第29話 ロシアンティーの香り~古傷に思いを寄せて~②

「しかし懐かしいな、祖国を思い出す」

「ええ。よく実家でお茶会した時にサモワールでお湯を沸かしたものね」


 カチャカチャとサモワールでお湯を沸かす準備をする二人。それを横目にエミリヤはテーブルの上にクロスを広げ、食道から借りてきたティーカップを並べている。


「私は電気式のサモワールしか使ったことがありませんわ。昔ながらのやり方だと炭火で沸かすんですのね」

「そうよぉ? 中々味わいがあるでしょ?」

「あの時は私は紅茶等興味がなくてな、キセーリ(片栗粉で固められた苺のゼリー)をお湯に溶いて飲んでいたな」


 レイラが手際よく壺のような形のサモワールのふたを開けると、タジン鍋やしゃぶしゃぶ用の鍋のように真ん中に筒があり、その周りに水を入れていく。水を8分目程まで入れると、食堂から貰ってきた火のついた炭とまだ火がついていない炭、松ぼっくりを真中の筒に入れて再び蓋をする。


「エレーナ、後はお願いするわ」

「うむ。ではブーツを借りるぞ。私のは硬くて使えないからな」

「分かったわ、ちょっと待っててねぇ」


 するとレイラが履いていた軍用ではないブーツを片方脱ぎ、エレーナに手渡した。


「あら、ブーツを何に使うんですの?」

「ん? これはこうやってだな......すまないがエミリヤ、ブーツの口を押えてくれないか?」

「? 分かりましたわ」


 不思議そうに見つめるエミリヤに見せるように、レイラが履いていたふくらはぎ程までの長さのブーツを蓋に空いた排気口に被せるとエミリヤにブーツの口を押さえさせ、エレーナは底を持ち勢いよく上下させ始めた。


「......なるほど! ブーツをふいご代わりにしているのですね!」

「そうだ。これは昔ながらのやり方でな、私も子供の頃何をやっているのか不思議がって見ていたものだ」

「ふふふ、サモワールにブーツを乗っけると中々シュールでしょ?」

「ええ、何というかとても紅茶を淹れる準備とは思えませんわ......」


 しばらく風を送っていると隙間から煙が上がってきた。


「さて、この辺りで良いだろう。レイラ、煙突を取ってくれ」

「はい、エレーナ」

「ありがとう」


 煙突をサモワールに突き刺すと、くの時に曲がった先端から煙がもくもくと上がっている。


「ではお湯が沸くまで少し待って居よう」

「そうね、茶葉は何がいいかしら?」

「うーんそうだな、ディンブラが良いな。少しスッキリしたものが飲みたい」

「分かったわ」


 それを聞いたレイラはサモワールに付属している金属製のティーポットに小さな布袋に入った茶葉を入れる。それを見ていたエミリヤが思い出したように手籠を漁り始める。


「そうですわ。今日はヴァレニエと一緒にスーシキをお持ちしましたの」


 するとドーナッツのような形をした焼き菓子を取り出した。カチカチに焼かれたスーシキには紐が通してあり、まるで首飾りのようだ。


「おお、懐かしいな。子供の頃はよく首に掛けて食べていたな」

「あらぁ、良いわね。サモワールに掛けて温めておきましょう」

「ふふふ、わたくしこれが好きで常備していますのよ?」

「確かにこれは食べだすと止まらないからな。つい手が伸びてしまう」

「わかるわぁ。ロシアでは色々な所で目にしたものね。みんな好きになるのも納得だわぁ」


 エミリヤからスーシキの輪をサモワールに引っ掛けると沸騰しているのに気が付く。煙突からの煙も落ち着き緩やかに煙が上がっている。


「お湯が沸いたようね。早速ザヴァルカを淹れるわ」

「ああ。頼む」


 ザヴァルカとは普通の紅茶の3~4倍程濃い紅茶の事だ。レイラはサモワールの煙突を外し、横に排煙用の穴が開いた輪っかを煙突の代わりに置いた。先程茶葉を入れたティーポットにサモワールについている蛇口からお湯を入れ、その輪っかの上に乗せるて保温しながら蒸らす。


「やっぱりサモワールは良いわぁ。お茶会って感じがするわ」

「そうだな、まさかキルギスでロシア式のお茶会ができるとは思ってなかったよ」

「わたくしもこんな素敵なお茶会に誘っていただいてとてもうれしいですわ」


 3~4分程蒸らした後、サモワールからティーポットを下ろし茶葉を取り出す。すると今までになく芳醇な香りが辺りに立ち込める。その間にエレーナが3つのティーカップに一旦お湯を入れ、ティーカップが温まるのを待ってからお湯を地面に捨てた。


「う~んいい香りですわ」

「確かに、ザヴァルカの香りはかなり強く香るな」

「ふふ、準備ができたわよ。皆飲みましょう」

「うむ」


 エレーナはレイラが用意したザヴァルカをティーカップに少し入れ、それをサモワールのお湯で好みの濃さで薄める。それを見てエミリヤも後に続き紅茶を作る。

 レイラは二人の様子を見ながら微笑み、最後にお茶を作ると2人に声をかけた。


「さぁ、皆お茶が入ったことですし頂きましょう」

「ああ、もう香りにそそられ辛抱たまらん。頂こう」

「わたくしも頂きますわ」


 エレーナが紅茶を口に含むと熱々の紅茶が口の中に流れ込んでくる。暑くて殆ど口に含めなかったがその芳醇な香りは何時もの紅茶より強烈に香ってくる。

 ディンブラの茶葉は香りがダージリンよりも控えめなのだが、その上品な香りがより際立ち丁度よくなる。


「おお、これは凄い香りだ。ディンブラにしたのは正解だったな」

「そうねぇ。朝にはピッタリの紅茶だわ」

「そうですわね、眠気眼が一気に目が冴えましたわ」


 各々が湯気を立てる熱々の紅茶を手に目をつぶり香りを楽しんでいる。


「さて、それじゃヴァレニエを頂こうかな?」

「ええ、是非食べてくださいまし!」

「......変なものは入れてないだろうな?」

「入れてませんわ! 一般的なイチゴと砂糖のヴァレニエですの!」

「......だと良いのだが......」


 そういってテーブルの上に出された小瓶を開け、ティースプーンで人さじ掬うと口に入れる。果肉がしっかりと残っており、ヒンヤリと舌を冷ました後大量の砂糖の甘味とイチゴの酸味が口の中を一気に埋め尽くす。

 そこに紅茶を流し込むと冷えた舌を一気に温めなおし、甘ったるくなった口の中を爽快にリフレッシュしていく。


「おお、美味いぞエミリヤ! 完璧なヴァレニエだ!」

「んふぉふっ! 嬉しいですわぁ......」

「甘いのに程良い酸味がある......これは見事ね。ラズベリーのヴァレニエよりずっと食べやすいわ」

「甘いイチゴではなくて酸味の強いイチゴを使うのがコツですわ!」

「本当に美味い......何か腑に落ちないところもあるが凄いぞ! エミリヤ!」

「あはぁん! 愛情を込めた甲斐がありましたわ! でも普通の作り方では愛情表現が足りませんの......やはり隠し味を入れるべきかしら......?」

「......それは蜂蜜とかだよな?」

「蜜であることは確かですわ。デュフフ......」

「............」

「冗談ですわ! ......ですからそのような冷酷な目で見つめられるのは止めてくださいまし! ......でもこれはこれでゾクゾクしますわ......!」

「はぁ......お前には何を言っても無駄のようだな......」

「あぁん! そんな事言わないでくださいませ! もっと罵ってくれていいのですよ!?」

「......はぁ......」


 大きなため息をつくエレーナだったが、眉が上がり口元は僅かに微笑んでいた。それを見たエミリヤとレイラは顔を見合わせ、安堵の表情を浮かべている。


「......なぁ、エミリヤ?」

「何ですの?」

「......お前はこの国を......どう思っている?」

「......」


 突然真剣な顔でエレーナが質問を投げかけた。するとエミリヤは真剣な顔になり、深く考え込んでいるようだ。


「......思い出の土地であり、親友が眠る土地ですわ。そして隊長と出会った大切な場所......ですわね」

「......そうか。なぁ、私達が出会った時にお前が引き摺っていた彼女について教えてくれないか?」

「............」


 その発言を聞き、一気に暗い顔になるエミリヤ。エレーナとレイラはこの国に来た時にエミリヤに会っていたのだ。その時にエミリヤはとある女性を連れていた。その事は深く詮索せずに居たエレーナだったが、ここの所夢に見るタチアナとその女性が重なって見え、気になって聞いてみたようだ。


「......ダメか? 無理にとは言わんから話したくなければ話さなくていいぞ?」

「......いえ、以前隊長はもっと私達を知りたいとおっしゃっていましたわ。わたくしはそれを聞いて嬉しかったんですの......でも話していいのか迷いましたわ......」

「......」

「......ですから、話を聞いてほしいですわ......本当の私を、知ってほしいんですの。ですから、私の人生の全てを今、語らせてくださいませ......」

「......そうか。ではエミリヤの人世談を聞かせてもらえるか?」

「......はい。ですがこの事は他の方々には内緒でお願いしますわ」

「わかった......もっとも今まで私達の出会いは皆には内緒にしていただろう? その点に関しては信じてくれて結構だ」

「......ありがとうございます」


 するとエミリヤは落ち着かせるように紅茶を一口口にすると重い口を開き語り始めた。


「わたくしは生まれも育ちもモスクワでしたわ。わたくしの家はとある貴族の家系でしたの。幼少期は何不自由ない生活を送っておりましたわ。そして父に強制的に国防省女子寄宿学校に入学させられましたの。わたくしの家系で生まれた女の子は、代々国防省女子寄宿学校に入れるのがしきたりでしたの」

「......そうだったのか? 全然知らなかったぞ?」

「......実は私は隊長の後輩だったんですのよ? 最もわたくしとは3つも離れているんですもの。気が付かなくて当然ですわ」

「......私も気が付かなかったわ」

「......しかし、エミリヤみたいな個性的な奴は覚えていそうなものだが......」

「二人が気が付かなかったのには理由がありますわ。わたくしが初めて隊長を見た時は国防省女子寄宿学校の入学式の時でしたの。その時、隊長は生徒代表に選ばれ全校生徒の前で歓迎の言葉を発表していましたわ。ですがその時の隊長は酷く冷酷に見えましたの。何時でも引き締まった顔をしていて、学年主席で如何にも高飛車な見た目な隊長は、わたくしは正直嫌いなタイプの女性だと思ってましたわ」

「......そうか、あの時お前も聞いていたのだな......」

「なのでわたくしは隊長に一切近づこうともせず、寧ろ避けていましたわ。そして4年生になった頃、わたくしの転機が来ましたの」

「転機?」

「ええ。当時のわたくしは成績が良く学年次席でしたわ。そして主席の子とわたくしの元にとある案件が来ましたの。『政府機関に入って通常とは違う教育を受けてみないか?』と学長から言われましたわ」

「......私の元にも来たぞ。「成績優秀な者には特別待遇として学費の免除と専門職が与えられ、明るい未来が確約される」と言われたな。だが妙な噂が流れていたのでな、私はその話を断ったのだ」

「......ですがわたくしはそれを受けてしまったんですの。主席の子も同じく受けましたわ。当時のわたくし達は、隊長も知っての通り、あの地獄のような学園から逃れる為に必死だったんですの。わたくし達はまだ14歳だというのに、既に顧問のくそ野郎に慰めものにされておりましたわ......」

「......それで逃げ出したかったのか」

「......その話を聞いた瞬間に即決で受けましたの。しかしそれは間違いでしたわ。その時に、わたくし達はいつの間にか軍属になっておりましたの」

「......同意もなしにか?」

「......ええ。強制的に親から引き離され、わたくし達が配属されたのはモスクワから遥か彼方のビシュケクの7702部隊でしたの。そこで毎日毎日、訓練という名の拷問に遭いましたわ」

「......通常の訓練ではないのか?」

「全くの別物でしたわ。午前中は基礎訓練、午後からは拷問に耐えるための忍耐力を付ける訓練、夕食後は毒物等の知識を身に着けるための座学勉強、そして夜は上官やお偉い様の夜枷でしたの......」

「......随分酷い扱いを受けたのだな......親は連れ戻そうとしなかったのか?」

「......わかりませんわ。モスクワを離れてから親の顔を見た事などありませんの。それどころか、わたくしが送った手紙が返ってきたことすらありませんわ。わたくしには兄がおりますの。親の愛情の殆どは兄に向けられていたものでしたわ。きっとわたくしが居なくなった事は、わたくしの家では大した問題にならなかったのですわ」

「......そんな事はない、と思いたいな......」

「......実際わたくしは家では除け者でしたわ。それは学校でも軍でも同じでしたわ。そして地獄の日々を送っていましたの......」

「......そうだったのか」

「......それでもわたくしは一人ではありませんでしたわ。学生時代は主席の子......スラーヴァがいましたの。彼女はわたくしの支えみたいなものでしたわ」

「......私にとってのレイラみたいなものか......」

「......そうですわ。わたくしもひどい扱いを受けておりましたが、スラーヴァはもっと酷かったんですの。彼女を指名してくる将官はサディストの極みのようなクズでしたわ。その結果、毎晩彼女はボロボロに傷ついておりましたの......」

「......」

「......そんな彼女を見ていられず、わたくしは慰めましたわ。そして次第に仲良くなっていって、とても親密な関係になりましたの」

「......親密な関係、か......」

「......それからですわ。わたくしたちは訓練課程が修了し、何も告げられないまま再び配属が変わりましたの。そして次に配属された先は......ГРУゲーエルウーでしたの」

「......GRUだと?」

「ええ。そこで私達は2人組を組まされ、任務に就くよう命令されましたわ。そして万が一に備え、私達の奥歯に人工歯とリシンが仕込まれていましたの。そしてそれは何時でも当局の指示で体内に注入できると脅されていましたわ」

「......逃げないようにする為の足枷か」

「でも結局遠隔装置等入っておりませんでしたわ。舌で蓋を起こして噛まない限り、リシンは注入されませんでしたわ。それでもあの時は恐怖から信じておりましたの。そしてわたくしたちは言われるがまま、初めての暗殺任務に就きましたわ」

「......暗殺任務?」

「その対象は隊長もよく知っていますわ......」

「......まさか......?」

「......そうですわ。ニーナ一家の暗殺任務でしたの」

「......!」

「でも結局失敗に終わりましたわ。当時KGBとGRUは獲物の取り合いのようになってしまいましたの。功を焦ったKGBが無能な工作員を送り込んだんですわ。そして事もあろうか、その工作員は対象を連れ出して逃げたんですの」

「......なんてことだ......」

「結局その時はニーナとは会わなかったのですけれども、その後街で買い物をしている時に目撃しましたの」

「......その時は一人だったのか?」

「......二人でしたわ。でももう一人は酷く傷ついていましたわ。深く布を被っていて、その隙間から見える細い腕は酷く痩せこけていましたわ.......倒れこんでいるその子を助ける為ニーナは必死に引っ張っているのを今でも覚えていますわ。とても必死な様子で......自分もマッチ棒のように細い腕をしているのに、その子をひたすら引っ張っていましたわ......」

「......それを見てお前はどうしたんだ?」

「......何もできませんでしたわ。見ているのも痛々しくて、見ない振りをしていましたの。でもそれを私達の監視役が見ていましたわ」

「......監視役が居たのか......」

「......私達は試されていたのですわ。そしてわたくし達はボロを出してしまった......その結果私達はバツとしてとある任務を言い渡されましたの......」

「......その罰とは?」

「......地雷原に潜伏する暗殺対象の捜索任務でしたわ」

「......それって......!?」

「......ええ。隊長との出会いでしたわ」

「そうだったのか......ではあの時エミリヤが引きずっていたのが......」

「そうですわ。彼女がわたくしの相棒であり、最愛の人物だったスラーヴァでしたわ......」

「......」


 すると二人の話を静かに聞いていたレイラが突然口を押え、すこし気分が悪そうにうなだれた。


「......ごめんなさい、エミリヤ......彼女の命を奪ったのは私よ......」

「謝る必要は無いわレイラ。今ならわかるもの。あなたの行いは正しかったですわ」

「......ごめんなさい......」

「寧ろ隊長とレイラに謝らなければならないのは私の方ですわ。大切な人に永遠に残る傷を負わせてしまったんですもの......」

「......何、私は気にしていない......それどころか名誉の負傷だ。お前を救ったんだからな......」

「......それはわたくしにとっては戒めですわ。そしてわたくしが隊長に人生を捧げるに足るだけの理由があるもの......ですから、一生を費やしてその傷を癒させていただきますわ......そうさせてください......でないとわたくしはその罪に圧し潰されてしまいますの......」

「......しかしそれでは私と同じになってしまう。悲しみは悲しみを生むだけだ......」

「......それでもわたくしはそうする事しか知りませんわ。ですから何と言われようとそう思い続けますわ......」

「......私はお前が命を懸けるほどの人物ではない......」

「いいえ。貴女は私の生きる理由なのですわ。この拾われた命では懸けるには安すぎるぐらいですのよ?」

「そんな事はない......エミリヤは自分を過小評価しすぎなのだ......」

「それは隊長も同じですわ......」

「......それは私も同感よ。エレーナはもっと自分を許すべきだわ......」

「......それは......できない......」

「......ではわたくしも出来ませんわ」


 そう言うとエミリヤがエレーナの肩に身を預けた。エレーナは少し驚いた様子だったが、何も言わずただ彼女を支えていた。レイラはその様子を見て少し複雑そうな表情だったが、諦めたようで少し微笑んだようだ。


「......わたくしにも隊長を救わせてください。貴女がわたくしを救ってくれたように、わたくしも貴女を救いたいのですわ......」

「......意外と私達は似ていたのだな......」

「そうなんですの? だとしたら......嬉しいですわ......」

「嬉しいのか?」

「だってわたくしの最低な人生にも意味ができるんですもの。愛する人と同じ気持ちになれる過去なんて、宝物ですわ......」

「......驚く程ポジティブな発想だな。しかし、私も少しは見習うべきなのかもしれないな......」

「でしたら手取り足取りご指導致しますので、この後ご一緒しませんか? 隊長と3時間の休憩ができるホテルに行きたいですわ。何ならわたくしの秘密道具をご用意いたしますの」

「......おい、まじめな話はどこに行ったんだ?」

「あら? わたくしは今も大真面目でしてよ? それとも今すぐここで、と言う事ですの? ......まさかレイラも混ぜて三人でですの? そ、それは流石に覚悟しておりませんでしたわ」

「ちがーう! ......全く、温度差で風邪を引きそうだぞ......」

「ぐふふぅ。その時はわたくしが全身を使って看病しますわ」

「あら、じゃあ私も混ざろうかしら?」

「......ちょっとまて、何時からレイラもそっちになったんだ?」

「冗談よ。ごく一般的な方法で看病してあげるわ」

「......何か信用ならんぞ」

「あらぁ? 残念だわぁ。せっかく私の体温で温めてあげようと思ったのに......」

「......やっぱりそっち系じゃないか!?」

「......ハッ!? もしかして!? レイラは既に隊長と......!?」

「......ふっ。一足遅かったわねエミリヤ。エレーナは既に経験済みよ?」

「へぁっ!?」

「ちょっと待て......何を言っているんだお前らは......?」

「冗談よ」

「本当であってたまるか......」

「......ほっ......」


 一時は酷く落ち込んでいた彼女たちだったが、気持ちが通じ合った後はまた仲良くお茶を飲んでいた。日もすっかり昇り、木陰に隠れつつあるテーブルを囲み笑顔を見せる彼女たちはどこか健気にも見えた。

 サモワールはまだまだ火が残っており、相変わらず煙と湯気を上げながら暖かく彼女達を見守っていた。


 ―――ロシアンティーの香り~古傷に思いを寄せて~③へと続く

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