようにそっとニーナの手を握った。
「......おい、ニーナ。私の代わりに神に祈ってくれないか?」
「......Господи Иисусе Христе, Сыне Божий, помилуй мя грешную.(主イエス・キリストよ、罪人なる我を憐れみ給え)」
「大丈夫......大丈夫......大丈夫......」
ニーナがアンジェラの手を両手で握り返して神に祈りを捧げる。ソフィアは震えながら『大丈夫』と何度も自分に言い聞かせながらも、PPIスコープからは目を離さず己の責務を全うしようと必死にPPIスコープに食らいつく。それを横目で確認したエレーナは再びARMの方角を注視した。
「着弾に備えろ!」
エレーナが大声で叫んだ瞬間、高速の飛翔体が火器管制レーダーの直上を掠めると同時に、爆音が轟いた。
《ドッシュゥゥゥゥォォォォォォォォ.......》
マッハ3を超えるARMが通過するのと同時に衝撃波が身体を打ち、それまで聞こえなかったARMの飛翔音が聞こえる。弾体が見えたと思った瞬間には通過して視界から消えた。エレーナが振り返った直後、耳をつんざくような警報を掻き消すほどの轟音が響き爆発による衝撃波が再び身体を打つ。
通り過ぎたARMはSAM陣地の後方、幾ばくかの装備品が置かれた空き地に着弾し、大きなクレーターを1つ形成した。
「目標の撃墜とARMの回避に成功したぞ!!」
ARMの着弾を確認したエレーナは火器管制室の中に体を引っ込め、皆に向かい叫ぶように報告すると、強張って固まっていた全員が安堵のため息をつき一気に緊張が解れる。
「マジか......本当に回避しやがった......」
「......ヴぉぉ......生きているぞ......! あたし達、生きているぞ!!」
「......私も隊長を信じていた......だから怖くなかった......」
「自分は怖かったッス......マジで漏らすかと思ったッス......」
「あたしは少しちびったぞ......」
「隊長の事を信じていたわたくしはちっとも不安ではありませんでしたの! 貴女達ももっと隊長を信じなさいな!」
ふふん、と何故かエミリヤが自分の事のように胸を張る。
「皆もっと秘密兵器を信用しなさい?」
「あんなオモチャで何で回避できんだよ.....」
「ああ、玩具みたいでも
エレーナ達が"秘密兵器"と呼んでいたのはKRTZ-125-2M"SAM用対ARMデコイ"だ。SA-3"ゴア"用に開発された本システムはSR-2にも互換性があり、前回のARM攻撃を受けた対策としてSA-2Eと共に配備された新装備だ。
実際に電波を照射するOI-125エミッターモジュールの見た目は"箱からカウベルが生えている"ように見え、非常に頼りない見た目をしている。
OI-125エミッターは火器管制レーダーを中心に300mの円を描くように4基設置してある。今回被弾したのはその中の1つだった。
「頼りねぇ見た目してんのにスゲェんだなあれ......見直したわ......」
「もっとも、着弾すれば壊れてしまうがな」
「私達の代わりに吹き飛んじゃうものね」
「ヴぉぉぉ......対ARMデコイ......安らかに眠れ......」
「......感謝する......助けてくれてありがとう......」
「まあ逃げ出さなかっただけお前らも成長したよ。配属されて間もない頃のお前らだったら間違いなく逃げ出していただろうな」
「うっ......昔の事は忘れて欲しいッス......」
「そうだぜ隊長! あんときゃ生きるのに必死だったんだ。許してくれよ」
「あらあら、今ではそれもいい思い出じゃない?」
ふふふ、と笑いながらアンジェラとキーラを見つめるレイラがふとエレーナの方に目線を向けると怪訝な顔をしているのに気が付く。
「......どうしたの? エレーナ?」
「......着弾したARMは一発だ。それにあの弾体の大きさと速さだ。撃たれたのはKh-58で間違いないだろう。あのデカ物は胴体下部に一発だけ装備できる代物だ。単機ならこれで打ち止めとなる。しかし......」
「......7209の編隊は2機編成だったわね」
「エミリヤ、戦況図はどうなっている?」
「先程ミサイルを発射した目標は連隊でも撃墜判定を出しましたわ。でもそれ以降更新されていませんの。もう一機がどこに行ったのかは不明ですわ」
「早期警戒レーダーに反応はあるか?」
「いや、今は無いゾ。ARMを射撃しに来た奴と別れて山陰に隠れたみたいだゾ」
「......ふむ、逃げたか。それとも......」
行方をくらませたもう1機に関して議論をしていると再びソフィアが声を上げた。
「......ヴォイ! 新たな反応があったぞ! 方位290、距離45km! 2機居るぞ!」
「何だと!? 極至近距離じゃないか!」
「今までこんな反応無かったぞ!?」
「くそっ! レーダーホライゾンから飛び出してきたのか!?」
「それにしたって近すぎるわ! 高度60m以下で飛行してきたって事!?」
「ソフィア! 急いでマーカーを指向しろ! レイラ! 同期しろ! 早く!」
「わかったわ!」
「急げ! こいつやたら早いゾ! 現在距離40km!」
「まずい......15㎞を切れば撃てなくなる!」
「火器管制レーダー同期完了!」
「直ちに照射開始だ!」
「了解よ!」
放心状態だった管制官達が慌ただしくコンソールに向かい直る。レイラが同期スイッチを倒し再びレーダー送信スイッチを押すと、それらしき反応が直ぐにレーダースコープに表示された。
「急いで追跡しろ!」
「方位追跡完了ッス!」
「距離追跡完了!」
「......ダメ、仰角が下がりすぎてロックしてる......! レイラ! ロック解除して!」
「分かったわ!」
SA-2では仰角が0になると物理的にレーダーにロックがかかる。これはレーダーを動かしているモーターが下限になっても電流が流れ続けて焼損するのを防ぐ為のものだ。低空の目標を追跡する際、不意に仰角を限界まで下げると度々ロックしてしまう欠点があった。この対策として使用する照準モードがあるのだが、今はそれに切り替えている余裕等無かった。
「解除したわよ!」
「......動いた! 仰角追跡完了......!」
「К3を接近中に設定! このまま撃つぞ!!」
「了解! К3信号起爆を接近中にしたわ! 発射準備完了よ!」
「よし! 3番ランチャー発射!!」
「3番ランチャー発射!!」
レイラが一番右の発射ボタンを押し込んだ。だが、何時もの轟音が聞こえてこない。ふとミサイルの準備状況を知らせるランプに目を向けると、本来光っているはずのランプが消灯していた。
「3番ジャイロオーバーヒートにより射撃不可!」
「何だと!?」
エレーナが慌ててレーダースコープを見てみると、命中予定線は既に最短射程距離を割り、点滅していた。
甘い香水の香り~9M39ミサイルを添えて~③へと続く
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