第30話 ミローノヴィチ・エミリヤ・ルドルフォヴナ①

『同志諸君! 入学おめでとう! 40倍もの競争率を勝ち抜き選ばれた諸君は、この国防省女子寄宿学校で革命的教育を受け、卒業した暁には華やかな未来が待っている事だろう!』


 壇上に上がる綺麗な銀髪を持つ少女は14歳になる学生時代のエレーナだった。彼女は屋外の広場に集まる一年生の集団に向かい声を張り上げ歓迎の挨拶をしている。マイクも無いのにその声は、120人の集団全員が容易に聞き取れる位に響き渡っていた。


『しかし! それにはまず厳しいカリキュラムを乗り越える必要があるだろう! 心して掛かれ、決して楽な道ではないぞ! 挫折を味わう事だって幾度となくあるだろう! そこで同志諸君は互いに助け合い、時に切磋琢磨しつつ友情を培い! 勉学に励んでほしい!』

(革命的教育......ねぇ。共産主義の典型的な学校、といった所かしら?)


 その演説を聞きながらあきれ顔をする少女が一人。彼女は短い金髪を頭の後ろで結びまとめている。名札には"Н・カーミラ・ニコラエヴナ"と書いてある。


『我々は誉れある我がソビエト社会主義共和国連邦の戦士達の子だ! 中には親愛なる同志より英雄の名を授かりし者を親に持つ者も居るだろう! しかし、諸君らはそれを凌駕する優秀な傑物へと成れることを忘れるな! 希望を持て! 同志諸君の努力次第で何にだってなれるのだ!!』


(....忌々しい話ですわ......)


 彼女の家系は代々軍人の家系であり、貴族階級に属する家系である。しかし男尊女卑の考えが強く、長男こそ手厚く教育が施されていたが、次女である彼女はほぼ召使いに丸投げされており、国防省女子寄宿学校に強制的に入学させられたようなものだ。この学校であれば、親から離され生活は学校によって管理される。自由時間は殆どなく、逃げ出す事すら難しいとされていた。


『以上だ! では最後に親愛なる同志と共に祖国への愛国心を示そうではないか! Ураа!!』


《Ураааааааааааа!!!!》


 エレーナの宣言に合わせてその場に居た全員が、雄たけびのように叫びを上げる。その光景はどこか異様で、狂気に塗れているようにも見えた。

 カーミラもそれに合わせ程々に声を張り上げ同じように叫びをあげている。


(家族......同志......祖国......この国でよく言われるこの言葉達なんて全部安っぽい事この上ないですわ......ほんと下らなくて.......)


『......阿保らしいですわ』


 騒音のような歓声の中、彼女は誰にも聞こえないくらいの小さな声でそう呟いた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 初日のオリエンテーションを終え、宿舎へと案内された頃には日が落ちすっかり夜になっていた。自分の割り当てられた部屋へと行くととある女性とかち合った。


『......あら? 貴女もこの部屋に割り当てられたのかしら?』

『......ええ。そうよ』


 その女性は明るい茶髪の子で落ち着きのある面立ちをしていた。どうやら同じ部屋に割り当てられたクラスメートらしい。


『まったく、ようやく家族から離れられたというのに相部屋なんてついてないですわ......』

『......ふぅん? 貴女もその口なのね?』


 正直クラスメートに興味が無かったカーミラはわざと憎まれ口を叩いたつもりだったが意外と好印象を与えてしまったようだ。その様子を見てため息をつきながら部屋に入ると小さな部屋に箪笥とベッド、小さな机と椅子が二つ並ぶ簡素な部屋だった。


『......まるで豚小屋のようですわ』

『......それでも実家より遥かにマシよ』


 一々同調してこようとする彼女にカーミラは少し嫌悪感を感じ、なるべく関わらないようにする為そそくさと荷解きを始めた。


『......何よ、つれないわね。これから一緒に暮らすのよ? 仲よくしようとは思わないわけ?』

『......友達なんて下らないですわ。どうせ私の事を考えている連中なんてわたくしの家柄が目当ての連中だけですの』

『へぇ? じゃあ私と同じね』

『......はぁ? わたくしと貴女が同じなわけないでしょう? 貴女がわたくしの何を知っておりまして?』

『......確かに、まだ何も知らないわ』

『じゃあ黙っていて頂戴』

『............』


 エミリヤに一蹴されたその少女は少し悲しそうな顔をして腕を組み、壁に寄り掛かった。


『......でも貴女から同じ香りがするのよ......家族からの愛をあまり受けていない香りだわ......』

『......さぁ? どうかしらね......』

『......ねぇ、名前を教えて頂戴? これから一緒に暮らすのだもの。名前を知っておきたいわ』

『......名札に書いてありますわ。そんな貴女こそ先に名乗っては如何かしら?』

『......私はシードロヴィチ・ヤロスラーヴァ・ヴァジーモヴナよ。スラーヴァで良いわ』

『......わたくしはネストロヴィチ・カーミラ・ニコラエヴナよ。好きな呼び方で呼んで頂戴』

『じゃあミーリャと呼ばせていただくわ。よろしく、ミーリャ』

『......はぁ......程々に頼むわ』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『ホント最悪だわ! 何なのこの学校は!? 自分の時間が全くないじゃないの!』


 入学してから1年が経過した頃、ようやく慣れてきた学園生活にスラーヴァは嫌気がさしていた。それもその筈、休み時間と言えば夕食後の僅かな時間と休日だけであり、その休日も一か月に数回だけしかなく、その休日でさえ劇場や博物館への見学会が強制的に用意されていたのだ。当然、自分の時間なんてものはほぼ無かった。


『......煩いわよ......勉強に集中できませんわ』

『ミーリャ! 貴女は何も思わないの!? そこら中口うるさい教官ばかりで食事をするとき以外まるで監視されているようだわ! こんな事なら実家のほうが何十倍もマシだったわよ! 勉強が出来なければ教鞭でぶたれるし、時間に間に合わなければ皆の前で辱めを受けるし、ほんっと最悪!』

『......これよりマシなら貴女も存外いい生活を送っていたのね。わたくしは今の生活のほうが幾倍もマシですわ』

『......これがマシって......一体どんな生活を送ってきたのよ』

『......さあ? 家族からのけ者扱いされていたのは確かだわ......』

『......私もあまり興味を持たれなかったけど流石に除け者扱いはされなかったわよ? 貴女家族に何かしたの?』

『何もしておりませんわ。......何もできないから除け者にされたのですわ』

『......? どういう事?』

『......わたくしの家系では跡継ぎを残せない女性は要らない、と言う事ですわ』

『は? なにそれ酷くない!?』

『......酷くなんてないですわ。わたくしの家系はそれが普通なのよ......だから分かりもしない部外者がわたしを憐れむのは止めてほしいですわ』

『......なんでそんな悲しいこと言うのよ?』

『............ほら、良いから貴女も勉強しなさい。ただでさえ貴女勉強があまりできないのでしょう?』

『うっ......そう言われると何も言い返せないわ......』

『だったらひたすら勉強することね』

『何でミーリャはそんなに勉強ができるのよ? こんな退屈な事を寝る直前までしなくてはいけないなんて苦痛でしかないのに』

『......全てを忘れられるからよ......』

『ん? なんて言ったの』

『......何でもないわ。わたくしも集中したいからもう話しかけないで欲しいですわ』

『むぅ......相変わらずつれないわね』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『同志スラーヴァ! 基準点を下回るとはどういうことだ!?』


 入学してから2年程が経過しようとした頃、二人の部屋に突然教官が押し入ってきた。どうやらテストの採点結果がでてスラーヴァが赤点になってしまったようだ。


『......すみません』

『......当然の結果ですわね』


 飛び上がるようにベッドから起きたスラーヴァが教官の前に立ち、それを尻目に机に向かうカーミラが小さく呟きながら立ち上がり、スラーヴァの横に立った。


『貴様は何時も抜けておるのだ! やるべき事をやっているなら出来て当然のことだろう!? 同室のカーミラ・ニコラエヴナは学年主席になったぐらい勉強が出来ているのになぜ貴様はできていないのだ!?』

『......申し訳ありません』

『理由を聞いているのだ! 分からないなら私が教えてやる! 貴様が怠惰だからだ! 怠惰な奴にはしかるべき罰を与えねばならん! 懲罰房で教育しなおしてやるからついて来い!』

『......はい』


 すると教官は乱暴にスラーヴァの腕を引き部屋から連れ出した。それを見送り何事もなかったかのようにカーミラは机に座りなおした。


『......懲罰房がある学校なんてここぐらいですわね......ほんと、阿保らしい学校ですわ......』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 23時の就寝時間が来たため、カーミラは勉強を終えベッドに潜り込むとふと部屋の扉が開かれた。布団から顔を出し扉の方を見てみると、びりびりに破かれた服を手で押さえ、頬や腹部に痣が出来たスラーヴァが呆然と立ち尽くしていた。


『......随分酷い格好ですわね......』

『.........』

『......自業自得ですわ。ここで赤点を取ると言う事はどういうことか知っていたでしょう? 未然に防げなかったのが悪いんですのよ?』

『.........』


 カーミラが話しかけてもスラーヴァからは何の反応も無くただ立ち尽くしているだけだった。カーミラが彼女の顔を見ると、頬を一筋の涙が走ったのが見えた。


『......仕方ありませんわね......』


 それを見たカーミラはやれやれと言った様子で布団から出ると、自分のカーディガンをそっとスラーヴァの肩に掛け、タオルを手に取り部屋に備え付けてある小さな流しでタオルを水につけた。


『......ミーリャ......』


 すると背後で今にも掻き消えそうな声でカーミラを呼ぶ。


『......何ですの?』


 タオルを絞りながら振り向きもせずカーミラが答えた。


『......私......犯された......』

『.........』


 その言葉を聞いて一瞬固まったカーミラだったが、再びタオルを絞り始め、スラーヴァの元に歩み寄った。


『......私、まだ恋をした事もなかったんだよ......?』

『......』


 か細い声を出すスラーヴァの頬を流れる涙をカーミラが拭いてあげるが、何度拭いても止めどなく涙が流れ、その涙をカーミラは何度も拭う。


『......もう嫌だ......私......死にたい......』

『......』


 次第にスラーヴァが震え始め、涙の量がどんどん多くなっていき、タオルで拭いきれず床に滴り落ちていく。


『......私......居なくても......いいよね......ミーリャだって......私が居て迷惑だったよね......勉強の邪魔だったんでしょ......?』

『......そんな事......ありませんわ......』


 震えはどんどん大きくなり、涙は嗚咽交じりに激しくなり、今にも声を上げて号泣しそうだった。


『......ひぐっ........うぐっ......』

『......』


 その痛々しい姿を見てはおれず、カーミラはそっと抱きしめてあげると遂に声をあげながらスラーヴァはしばらく泣いていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『......』

『......落ち着きまして?』

『うん......』


 泣き続けたスラーヴァの目はすっかり腫れ上がり、声も掠れてしまっていた。それを抱きしめるカーミラが優しく頭を撫でてあげている。


『......仕方のない子ですわね......今日は一緒に寝てあげますわ......』

『......でも私、汚いよ?』

『......汚くなんてありませんわ。だから一緒に寝ましょうスラーヴァ?』

『......うん』

『......いい子ですわ......』

『......初めて......名前......呼んでくれた......』

『............良いから寝ますわよ』

『......ありがとう、ミーリャ......』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 教官が部屋に来たあの日以来、スラーヴァは人が変わったように大人しくなってしまった。時々窓から遠くを見つめ、暇さえあれば不満を口にしていたのに今となってはその愚痴すらも口にしなくなった。

 スラーヴァは毎日のように夕食後、懲罰房に連れていかれる。それをカーミラは見守る事しかできなかったのだが、常に彼女に寄り添って居た。朝起きてから授業中、訓練中、食事の時間に至るまでずっと傍を離れなかった。

 そんな生活を続けていたある日の事。


『同志スラーヴァ、今日は縦深攻撃ドクトリンについてして話してやろう。食事を終えたら私の部屋に来るように』

『......了解しました』


 この日も何時ものように食事を取る二人の元に教官が来て、何時ものようにスラーヴァに命令を出した。しかし、この瞬間に嫌気がさしていたカーミラの我慢がついに限界に達してしまった。テーブルに激しく手を打ち付け立ち上がると冷静を装いつつ教官に語り掛ける。


『......同志、ちょっとよろしいでしょうか?』

『......何だね同志カーミラ?』

『彼女の身体はもう限界です。これ以上の"教育"は彼女を破壊してしまいますわ』

『......お前は何か勘違いをしていないかね? 私は彼女に勉強を教えてやっているだけだぞ?』

『......同志、わたくしは貴方が何をしているか知っておりますわ。だからこそこれ以上は看過できません』

『......何だと?』

『カーミラ、良いのよ......私はまだ大丈夫よ......』

『よくありませんわ。昨日だって寝れずに朝まで泣いていたでしょう? もうあなたは壊れかけているわ』

『......いいだろう、同志カーミラ。お前の話を聞こう。食事を終えたら私の部屋まで来るように』

『......! ダメです! 連れていくなら私を連れて行ってください!』

『いいんですの、スラーヴァ。今日はあなたは部屋に戻って寝なさい......』

『......カーミラ駄目よ! 絶対に行っちゃだめ!』

『同志スラーヴァ、部屋へ戻れ。これは命令だ。従わなければ連帯責任で二人に処罰を下すが良いか?』

『......っ! でも......!』

『わかりましたわ』

『うむ。では同志カーミラ、ついて来い』

『......ミーリャ......?』

『......いいから貴女は部屋で待っていなさい』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『では、お前が知っていることを話してもらおうじゃないか?』

『はい。同志はここの所、毎日スラーヴァに性的暴行と体罰を与えていますわ』

『......』

『そして彼女は今精神的にも肉体的にも疲弊しており、今にも死んでしまいそうな程追い詰められております』

『......だからどうしたというのだ?』

『......は?』

『最初に言っただろう? 私は彼女に罰を与えているのだ。苦痛を伴うのは当然であろう?』

『......っ! しかし! 罰にしても限度というものが御座いますわ! 貴方は女性を何だと思っているんですの!?』

『ではどうしろというのだ?』

『......このような行為は止めていただきたいですわ』

『......では条件を出そう』

『条件......?』

『次の試験で同市スラーヴァが学年1位になったら考えてやろう。2位は貴様だ。そうすれば同士スラーヴァに"教育"してやる理由も無くなるからな......』

『......わかりましたわ』

『......ふん、奴は最下位なのだぞ? できるわけがないだろう?』

『......わたくしは彼女を信じております。だから絶対に1位を取らせて見せますわ』

『では精々頑張るといい。もし駄目だったらお前も連帯責任で罰を与えるが良いか?』

『かまいませんわ!』

『よろしい。では行きたまえ』

『はい、失礼いたしますわ』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それから教官がスラーヴァを連れて行かなくなり、空いた時間でカーミラは必至でスラーヴァに勉強を教えた。寝る時間を極力減らし、食事の時間も最小限で済ませ、スラーヴァもカーミラの初めての好意に答えようと必死で勉強をした。

 そして、ついに2年生最後の試験を終え、2人は結果発表の張り出しを見に行き、絶望した。


『......どういうことですの......?』

『......ミーリャが......0点......?』


 その張り出しには1位がスラーヴァになっており、最下位にカーミラの名前があった。


『ふん、優等生が見る影もないな』

『......っ! これは一体どういうことですの!? わたくしが最下位ですって!? あり得ませんわ!!』

『ふむ......だが貴様の名前が入った答案用紙は無かったぞ? 答案用紙の不提出は当然点数等与えられん』

『なっ!? 何かの間違いですわ! わたくしはちゃんと名前を記入しましたわ!』

『うーむ困ったものだな......確かめようにも答案用紙は学長に提出してしまったからな......手元にないので今となっては分からん』

『......このクソ野郎!!』

『......おっと、今のは侮辱かね? これは罰を与えねばならないな......』

『......最低......カーミラにまで手を出す気......?』

『そいつは違うな。同志カーミラは反抗的だからな。別の教官を用意してある』

『......別の教官?』

『そうだ。夕食を取る前に懲罰房に来なさい。そこで教えてやろう』

『......嫌ですの。納得のいく説明を受けるまで行きませんわ!』

『では命令だ。守らなければ更なる罰を同志スラーヴァに与える』

『......くっ! 分かりましたわ......』

『......こんな......ことって......』

『何、他の生徒も皆経験している事だ。自分だけ特別扱いされるとは思わない事だな。では、後程懲罰房で会おう』

『............』

『......ごめんなさい......ミーリャ......私のせいね......』

『......いいんですの。もしそのような行為に及んで来たようならアイツを殺してやりますわ......』

『......じゃぁさ、あいつを殺したらさ一緒に逃げない? もうこんな所には居たくないの......』

『......わたくしはそれでもかまわないけれど、貴女には家族がいますわ。もし貴女が逃げれば家族は酷い扱いを受けますのよ? その罪悪感を背負っていく覚悟が貴女にありまして?』

『......ない......多分思い詰めて自殺すると思う......』

『......でしょうね。......違う教官とやらもクズだと決まったわけではありませんわ。ここは大人しく従いましょう』

『......ごめんなさい......』

『......謝らないで頂戴。これは私のミスよ......あの時提案を受け入れた私が馬鹿だったんですわ』

『............でも......ミーリャが庇ってくれたのは......嬉しかった......』

『......いいから行きますわよ』

『......うん』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『やぁ、両同志。待っていたよ』

『......それで、わたくし達をどうする気ですか?』

『私はどうなってもいいからカーミラには手を出さないで!!』

『ん? "私は"手を出すつもりはないぞ。それよりも特別教官をお呼びしよう。どうぞ、入ってきてください』

『失礼するよ』

『......は?』

『......学長?』

『君達は優秀な生徒のようだね? 私も成績はよく目を通すからね。同志カーミラは入学当初から素晴らしい成績を修めていたのはよく知っている。そこでだ、提案があるのだよ』

『......何ですの?』

『私の元には優秀な生徒を欲しがる機関からの熱い求人が届いている。しかもまだ育ち盛りの優秀な子を英才教育したいというものだ』

『......他の機関?』

『ああ。エリートの養成所の様な所だ。そして私にはその推薦状を描く権利があってね......』

『! それでは.....!』

『うむ、"お前には"書いてやろう。だが推薦状は各学年1通迄でな......困ったもので同志スラーヴァの分が無くてな......それでは忍びない。そこでちょっとした提案があるのだよ』

『......提案?』

『うむ。私の力で同志カーミラを飛び級させようではないか。そうすれば二人分推薦状が書けると言う物だ。だがタダでという訳にはいかん。代償を支払ってもらおう』

『代償とは......?』

『同志カーミラは卒業するまで毎日私の相手をしなさい。それが条件だ』

『......わたくしが......学長の相手を......?』

『っ! 駄目よミーリャ! あなたはまだ経験すらないのよ!? 私の事は良いから推薦状はあなただけ受けて!』

『ふむ、それも良いだろう。その時は同志スラーヴァに同志カーミラが教官を侮辱した罰を背負わせる事になるが良いかね?』

『......っ!』

『......私はかまわないから! お願いだからカーミラだけに推薦状を書いてください......!』

『......わかりましたわ。わたくし卒業するまで学長のお相手をさせて下さい』

『ミーリャ!?』

『その代わり、スラーヴァの分もわたくしが受けますので卒業までスラーヴァには手を出さないと約束していただきたいですわ』

『駄目よ! それだったら私があなたの代わりになるわ!』

『良いだろう。では同志カーミラはこの話しを受けるというのだな?』

『はい。受けさせていただきます』

『嫌......やめて......』

『では脱ぎたまえ』

『......ここでですか?』

『ああ。記念すべき初めてなのだろう? 親友に見せてあげようではないか』

『嫌!! そんなの見たくない!!』

『......分かりましたわ』

『......いや......駄目よ......』


 するとシュルシュルとカーミラは躊躇なく服を脱ぎ捨て、隠しもせず学長に向かい合った。


『さぁ、やるならとっととおやりなさい、屑野郎』

『ふふ、幼いくせにいい度胸だ。だがそれもまた、良い味が出るというものだ』

『嫌......嫌ぁ......』


 すると遠慮なく学長はカーミラを貪り始める。その手が肌に触れる度、虫唾が走り全身に鳥肌が立つ。


『......では私の相手はお前だ』

『......え!?』

『......ちょっと!? どういう事ですの!?』

『ん? お前の約束は学長とのものだろう? 私はお前と約束などしていないぞ?』

『......っ! この人間の屑が......!』

『嫌だ! もうやめて!!』

『抵抗すんじゃねぇ!』

『ひっ!』


 教官が手を振り上げるとスラーヴァは一切抵抗しなくなった。それを確認してから乱暴に服を引き裂くと、教官はスラーヴァに行為を始めた。泣きじゃくりながら行為を受けるが、悲鳴のような声を時折漏らしている。


『嫌ぁ......もうこんなの嫌ぁ.....』

『......』


 その光景を横目で見ながら、愛撫を受けるカーミラは微かに呟いた。


『......男なんて.......大っ嫌いですわ......』


 その直後、カーミラの下腹部には激痛が走った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 行為が終わると、男二人は片付けを命じてさっさと出て行ってしまった。取り残されたスラーヴァはずっと顔を手で覆い泣きつづけ、カーミラは無言で服を着始めている。


『......ごめんなさい......私が勉強を疎かにしたばっかりに......』

『......謝らないで頂戴。あなたは悪くないわ。悪いのは馬鹿な男の話を真面目に聞いていたわたくしの方ですわ......』


 シャツを着たカーミラは自分の下腹部に手を当てると、未だにズキズキと痛みを感じ、険しい顔になる。


『......ほんと、わたくしは馬鹿ですわね......』

『......違う......カーミラは馬鹿なんかじゃない......』

『......ごめんなさいね......スラーヴァの事守れなかったわ......』

『......私こそ......本当にごめんなさい......』

『......だから謝らなくていいんですのよ? これは自業自得という奴よ......』

『......でも、カーミラの初めてがあんな奴なんて......』

『......そんなの下らない事ですわ』

『......っでも!』

『......これでこの学校から出られるんですのよ? だからほら、スラーヴァには笑っていて欲しいのよ......』

『......そんなの......無理よ......』

『......無理にでも笑ってもらうわ。わたくしの処女は貴女の為に捧げたんですの。わたくしの処女は決して安くはありませんのよ? だから貴女が命を懸けてわたくしに返しなさい。返し終わるまでは勝手に死んだり離れたりするのは許しませんわ』

『......』

『......黙ってないで答えたらどうかしら?』

『......うん......約束する......』

『よろしいですわ。これから貴女は私の物よ......あんな奴の所有物なんかじゃありませんわ......』

『......うん』

『......だから、ほら。いい加減泣くのをお止めなさい......』

『......うん』

『......全く仕方のない子ですわね』


 そう言うとカーミラがブラウスを座り込むスラーヴァに掛けてあげ、そっと立たせると滴り落ちた液体を置いてあったタオルで拭き取りながら呟いた。


『......まったく、本当に阿保らしい経験でしたわ......』



ミローノヴィチ・エミリヤ・ルドルフォヴナ②へと続く

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